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United Japanese tea varieties of Iratsuko(9)
宙宇るす流逆(7)
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ムサシは問題なく、滝を昇った。
問題があったのはフランシスだ。
フランシスは他の面々よりも、身体が重かった。
故に、上に昇るにつれて流れが弱くなる滝の中で、皆のように勢いをつけて上がってくるコトができなかった。
結局途中で、フランシスは崖にしがみつく形になってしまい、皆が助けてようやく、上に到達できた。
その後、衣服等を乾かすために、彼らは『瞬間凍結器』を使用した。
今はデル・ゾーネに本拠地を置く龍騎士団茶舗が、暗黒山脈の向こう側の技術を元に開発した装置だ。
片手で扱える小さな筒状の機械だが、スイッチを押すと先端から対象の物体を速やかに冷却する風が噴射される。
コレを使い彼らは“火を起こした”。エントロピー、因果律が逆流しているこの世界においては対象を“冷やす”コトで“発熱させる”必要がある。
此度の旅でジュディ以外の三名の誰かが肉体に怪我を負った際、その止血ができるようにと持ってきた装置だったが、初の使用は幸いにもというべきか、誰かの身体に対してという形ではなかった。
衣服を乾かすと、すぐさま彼らは出発した。
◇◇◇
「目的地まではもう少しだが、最後にまた市街地か……」
ムサシが呟いた。
森を抜け、またも廃墟がその光景を支配する地へ、彼らは足を踏み入れようとしていた。
「事前の予定通りよ。何も変更はないわ」
「残念ながら、この廃都に足を踏み入れた直後から攻撃を受けた思い出を鑑みるに、例え予定通りだとしても“市街地”ってのには抵抗感があるぜ」
「迂回したいのかしら?」
「できねえだろ?」
「ええ、予定通りね」
当然だった。
廃都は壁で囲まれている。入ってきた時のように、出ていくにはたった一点、東側の壁の門を抜けるしかない。
「あの、皆さん」
「どうした?」
アサヒの声にフランシスが反応する。
「僕の勘違いかもしれないんですが、何だか、地面や壁の色が濃くなっていってませんか?」
確かに、先ほどまで灰白色だった景色が少し濃くなって、より灰色じみてきていた。
ムサシが手近な廃墟の壁に顔を近づける。
「コイツは、濡れていってるな。何ともセクシーに」
ジュディも地面に触れる。地面も同様だった。
ムサシが天を仰いで言う。
「そういや、何だか空も暗くなってきた感じだが。晴れ間が塞がっていってるぜ」
と、その時、アサヒの顎に何かが当たった。
思わず手で押さえる。指で拭えるソレは、水だった。
パタパタと皆の指先や手、顎や頬にも水が当たり始めた。
そして目の前に広がっていく光景の逆再生には、皆に心当たりがあった。
雨が“昇り”始めたのだった。
問題があったのはフランシスだ。
フランシスは他の面々よりも、身体が重かった。
故に、上に昇るにつれて流れが弱くなる滝の中で、皆のように勢いをつけて上がってくるコトができなかった。
結局途中で、フランシスは崖にしがみつく形になってしまい、皆が助けてようやく、上に到達できた。
その後、衣服等を乾かすために、彼らは『瞬間凍結器』を使用した。
今はデル・ゾーネに本拠地を置く龍騎士団茶舗が、暗黒山脈の向こう側の技術を元に開発した装置だ。
片手で扱える小さな筒状の機械だが、スイッチを押すと先端から対象の物体を速やかに冷却する風が噴射される。
コレを使い彼らは“火を起こした”。エントロピー、因果律が逆流しているこの世界においては対象を“冷やす”コトで“発熱させる”必要がある。
此度の旅でジュディ以外の三名の誰かが肉体に怪我を負った際、その止血ができるようにと持ってきた装置だったが、初の使用は幸いにもというべきか、誰かの身体に対してという形ではなかった。
衣服を乾かすと、すぐさま彼らは出発した。
◇◇◇
「目的地まではもう少しだが、最後にまた市街地か……」
ムサシが呟いた。
森を抜け、またも廃墟がその光景を支配する地へ、彼らは足を踏み入れようとしていた。
「事前の予定通りよ。何も変更はないわ」
「残念ながら、この廃都に足を踏み入れた直後から攻撃を受けた思い出を鑑みるに、例え予定通りだとしても“市街地”ってのには抵抗感があるぜ」
「迂回したいのかしら?」
「できねえだろ?」
「ええ、予定通りね」
当然だった。
廃都は壁で囲まれている。入ってきた時のように、出ていくにはたった一点、東側の壁の門を抜けるしかない。
「あの、皆さん」
「どうした?」
アサヒの声にフランシスが反応する。
「僕の勘違いかもしれないんですが、何だか、地面や壁の色が濃くなっていってませんか?」
確かに、先ほどまで灰白色だった景色が少し濃くなって、より灰色じみてきていた。
ムサシが手近な廃墟の壁に顔を近づける。
「コイツは、濡れていってるな。何ともセクシーに」
ジュディも地面に触れる。地面も同様だった。
ムサシが天を仰いで言う。
「そういや、何だか空も暗くなってきた感じだが。晴れ間が塞がっていってるぜ」
と、その時、アサヒの顎に何かが当たった。
思わず手で押さえる。指で拭えるソレは、水だった。
パタパタと皆の指先や手、顎や頬にも水が当たり始めた。
そして目の前に広がっていく光景の逆再生には、皆に心当たりがあった。
雨が“昇り”始めたのだった。
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