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United Japanese tea varieties of Iratsuko(9)

宙宇るす流逆(5)

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「なんか、湿度が上がってきてねえか?」

ムサシが額を拭いながら言った。

気温はさして高くはない。むしろ涼しいぐらいだった。
“人工物へと還っていっている”森の中は、湿地帯というワケでもない。

しかし全員が、気づくとその肌に水滴と、衣類の湿りを感じていた。

「もうすぐ到着するわ」

ジュディが述べて間もなく、樹々をかき分けると滝壺が皆の前に現れた。
もちろん、普通の滝壺ではない。

高所から叩きつけられて発生するはずの水煙は、逆流して滝壺周囲の空間から滝の足元へと吸い込まれていた。
そして滝の水は、勢いよく上へ上へと昇っていく。

皆の殿を務めていたフランシスが問いかけた。

「さて、ココまできたならもうすぐだな、ジュディ。ソレで、ココからはどう進むんだ?」

「“昇る”わ」

「“登る”? この崖をか?」

「冗談。そんな時間もないし」

「……あー、俺わかったわ。なんでこんなに俺たちがビシャビシャなのかもわかってしまったわ」

「……僕もです」

ムサシとアサヒが口をぽかんと開けて言う。
フランシスも察したようだ。

「今、俺はそうではないと願っているが。だって聞いてないし」

「聞いてたら貴方たち、皆イヤがるでしょうよ」

「だってイヤだし」

「ほら、さっさと行くわよ」


◇◇◇


流石に、言いだしたジュディが最初に行くコトになった。
全員、既に滝壺に飛び込んだのかと思うぐらい、ずぶ濡れになっている。
実際、“滝から見れば”既に飛び込んだのだ。

「普通、滝に上から飛び込んだら滝の勢いで、滝壺の中で揉みくちゃになるワケだから――」

「言われなくてもわかってるわよ」

そう言い残すと、サッとジュディは滝壺に飛び込んだ。
滝の落下点に近づいていく。と、引きずり込まれるように姿が消えた。

「ジュディさん!」

思わずアサヒが声を上げる。

「大丈夫だ。今のトコロはな」

ムサシが呼びかける。
その言葉通り、数秒の後に滝の中に、ジュディの姿が現れた。
滝を昇る鯉のように、水柱の中を移動していく。

真上に到達すると、ジュディは空中に“吐きだされた”。
回転して、崖の上に降り立つ。

「ふう……ちょっと水を飲んだけど、大丈夫! さあ、続いて」

男性陣が顔を見合わせる。

「どうする? じゃんけんで決めるか」

「ぼ、僕が行きます!」

「勇敢じゃあねえか。少年に先に行かせていいのか、ムサシ?」

「おいおい、彼を少年だと見てたのか、フランシス? 俺には勇敢な青年と映ってるが」

「このアトラクションにワクワクするのはわかるけれど、できるだけ早くしてね!」

上からジュディが急かす。
アサヒが深呼吸した。
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