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テラ・ドス・ヴェルメロス(10)

地図にない王国(9)

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「どうぞ」

ハイアーマウントが碗の茶を、皆に勧める。

「……アルマージュ、ココまできて飲むのを躊躇うってーのはねぇよなぁ?」

オクルスがけしかける。

「ああいいよ! 飲んでやるよ!
ただし、まずオレからだ。皆一気に飲んじまうと、もしもってのがあるからな」

「アンタのその『もしも』ってのに、逆に具体的な根拠はあんの?」

「るせえ! オレみたいな仕事師は何でも最初に疑う必要があんの!」

レインスにもそう返事して、アルマージュは茶を取った。

水色はやや薄めだが、山吹色、赤みがさした黄色をしている。
温度も高く、飲み応えがありそうだ。つまりコレは煎茶だろう。

アルマージュは口に碗をつけて少し傾け、一口を喉に流したかと思うと、その姿勢のまま一瞬止まって、そして一気に飲み干した。

最後の一滴が喉をつたい終わると、碗を口から離しながら、ハイアーマウントをじっと見る。

「どうなんだ、アルマージュ?」

オクルスが問う。
アルマージュはソレには答えず、碗を持ってきた少年へと返すと、ハイアーマウントに言った。

「もう一杯、いいですか」

「「は!?」」

「もちろんですとも」

「美味しいんだ……」

オクルスとレインスがつっこむ。
ほぼ空気と化していたララも、ポツリと呟いた。

「何だお前! 美味かったのかよ」

「オクルス、あやまる。この味はガチの人でないとだせねえヤツだ。
生まれてこの方、ここまで美味い煎茶は飲んだコトがねえ」

「ソコまでお褒めいただくと、恐縮ですね」

「じゃ、じゃあ、皆も飲もうぜ!」

オクルスの掛け声に、アルマージュ以外の三人も茶に手を伸ばす。
水色を確認した後、香り、そして味を聞き、飲んだ。

スカッと鼻を抜けるような、しかし濃厚さを併せ持つ爽やかな香りが頭頂へと通っていった。
豊富な成分を含んでいるコトを示す瑞々しい香りでありながら、濃厚さを底上げするほんの少しの火香と、華やかさを主張するコトなく感じさせるこれまたささやかな花香。
また、揉みすぎた茶葉特有の匂いは、その透き通って激しすぎない水色が示すまま、当然のコトながら微塵もなかった。

そしてソレら香りや水色から得られる心地良い印象は、味にも同様だった。
じわりと、しかし軽やかに滋味が舌の上に広がる。そしてその後には、嫌な渋さは一切感じられないがその微弱さでもって舌の端を震わせ楽しませる僅かな渋味が。

次には、味の総体である『コク』が舌と喉をギュッと唸らせ、最後には優しく仄かな甘味と、苦しさは微塵もなく後味のキレのみを表現する苦味が、コチラに存在を感じさせまいとするかの如く素早く、そして有難く口中を吹き抜けた。

「ぐっ」

「やだコレ……」

「うっ、うま……」

オクルス、レインス、そしてララの三人は、あまり言葉になっていない感想を漏らす。

「本来の我々の製法ではなく、あなた方の製法でもって少しばかり我々流のアレンジを加え、作り上げた煎茶です。
あなた方の分類で言えば『玉緑茶』というものに近いかと」

(筆者注:玉緑茶は、主に九州地方(近年では三重などでも)で製造されているお茶。
煎茶の製法に近いが、誤解を恐れず申し上げれば、途中いくつか『揉み』の段階が少ないのが特徴的なお茶である。
ハイアーマウントが皆に淹れた茶葉は、厳密には玉緑茶ではないが、煎茶の中でも玉緑茶に近い作られ方をしたものであった)
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