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テラ・ドス・ヴェルメロス(10)

地図にない王国(8)

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『栂尾(とがのお)』は、日本語に見られる古い固有名詞の一つである。
「栂」には“ツガ”と呼ばれる、マツの一種の針葉樹という意味もあるが、ツガ自体の語源はその樹体が「継ぐ」ように伸びていくことからである。

故に、「栂尾」の語源はつまびらかではない。
しかしながら、一般にその言葉が指す地域というものが存在し、単に「栂尾」という場合は、京都市右京区の一地域を指す。

京都市右京区栂尾地域には、栂尾山高山寺が存在する。
この寺は、日本最古の茶園としても有名で、現在でも5月頃には茶の摘み取りが行われる。

また、周辺の山中にも自然に還った茶園があると推測されており、その中には高山寺の茶樹とはまた異なる、しかしコレまた日本最古の茶樹たちの遺伝資源が眠っているはずである。
栂尾地域周辺の山村には、他の地域には見られない茶葉の製造法を行っている地区もあり、その歴史的資源価値も希少である。


本作品、『カメリア・シネンシス・オブ・キョート』の「トガノオ」は、この「栂尾地域」をモデルとしている。


◇◇◇


「……いやいや、待て待て」

アルマージュがなおも食い下がる。

「『トガノオ』はさっきお前も言っただろ、地図にない王国だ」

「そうだけど?」

「『そうだけど?』じゃあねえ。
地図にないってのにも色々ある。一人二人は見たことあるけど正式な確認がされていないとか、そもそも誰かのウソや妄想とかな。
トガノオの場合は、昔はあったんだ。ソレは認める。だが無くなっちまったと“確認された”土地だ」

「ソレで?」

「お前の興奮は尊重したいが、この兄さんが名乗ってるだけって可能性は大いにあるぜ。トガノオをな」

全員の視線がハイアーマウントに向く。
ハイアーマウントは微笑みながら、目を閉じて頷いた。

「つまり、証拠ですね。皆さんが私たちに“敵じゃあない”と思わせてくれたように、私たちも皆さんにそう感じさせるに足る何かを提供すべきだと。ごもっともです」

「いや、多分そうしてほしいのは……」

オクルスが全員をキョロキョロして言う。

「コイツ(アルマージュ)だけだと思うけど」

「何だよぉ~! 仲間外れかよぉ~!」

ハイアーマウントが声を上げて笑う。

「いや失礼。しかし彼の言う事ももっともですよ、ええ。
皆さんは良い子ですね」

そう言うと、ハイアーマウントは柏手を打った。
何処からともなく小さなつむじ風が巻き起こり、すぐさまソレが一瞬だけ大きくなって、皆の目を思わず閉じさせる。

次に皆が目を開けると、ハイアーマウントより少し背が低く、また歳の頃も少し若そうな男女が、ハイアーマウントの両脇に立っていた。
二人とも、小さな四角いお盆に茶が並々と注がれた碗を二つずつ載せて、持っていた。
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