カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(9)

接近遭遇(10)

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「アレは? あの空飛ぶ“茶筌”」

「“箒茶筌”のコト?」

「ああ、アレならひとっ飛びだろ」

この世界にきてから、ツヅキも何度かは見ていた。
前の世界では魔法の箒だったトコロのモノだ。

抹茶を茶碗の湯の中に攪拌する“茶筌”。
ソレのサイズが、柄の部分が長めになってそのまま全体的に大きくなったような空飛ぶ道具が、“箒茶筌”だった。

「ココに呼べるかしら」

メイは“杖茶杓”を取りだし、宙に一振りした。
コレもツヅキが何度か見たコトがある、“箒”を呼ぶための動作だった。

何も起こらない。
箒はやってこなかった。

「無理ね」

「……としたら、ロッククライミングする? コレを?」

「いや、まさか。ウィー?」

「あいあいさー、ですぅ」

ウィーは杖を取りだすと仰々しく腕を広げてから、ツヅキとメイの背後の壁に向けてオーケストラの指揮をするように、杖を振った。
1、2、3と杖を振る。

ツヅキが振り返る。
何も見えない。

「何も」

「ありがとう、ウィー」

「どういたしまして~」

メイが壁に近づくと、手を突きだした。
メイの手が何かに当たったかと思うと、ソレが光を放った。

ソレは透明な四角い立体だった。
腰より少し高いぐらいのソレに、メイが登る。

「よいしょっと。さあ皆さんも」

「なるほど。こういう使い方もできるのか」

「コレが私の“品種香”ですから。イレギュラーな、というよりは空間魔法に特化している、と言ってほしいですけどねぇ~」

皆が最初の立体に登る。
次の立体は、立体自体のサイズは同じだったが、最初の立体の隣に少し高くズレて、配置されていた。
そのため、階段のように登るコトができた。

「こうやって、歩いて登っていくってワケね」

「あ、ありがとうございます。ウィーさん」

「お互い様ですねぇ~」


◇◇◇


扉まで中腹、という高さまで一行が昇る。
ツヅキはウィーに問いかけた。

「ウィー、コレって無数にだせるのか?」

「どう思います?」

ウィーが意地悪い顔で問い返す。

「いや、無理だと思う」

「何個だせると思います?」

「……」

なんか微かに、初対面の女性から「何歳に見えます?」と聞かれている気分だ。

「10個とか?」

「ぶっぶ~っ! 12個はだせますねぇ」

「なるほど。ゴメン」

「8個以上はちょっと本気ですねぇ。5個ぐらいなら、質感とかも自由自在ですよ」

「光を通さないようにしたりとか?」

「さっきのカーテンですねぇ。後はとんでもなく硬くしたりとかですね」

と、先頭のメイが皆を手で静止した。

一行はココまで円筒状の、まるで塔内部のような空間を、ウィーの魔法によって壁に沿って螺旋階段を作るように、時計回りで登ってきた。
メイの目は、彼らの進行方向で言うと右、つまり塔の中央に向いていた。

「どうした?」

「いや、何か見えた気がして」
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