112 / 271
シュロッス・イン・デル・ゾーネ(9)
接近遭遇(6)
しおりを挟む
「うおっ!」
鏡を抜けでて一歩め、ツヅキは大きく体勢を崩してしまった。
暗くて周囲が判別しづらいというのもあったが、一番の理由は足元が階段一段分ぐらい、下がっていたせいだ。
カップが支えてくれたが、その小柄な身体でツヅキを受け止めるには限界があった。
カップを押しつぶしてしまう前に、ツヅキはその背後の本棚に手をついた。
「あ……ごめん、カップ」
「い、いえっ。わ、私もや、役に立つどころか、じゃ、邪魔ですみません……」
「ちょっと、うるさいわよ。ウィー、やっぱり明かりをくれる?」
「了解しましたー」
メイの求めに応じ、ウィーが自らの杖の先に光を点した。
部屋がぼんやりと照らされる。
「やっぱり、『天文学と錬金術』の部屋ね」
メイが言う。ウィーが光をひらひらしながら
「何かおかしいんですかぁ~?」
「この部屋に鏡を繋げるつもりはなかったのよ、ウィー。鏡もなんだか一段、空中に繋がってしまったみたいだし。何か、この教室に変な誘引力があったみたい」
「なんだ、何か問題か?」
「いいえ、問題っていう程じゃあないわ。所詮、不完全な鏡だしね」
◇◇◇
ゆっくりとメイが教室の扉を開け、顔を覗かせた。
外はところどころ外部と吹き抜けになっている、長い廊下だった。吹き抜けからは中庭が見える。
中庭からは月の光が差し込んでいたが、廊下の先は長く、終点は真暗闇で見えなかった。
ウィーも恐る恐る顔を覗かせる。伴って、手に持った杖の光も外部に漏れ始める。
「廊下は、月の光だけで進みましょう」
ウィーは頷くと杖の光を消した。
メイ、ウィーに続き、カップとツヅキも外にでる。
「ソレで、どう例の鏡に?」
「この廊下をまっすぐ進んで、突き当たりを右。そしてまた突き当たりを右」
一行はその通り進むべく、音を立てずに歩み始めた。
他者の気配は感じられなかったが、廊下の吹き抜け部分から中庭、そして学校の二階部分を見上げた時に、ツヅキは動く物影を発見した。
ツヅキは殿だったので、一歩前のカップの肩を叩き、小声で話す。
「カップ、あそこに何か動いてないか?」
「ああ。あ、アレは見張りですね」
「学校の宿直かなんかか? 全く気配を感じなかったから、ビビったぜ」
「そ、ソレも無理ないです。あ、アレはゴーレムですから」
「ゴーレムって、石でできたロボットみたいなヤツか?」
「あ、アレはお、お茶ですけどね。だ、団茶っていう、か、固まったお茶で構成されています」
「団茶?」
「ちょっと」
メイが前から声をかける。
二人が顔を上げると、メイは人差し指を口に当てていた。そして、先を指差すとまた歩き始めた。
カップも二人を振り向くと、ウインクと笑顔を飛ばした。励ましのソレだ。
手の届く範囲が辛うじて見えるのが限界な、真っ暗な突き当たりまで進むと、メイが静かな声でツヅキに話しかけた。
「団茶は茶葉が水分を持ってるうちに、搗き固められて作られたお茶よ。飲む時にはソレを削って、削ったものからお茶を浸出して飲むの。その団茶を人型にして媒体とし、魔術稼働するように処理したものが、さっきのゴーレム」
「なんだなんだ、怒ってたんじゃあなかったのか」
「なんで私が怒るのよ。背後から音が聞こえたから心を読んでみたら、お話してるっぽかったから注意しただけよ。で、団茶についても気になってたでしょ」
「す、すみません。メイさん」
「ちっ、違うのよカップ! だから別に怒ったとかじゃあ」
「自分が今は一番うるさいぞ」
メイが自分の口を押さえる。
「とりあえず、次はコッチだな」
一行が次の突き当たりの方を向く。
進み始める前に、メイがカップに話しかけた。
「さ、さっきの解説で、団茶とゴーレムについては合ってたかしら?」
「え、ええ! ひゃ、百点満点でした!」
「ごめんなさい。解説の機会を奪ってしまって」
「ぜ、全然です」
「へぇ。メイさんともあろうお方が、カップさんに対してそんなコトを気になさっていたんですか」
ツヅキが茶化す。ウィーも便乗した。
「お嬢さまもそんな心があったんですねぇ」
「な、何よ。ウィーもしみじみ言うのやめてくれる?」
鏡を抜けでて一歩め、ツヅキは大きく体勢を崩してしまった。
暗くて周囲が判別しづらいというのもあったが、一番の理由は足元が階段一段分ぐらい、下がっていたせいだ。
カップが支えてくれたが、その小柄な身体でツヅキを受け止めるには限界があった。
カップを押しつぶしてしまう前に、ツヅキはその背後の本棚に手をついた。
「あ……ごめん、カップ」
「い、いえっ。わ、私もや、役に立つどころか、じゃ、邪魔ですみません……」
「ちょっと、うるさいわよ。ウィー、やっぱり明かりをくれる?」
「了解しましたー」
メイの求めに応じ、ウィーが自らの杖の先に光を点した。
部屋がぼんやりと照らされる。
「やっぱり、『天文学と錬金術』の部屋ね」
メイが言う。ウィーが光をひらひらしながら
「何かおかしいんですかぁ~?」
「この部屋に鏡を繋げるつもりはなかったのよ、ウィー。鏡もなんだか一段、空中に繋がってしまったみたいだし。何か、この教室に変な誘引力があったみたい」
「なんだ、何か問題か?」
「いいえ、問題っていう程じゃあないわ。所詮、不完全な鏡だしね」
◇◇◇
ゆっくりとメイが教室の扉を開け、顔を覗かせた。
外はところどころ外部と吹き抜けになっている、長い廊下だった。吹き抜けからは中庭が見える。
中庭からは月の光が差し込んでいたが、廊下の先は長く、終点は真暗闇で見えなかった。
ウィーも恐る恐る顔を覗かせる。伴って、手に持った杖の光も外部に漏れ始める。
「廊下は、月の光だけで進みましょう」
ウィーは頷くと杖の光を消した。
メイ、ウィーに続き、カップとツヅキも外にでる。
「ソレで、どう例の鏡に?」
「この廊下をまっすぐ進んで、突き当たりを右。そしてまた突き当たりを右」
一行はその通り進むべく、音を立てずに歩み始めた。
他者の気配は感じられなかったが、廊下の吹き抜け部分から中庭、そして学校の二階部分を見上げた時に、ツヅキは動く物影を発見した。
ツヅキは殿だったので、一歩前のカップの肩を叩き、小声で話す。
「カップ、あそこに何か動いてないか?」
「ああ。あ、アレは見張りですね」
「学校の宿直かなんかか? 全く気配を感じなかったから、ビビったぜ」
「そ、ソレも無理ないです。あ、アレはゴーレムですから」
「ゴーレムって、石でできたロボットみたいなヤツか?」
「あ、アレはお、お茶ですけどね。だ、団茶っていう、か、固まったお茶で構成されています」
「団茶?」
「ちょっと」
メイが前から声をかける。
二人が顔を上げると、メイは人差し指を口に当てていた。そして、先を指差すとまた歩き始めた。
カップも二人を振り向くと、ウインクと笑顔を飛ばした。励ましのソレだ。
手の届く範囲が辛うじて見えるのが限界な、真っ暗な突き当たりまで進むと、メイが静かな声でツヅキに話しかけた。
「団茶は茶葉が水分を持ってるうちに、搗き固められて作られたお茶よ。飲む時にはソレを削って、削ったものからお茶を浸出して飲むの。その団茶を人型にして媒体とし、魔術稼働するように処理したものが、さっきのゴーレム」
「なんだなんだ、怒ってたんじゃあなかったのか」
「なんで私が怒るのよ。背後から音が聞こえたから心を読んでみたら、お話してるっぽかったから注意しただけよ。で、団茶についても気になってたでしょ」
「す、すみません。メイさん」
「ちっ、違うのよカップ! だから別に怒ったとかじゃあ」
「自分が今は一番うるさいぞ」
メイが自分の口を押さえる。
「とりあえず、次はコッチだな」
一行が次の突き当たりの方を向く。
進み始める前に、メイがカップに話しかけた。
「さ、さっきの解説で、団茶とゴーレムについては合ってたかしら?」
「え、ええ! ひゃ、百点満点でした!」
「ごめんなさい。解説の機会を奪ってしまって」
「ぜ、全然です」
「へぇ。メイさんともあろうお方が、カップさんに対してそんなコトを気になさっていたんですか」
ツヅキが茶化す。ウィーも便乗した。
「お嬢さまもそんな心があったんですねぇ」
「な、何よ。ウィーもしみじみ言うのやめてくれる?」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!
天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。
焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。
一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。
コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。
メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。
男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。
トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。
弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。
※変な話です。(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる