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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(9)

接近遭遇(6)

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「うおっ!」

鏡を抜けでて一歩め、ツヅキは大きく体勢を崩してしまった。
暗くて周囲が判別しづらいというのもあったが、一番の理由は足元が階段一段分ぐらい、下がっていたせいだ。

カップが支えてくれたが、その小柄な身体でツヅキを受け止めるには限界があった。
カップを押しつぶしてしまう前に、ツヅキはその背後の本棚に手をついた。

「あ……ごめん、カップ」

「い、いえっ。わ、私もや、役に立つどころか、じゃ、邪魔ですみません……」

「ちょっと、うるさいわよ。ウィー、やっぱり明かりをくれる?」

「了解しましたー」

メイの求めに応じ、ウィーが自らの杖の先に光を点した。
部屋がぼんやりと照らされる。

「やっぱり、『天文学と錬金術』の部屋ね」

メイが言う。ウィーが光をひらひらしながら

「何かおかしいんですかぁ~?」

「この部屋に鏡を繋げるつもりはなかったのよ、ウィー。鏡もなんだか一段、空中に繋がってしまったみたいだし。何か、この教室に変な誘引力があったみたい」

「なんだ、何か問題か?」

「いいえ、問題っていう程じゃあないわ。所詮、不完全な鏡だしね」


◇◇◇


ゆっくりとメイが教室の扉を開け、顔を覗かせた。
外はところどころ外部と吹き抜けになっている、長い廊下だった。吹き抜けからは中庭が見える。

中庭からは月の光が差し込んでいたが、廊下の先は長く、終点は真暗闇で見えなかった。
ウィーも恐る恐る顔を覗かせる。伴って、手に持った杖の光も外部に漏れ始める。

「廊下は、月の光だけで進みましょう」

ウィーは頷くと杖の光を消した。
メイ、ウィーに続き、カップとツヅキも外にでる。

「ソレで、どう例の鏡に?」

「この廊下をまっすぐ進んで、突き当たりを右。そしてまた突き当たりを右」

一行はその通り進むべく、音を立てずに歩み始めた。
他者の気配は感じられなかったが、廊下の吹き抜け部分から中庭、そして学校の二階部分を見上げた時に、ツヅキは動く物影を発見した。

ツヅキは殿だったので、一歩前のカップの肩を叩き、小声で話す。

「カップ、あそこに何か動いてないか?」

「ああ。あ、アレは見張りですね」

「学校の宿直かなんかか? 全く気配を感じなかったから、ビビったぜ」

「そ、ソレも無理ないです。あ、アレはゴーレムですから」

「ゴーレムって、石でできたロボットみたいなヤツか?」

「あ、アレはお、お茶ですけどね。だ、団茶っていう、か、固まったお茶で構成されています」

「団茶?」

「ちょっと」

メイが前から声をかける。
二人が顔を上げると、メイは人差し指を口に当てていた。そして、先を指差すとまた歩き始めた。

カップも二人を振り向くと、ウインクと笑顔を飛ばした。励ましのソレだ。
手の届く範囲が辛うじて見えるのが限界な、真っ暗な突き当たりまで進むと、メイが静かな声でツヅキに話しかけた。

「団茶は茶葉が水分を持ってるうちに、搗き固められて作られたお茶よ。飲む時にはソレを削って、削ったものからお茶を浸出して飲むの。その団茶を人型にして媒体とし、魔術稼働するように処理したものが、さっきのゴーレム」

「なんだなんだ、怒ってたんじゃあなかったのか」

「なんで私が怒るのよ。背後から音が聞こえたから心を読んでみたら、お話してるっぽかったから注意しただけよ。で、団茶についても気になってたでしょ」

「す、すみません。メイさん」

「ちっ、違うのよカップ! だから別に怒ったとかじゃあ」

「自分が今は一番うるさいぞ」

メイが自分の口を押さえる。

「とりあえず、次はコッチだな」

一行が次の突き当たりの方を向く。
進み始める前に、メイがカップに話しかけた。

「さ、さっきの解説で、団茶とゴーレムについては合ってたかしら?」

「え、ええ! ひゃ、百点満点でした!」

「ごめんなさい。解説の機会を奪ってしまって」

「ぜ、全然です」

「へぇ。メイさんともあろうお方が、カップさんに対してそんなコトを気になさっていたんですか」

ツヅキが茶化す。ウィーも便乗した。

「お嬢さまもそんな心があったんですねぇ」

「な、何よ。ウィーもしみじみ言うのやめてくれる?」
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