カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(9)

接近遭遇(5)

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「どんな感じ?」

メイがウィーとカップに問いかける。

「う~ん。お嬢さまと私がいないのにぃ、みぃんな変わりませんねぇ」

「そうじゃあなくて」

「め、メイさんがお、仰った通り、や、屋敷の電気が次々と消灯されつつあるじ、時間です」

「よし、良い頃合ね」

メイが小薮に隠れつつも、屋敷に向かって杖を振った。
遠くの屋敷の光景に重なるように、柔く色鮮やかな薄赤の光の線が空中に描きだされる。

「おい」

「大丈夫。コッチからは見えるけど、向こうからは見えない光の軌跡よ」

メイはその線を使って、計画を再整理した。

「知っての通り、私の部屋はココ。……と言っても、カップは初めてよね。ツヅキ君、あなたは私の部屋で寝たコトがあるから知ってるでしょうけど」

「え……」

「おい、カップに妙な誤解を与えるだろ」

「カップ、彼はそういう男よ。さて、目的地は当然、私の部屋。そして、例の鏡は部屋のこの辺りにある。
私の部屋にある“鏡”は三種の神器である“場重ねの鏡”のコピー品。不完全だから飛べる場所は限定的だけれど。コレで、シュナーシュトック魔法学校まで飛ぶわ。本物の“場重ねの鏡”のあるシュナーシュトックまでね」

ココで、ツヅキが問いかけた。

「なあ、ひょっとして不完全な鏡って、部屋にあった縁のあしらわれた姿見のコトか?」

「ええ、ご明察。私の部屋で寝た時に、あの鏡に触れなくてよかったわね」

「どういうコトだよ」

「触れる行為が、鏡の作動条件よ。あなたが初めて入った乙女の部屋で好き勝手に物を触る男じゃあなくて、よかったってコト」

「……」

「さあ、行きましょうか」


◇◇◇


部屋までの侵入は容易だった。
館に至るまで、及び館には三重にわたって魔術による警戒防壁が展開されていたが、元々の館の主と使用人にとっては容易く解除できる代物だった。

部屋に入る。
ツヅキにとってはデジャヴを感じる行動だった。この世界で初めて目覚めた日を思いだす。

そして部屋の隅、以前と変わらず、ソレは鎮座していた。

「さて、と。ツヅキ君から行く?」

「レディーファースト」

「言うと思った」

メイが鏡の表面を細く白い人差し指で撫でる。
その指に少し遅れて、煌めく軌跡が波紋を放ちながら鏡の表面に走った。

「じゃあ、皆さんお先に」

メイがコチラを向きながら、後ろ歩きで鏡に近づいていく。
そのまま、とぷんと鏡の中へ沈んでいった。

「どちらから行かれますぅ~?」

「じゃ、じゃあ、わ、私が行きます!」

カップがおずおずと鏡に近づき、息を吸い込んで表面へと消えた。

「息止めた方がいいの?」

「いやぁ~。関係ないですねぇ~」

そのままするりと躊躇いなく、ウィーも鏡の中へ消えた。
鏡は人が通過するたび、妖しく脈動する光の波紋を、その表面に揺らがせている。

ツヅキは、一応息を吸い込んで止めてから、臨むコトにした。
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