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南山城国(9)

忌村(7)

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「童仙さん……!」

龍之介が息を詰まらせながら言う。
童仙の肩を叩き、前方を指さした。

「空に何か、います」

龍之介以外の三人も前方を見る。
村の歪な家々の上を確認するが、目に優しくない色の空が広がっているだけだ。

「申し訳ない、龍之介殿。私には見えていないのですが、どれですか? 少し先刻より赤が濃くなった空しか……」

「童仙さん、ソレなんです」

「……わかった。わかったよ、僕には。コッチに向かってきてるね」

「童仙さん、私にもわかりました。濃くなった赤の輪郭がソレです」

遠藤とカオルも対象を視認した。その視線を童仙が慌てて追う。
迫っている敵を見つけるために。

ソレは影だった。緋色の空に、より赤い赤が、動いていた。
その輪郭の下部分は歪んだ家々に隠されているが、上端は三つの山が並んでいるような形状に、その山々の谷間に当たる部分からは細い線が弧を描いている。

山は両端が高く、その間の中央の山は少し低く見えた。
その影がググっと空を迫りだし、天球をコチラに伸びんとしている。

「わかりました……が、何かはわかりませんね」

「アレは、わかった時点で“よくないもの”ではないかな?」

ある意味で、理解が追いつかないコトに皆は感謝した。

その時、影の中央の山の上端部分に、二つの緑色の星が瞬いた。
初めて見るモノであるにもかかわらず、全員がソレを“眼”であると認識した。

カオル以外の皆が武器に手を伸ばしたが、同時にその武器が何の役にも立たないとも心底直感していた。
次の瞬間、影の両端の山がその高さを低めたと思うと、大きく左右に広がった。

その広がりは、ゆうに人の視界を超えていた。
そしてその影は、コチラに向かって“飛び立った”

何故、コレまでソレが“そうである”コトを理解できなかったかと、皆が思った。
その影は、巨大な蝶だった。いや、悍ましさから言えば蛾と言った方がいいかもしれない。

「テケリ・リ! テケリ・リ!」

恐らくはソレの鳴き声であろう音が、村中に響いた。
その音を甲高く繰り返しながら、緋色の天球を毒々しい影が“なめて”くる。

全員が息を止めて、ソレを見上げる。
あっさりとソレが通過した後も、“かげおくり”のように視野に巨大な蛾が焼きついていた。
カオルが口を開く。

「一体全体……何だったんでしょう、今のは?」

考えてもわからない問いに皆が頭を悩ます前に、村が動きだした。
歪んだ家屋を軋ませる音と、その隙間から薄ら灰色じみた白い触腕が蠢き現れ始める。

「不味い! 皆さん、アレを装着してください!」
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