99 / 287
United Japanese tea varieties of Iratsuko(8)
宙宇るす流逆(4)
しおりを挟む
敵に近づけるのは自分だけだとアサヒが気づいた時、既に身体が勝手に動いていた。
勢いをつけ、敵にタックルする。
始めこそ衝撃があったものの、ソレに続いて訪れると思っていた抵抗感は少なかった。
顔を上げると、敵がフランシスから離れて後ろ向きに窓に向かってジャンプしていた。
敵の身体が窓枠を越えると、ガラスの破片が宙に浮かんで戻り、窓を構成し直した。
そのまま敵の身体は、向かいのビルの屋上へと消えていった。
「飛び込んで入って来たってコトか……」
フランシスが呟く。
「安全じゃあなくなったというコトかしら?」
「いや、逆だろ。敵は俺たちを見つけて入って来たんだから、今は敵からすれば見つける前ってコトだ」
「そうかしら? 気づけばまだ、この部屋はボロボロだわ。弾丸が“巻き戻ってきそうな”弾痕だって山ほどある。コレから私たちが殺される。ヤツらから見れば、死んでた私たちが起き上がったのに気づいたから、今のヤツが飛び込んできたのかも」
「ちょっと待て、整理させろ」
ジュディとムサシが問答を繰り広げる。アサヒが割って入った。
「いえ、どうやら……今、僕が見つかったから、入って来たようです。敵の姿を追いかけて窓際に今、近づいた僕を向こうからさっきのヤツが見つけました」
「なるほど。つまり、お前のミスか」
「……すみません」
アサヒにムサシがキツく当たる。
ムサシはアサヒに近づくと、肩を叩いて笑った。
「冗談だよ! フランシスを助けて、敵の姿を見失うまいと思ったら敵に見つかって、フランシスが襲われたワケだ。こんな因果律は誰も読めっこないさ。頭がおかしくなっちまう」
「ムサシさん、冗談っぽくないから怖いんですよ……」
ジュディとフランシスも吹き出した。
◇◇◇
その後、隠れていたビルを出て、上手く廃墟群を利用しながら敵に見つかることなく進んだ。
廃墟が消え始め、自然物が多くなってきた。
気づくと一行は、森の中を進んでいた。人工物がほとんど、自然に還っていきつつあるような光景の森だ。
とは言え、落葉は樹々へと地面から舞い戻っている。
長い目で見れば、この森は“人工物へと還っていっている”森なのだろう。
ジュディが手のひらの上に、ホログラムのマップを投影した。
「道程の半ばまで踏破したわ。あと半分でこの廃都からも脱出できる」
「相変わらずオプティミスト(楽天主義)だな。まだ半分もあるのかよ」
「どちらにせよ歩くしかないのだから、私の思考の方がプラグマティック(実用的)でもあるわよ。実用的なのはお好きではなくて? ムサシさん」
「おっと、プラグマティストの俺にソレを言うなら、反論はあるぜ。もしも俺なら、道程についてはまだ頭の中で把握してるから、こんなトコで地図を展開して再確認したりはしないねえ。目的地の遠さを思い知らされて、意欲が削がれるだけだからな」
ジュディとムサシの討論の光景を見ながら、アサヒがフランシスに呟く。
「相変わらず、二人とも尖ってますね」
「そうか? ああいう思想の投げ合いを始めたってコトは、久方ぶりに二人とも楽しんでるってコトだぜ」
「そうなんですか?」
「ああ。アイツらは本質的には、甘噛みし合うのが好きなタチなんだよ。つまるところ、どっちもS」
「うるせえな。聞こえてるぞ、お前ら」
勢いをつけ、敵にタックルする。
始めこそ衝撃があったものの、ソレに続いて訪れると思っていた抵抗感は少なかった。
顔を上げると、敵がフランシスから離れて後ろ向きに窓に向かってジャンプしていた。
敵の身体が窓枠を越えると、ガラスの破片が宙に浮かんで戻り、窓を構成し直した。
そのまま敵の身体は、向かいのビルの屋上へと消えていった。
「飛び込んで入って来たってコトか……」
フランシスが呟く。
「安全じゃあなくなったというコトかしら?」
「いや、逆だろ。敵は俺たちを見つけて入って来たんだから、今は敵からすれば見つける前ってコトだ」
「そうかしら? 気づけばまだ、この部屋はボロボロだわ。弾丸が“巻き戻ってきそうな”弾痕だって山ほどある。コレから私たちが殺される。ヤツらから見れば、死んでた私たちが起き上がったのに気づいたから、今のヤツが飛び込んできたのかも」
「ちょっと待て、整理させろ」
ジュディとムサシが問答を繰り広げる。アサヒが割って入った。
「いえ、どうやら……今、僕が見つかったから、入って来たようです。敵の姿を追いかけて窓際に今、近づいた僕を向こうからさっきのヤツが見つけました」
「なるほど。つまり、お前のミスか」
「……すみません」
アサヒにムサシがキツく当たる。
ムサシはアサヒに近づくと、肩を叩いて笑った。
「冗談だよ! フランシスを助けて、敵の姿を見失うまいと思ったら敵に見つかって、フランシスが襲われたワケだ。こんな因果律は誰も読めっこないさ。頭がおかしくなっちまう」
「ムサシさん、冗談っぽくないから怖いんですよ……」
ジュディとフランシスも吹き出した。
◇◇◇
その後、隠れていたビルを出て、上手く廃墟群を利用しながら敵に見つかることなく進んだ。
廃墟が消え始め、自然物が多くなってきた。
気づくと一行は、森の中を進んでいた。人工物がほとんど、自然に還っていきつつあるような光景の森だ。
とは言え、落葉は樹々へと地面から舞い戻っている。
長い目で見れば、この森は“人工物へと還っていっている”森なのだろう。
ジュディが手のひらの上に、ホログラムのマップを投影した。
「道程の半ばまで踏破したわ。あと半分でこの廃都からも脱出できる」
「相変わらずオプティミスト(楽天主義)だな。まだ半分もあるのかよ」
「どちらにせよ歩くしかないのだから、私の思考の方がプラグマティック(実用的)でもあるわよ。実用的なのはお好きではなくて? ムサシさん」
「おっと、プラグマティストの俺にソレを言うなら、反論はあるぜ。もしも俺なら、道程についてはまだ頭の中で把握してるから、こんなトコで地図を展開して再確認したりはしないねえ。目的地の遠さを思い知らされて、意欲が削がれるだけだからな」
ジュディとムサシの討論の光景を見ながら、アサヒがフランシスに呟く。
「相変わらず、二人とも尖ってますね」
「そうか? ああいう思想の投げ合いを始めたってコトは、久方ぶりに二人とも楽しんでるってコトだぜ」
「そうなんですか?」
「ああ。アイツらは本質的には、甘噛みし合うのが好きなタチなんだよ。つまるところ、どっちもS」
「うるせえな。聞こえてるぞ、お前ら」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる