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バクエット・ド・パクス(8)

他国に入っただけなのに(2)

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「ほいで? どう進むんだい?」

ミサトがデル・ゾーネ中心市街に向かって歩きながら言う。
カトリーヌが答えた。

「とりあえず、このまま街の中心へ向かって進みましょう♪ 中心からは北に向かって、北の門から国外に出たら、次はU.J.Iですね~」

「観光は?」

「え?」

「観光はせんのかい?」

「ミサトさん、お気持ちはわかりますが」

ノワールが口を挟む。

「ご存知の通り、他国も先を急いでいます。ですので」

「もちろん観光しますよ♪」

「え?」

次はノワールが聞き返す。

「他国も急いでいると思いますので、急いで観光しましょう!」

「おっけー! 熱い一日になりそうだぜ……!」

ミサトが腕を組み、気合いを入れた。
呆気にとられていたノワールだったが、ブレーズにポツリと呟く。

「やっぱりこの二人、本当は似た者同士ですね」

「でも…何だか………しました」

ブレーズは微笑みながら、ウィスパーボイスで答える。

「ええ、確かに。私も安心はしました。二人の仲には、ですけどね」

「……の……ですか?」

「勿論です。他の四ヶ国全てのコトはわかりませんが、少なくとも我々に後れを取っていると断言できるのは南山城国ぐらいでしょう。他の国々の様子がわからない以上、兎にも角にも急ぐべきだとは思うのですが……」

「観光のついでに…………しては……ですか?」

「うーん。情勢ぐらいは見れるかもしれませんが、スパイというほどのコトはできるかなあ……。まあ、そうプラスに捉えましょうか」

「それに…ノワールも……したいでしょう?」

「まあ、観光したくないと言えばウソになります」

前方を歩くカトリーヌとミサトは、すっかりデル・ゾーネ市街の話題で盛り上がっていた。


◇◇◇


デル・ゾーネ市街は、大勢の人々で賑わっていた。

「うわぁ……なんか新鮮な光景」

「パクスではあまり見られない光景ですね」

ミサトにノワールが返す。

「いや、そういう意味じゃあないんだ。その、私の元いた世界でも最近は見たコトなくって」

「ミサトさんのいた世界も、パクスのような長閑な場所だったのですか?」

「いや。長閑じゃあないんだけど、ちょっと疫病というか」

「そうなんですか? そう言えばこんな話するのは初めてですけど、大変な世界だったんですね」

「みなさぁーん! こっちこっち♪」

先を行っていたカトリーヌが、遠くで手を振っている。
駆け足で近くに寄ると、カトリーヌは露店商の前に立っていたコトがわかった。

その露店商は、茶器と刀剣を前に並べていた。
どうも服装がデル・ゾーネに似つかわしくないように見える。

「らっしゃい! 嬢ちゃんのお連れかい?」

「ええ♪ 旅の仲間です」

「そうさなあ、一人一個で構わんよ。そっちの刀4本ってのはどうだい? 良ければ今日でもう、店仕舞いして帰れるんだが」

「まあまあ♪ 皆さん、コチラは南山城国で質屋を普段はやっておられる方らしいですよ~」


◇◇◇


結局、一行は何も買うコトはなかったが、カトリーヌの話術により店主が嫌な顔をするコトもなかった。
むしろ南山城国の旅団について、結構な情報を得られたのだった。

「観光、じゃあなかったんですか?」

ノワールが聞く。

「観光してますよ♪ ついでに情報収集もね」

「……です」

「ありがとうございます、ブレーズさん♪ もっと褒めてくれていいんですよ」

「ミサトさんも、最初からそのつもりだったんですか?」

「ん?」

気づけば、ミサトは両手に食べ物を抱えていた。
口にも何かほうばっている。

「ええ? いつの間に……」

「いや、だって観光っしょ。皆の分もあるよ、何食べたい?
あ。あと、デル・ゾーネの旅団もまだ出発してないっぽいよ。今まで会った人と喋った限り」

「流石です、ミサトさん! 私はコレ欲しいです♪」

顔を見合わせるブレーズとノワール。

「……………私たちも」

「負けていられないですね……!」

「ん? どった二人とも。何が負けていられないって?」



「「“観光”です!」」
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