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南山城国(8)
忌村(3)
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景色が一変した。
カオルは一瞬、視界が黒くなったかのように感じたが、そうではなかった。
視界は“朱く”なっていた。
空が朱に染まっている。
青空から緋空に瞬間的に変わったせいで、眼が色の変化に追いつくのに少し時間がかかったのだった。
「うわっ」
龍之介が思わず声を上げる。
「やはり、紋様を境に完全に世界が違いますね」
「いやはや、紋様から一歩でここまで変貌するとは驚きだね、童仙殿。“一人の人間にとっては小さな一歩だが”ってヤツだ」
「え? 遠藤さんソレって」
カオルが言いかけた時、童仙が手で皆を制止した。
「前に何かいます」
全員が童仙の視線を追う。彼らの前方には、村に繋がるであろう林道が続いている。
その林道が左に曲がり、その先が見えなくなっている地点、彼らからおよそ50m以上は離れている所に、そのシルエットは見えた。
一頭の野犬がこちらを向いて佇んでいる。
そうしているうちに、もう二頭が林道の陰から出てきた。合計三頭だ。
皆が硬直していると、一番前の犬がスンスンと鼻先を空に向けて匂いを嗅いだ。
そして小さく唸ると、他の二頭を引き連れて駆けだした!
「まずい! 外に出る気です!」
童仙が叫ぶ。紋様は効力を一時停止している。
龍之介が刀の鍔に、左手の指を当てる。童仙は既に右手の指二本を添えていた。が、
「童仙殿、ここは僕にお任せを。紋様を閉じてくれまいか?」
遠藤が申し出る。童仙は
「頼みましたぞ」
と言い、振り返って紋様に跪いた。
「龍之介殿、逃がしたら頼むよ」
「わかりました」
遠藤は羽織っているマントに隠れた、自身の背中に手を伸ばした。
次に両手が現れた時には、どちらにもソードオフショットガンが握られていた。
左を頭の横に掲げ、右を前に向ける。そのまま引き金を引いた。
散弾が犬の群れに命中する。一番前を走っていた犬は正面から弾を受け、転がった。
散弾はその両サイドを追随していた二匹にも当たったが、皮膚表面を切り裂いただけのようだ。
軽傷の二匹は、道の端と端に散開した。そのまま向かってくる。距離はもう20m程に縮まっていた。
遠藤は、次は左手のショットガンを向かって右の犬に向け、発砲した。
一頭目を撃った時よりも距離がより狭まっていたせいか、犬の頭部が派手に爆散する。
しかし左の犬はその間に、真っ直ぐに龍之介へ向かっていた。
龍之介は刀を抜くと、上体をねじって屈み込むように背中を向けた。
犬は自分に向けられたその背を見て、走るスピードをより加速した。
狙いは、龍之介の細く白い首だ。
大きく口を開けて、犬が地面を蹴った。
カオルは一瞬、視界が黒くなったかのように感じたが、そうではなかった。
視界は“朱く”なっていた。
空が朱に染まっている。
青空から緋空に瞬間的に変わったせいで、眼が色の変化に追いつくのに少し時間がかかったのだった。
「うわっ」
龍之介が思わず声を上げる。
「やはり、紋様を境に完全に世界が違いますね」
「いやはや、紋様から一歩でここまで変貌するとは驚きだね、童仙殿。“一人の人間にとっては小さな一歩だが”ってヤツだ」
「え? 遠藤さんソレって」
カオルが言いかけた時、童仙が手で皆を制止した。
「前に何かいます」
全員が童仙の視線を追う。彼らの前方には、村に繋がるであろう林道が続いている。
その林道が左に曲がり、その先が見えなくなっている地点、彼らからおよそ50m以上は離れている所に、そのシルエットは見えた。
一頭の野犬がこちらを向いて佇んでいる。
そうしているうちに、もう二頭が林道の陰から出てきた。合計三頭だ。
皆が硬直していると、一番前の犬がスンスンと鼻先を空に向けて匂いを嗅いだ。
そして小さく唸ると、他の二頭を引き連れて駆けだした!
「まずい! 外に出る気です!」
童仙が叫ぶ。紋様は効力を一時停止している。
龍之介が刀の鍔に、左手の指を当てる。童仙は既に右手の指二本を添えていた。が、
「童仙殿、ここは僕にお任せを。紋様を閉じてくれまいか?」
遠藤が申し出る。童仙は
「頼みましたぞ」
と言い、振り返って紋様に跪いた。
「龍之介殿、逃がしたら頼むよ」
「わかりました」
遠藤は羽織っているマントに隠れた、自身の背中に手を伸ばした。
次に両手が現れた時には、どちらにもソードオフショットガンが握られていた。
左を頭の横に掲げ、右を前に向ける。そのまま引き金を引いた。
散弾が犬の群れに命中する。一番前を走っていた犬は正面から弾を受け、転がった。
散弾はその両サイドを追随していた二匹にも当たったが、皮膚表面を切り裂いただけのようだ。
軽傷の二匹は、道の端と端に散開した。そのまま向かってくる。距離はもう20m程に縮まっていた。
遠藤は、次は左手のショットガンを向かって右の犬に向け、発砲した。
一頭目を撃った時よりも距離がより狭まっていたせいか、犬の頭部が派手に爆散する。
しかし左の犬はその間に、真っ直ぐに龍之介へ向かっていた。
龍之介は刀を抜くと、上体をねじって屈み込むように背中を向けた。
犬は自分に向けられたその背を見て、走るスピードをより加速した。
狙いは、龍之介の細く白い首だ。
大きく口を開けて、犬が地面を蹴った。
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