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南山城国(7)

旅立ち(4)

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「とまあ、僕がU.J.Iで知り得た情報はこのぐらいだね」

「うへえ……」

声を出したのはカオルだけだった。
龍之介は話の薄ら寒さを堪えるように肩を上げ、童仙の顔色は悪い。

「童仙さん、今の話で何か思い出せます?」

「……いえ。やはり私が思い出せるのは……私の両親のことだけです」


◇◇◇


遠藤が話をする前、童仙は言っていた。
事件が起きたのは童仙が幼少期の頃だった。

童仙村には変わった風習があった。
生まれた子供は七歳になるまで皆、童仙という名前で呼ばれるのだ。
村の名前が先なのか、それとも風習から村にその名がついたのかは定かではない。

童仙は言う。

「私はこの世に残った最後の『童仙』なのです。故に、七の年を越えてもこの名を使い続けています」

その日、童仙村では特に表立って変わったことはなかった。
しかしU.J.Iが魔術回路アノマリーを観測して、既に4時間が経過していた。

夕刻。童仙の家に、童仙の父親が勤めから戻ってきた。
いつもは働いた疲れなど全く見せず元気いっぱいに帰ってきて今晩の飯を聞く父親が、その日は何も言わずに童仙の母親に風呂の支度を頼んだ。

父は風呂に入り、中々出てこなかった。
風呂周りの支度を続けている母も同様だ。
童仙は厠のついでに様子を見に行くことにした。

風呂に着く前に、隣人が訪ねてきた。
童仙の面倒を見ることも多かった、年配の伯父だった。

「童仙! おとうとおかあはどこじゃ?」

息を切らした伯父がそう尋ねてきたので、童仙は今から風呂に見に行くところだと説明した。
伯父は童仙に待つように言い、風呂を確認しに行った。
戻ってくると、決死の表情で

「童仙、おとうとおかあは大丈夫じゃ。少しのぼせたようで納。体調もようないので湿布が欲しいようじゃ。今から隣の村の薬師のとこまで一緒に取りに行こう」

童仙は妙だなと思った。もう日も大きく陰っている。両親がそのようなことを言うだろうか?
だが、伯父の不自然だが強い気迫もあって、童仙はついていくことになった。

二人で暗い夜道を歩いていたが、眼前の樹々が徐々に黄色く照ってきていることに童仙は気づいた。
背後を振り向くと、静かに村が燃えていた。

叫びながら伯父に振り向くと、伯父は前方を睨みつけていた。
伯父の視線を追うと、目の焦点の定まっていない村人が三人立っていた。

「童仙。ここからは一人で行くんじゃ。行かんとならん」

伯父は童仙に武士道の何たるかも普段から教えていた。童仙の師も同然だった。
父母に対するそれとは違うが、大きく慕っていた人物だった。

伯父はそう言うと、眼前の三人に斬りかかっていった。
童仙はその攻防をすり抜け、先へと走った。

後ろで伯父が呻いた。
相手の三人は倒れていたが、そのうちの一人が倒れたまま伯父の脚を斬ったのだった。

「いかん! 走れ童仙! 儂はもう見てしもうた!」

燃える村に逆光となって伯父は影でしか姿がわからなかったが、その影の頭部が変形していくのを童仙は見た。


◇◇◇


「んー、まあとりあえずそしたら村を抜けましょうか」

カオルがあっけらかんと答えた。
一同は唖然としたが、遠藤が吹き出す。

「流石だねカオルちゃん。その真意は?」

「単純に近道ですしね。それに、童仙さん気になりません? 村の真相」

「それは勿論!……気になりますが。しかし、国としても禁足の村なので……」

「“まれびと”の意志でもですか?」

カオルは自分の命令がかなり大きい効力を持つことを、自覚しつつあった。
当初は一見そうでもないのかと思っていたが、それは自分が言っていなかったからだ。

実際、“まれびと”の意志は重要だった。それは実は、他の国においても同様だ。
その意志は、ある種の宗教的な効力を持っていたのだった。
しかしどの国もそのことを“まれびと”達には告げず、『表明させないことで』その効力をある程度牽制していた。

「私の意志が働く今しか、童仙さんが自分の村について知る機会はないんじゃあないでしょうか?」

童仙は戸惑ったが、彼の回転の速い頭はすぐに状況を精査した。
そして、カオルの無謀さの裏にある勇気じみた快い感情を受け取った。
故に、最後には微笑んで彼は言った。

「わかりました。負けましたよ」

「大丈夫です! 私もいますから!」

龍之介が鼻息荒く突然言った。皆は顔を見合わせると、声を出して笑った。
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