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南山城国(7)

旅立ち(3)

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9月1日。午後より聞き取り再開。

『どこまで喋りよったかいね。(聞き取り者説明)そうそう。ほんでその夜、あれが起きよったですわ。

『ありゃあ丑の刻も、もう寅に入る頃じゃった(注:午前3時頃)。上の階から物音がしたんで起きたんです。下の階のもんで顔ば見合わせて何事じゃいなと思いました。なんか物ば落ちる音で起きたんじゃが、その後も音がしよる。一番若けえミヤちゃん(注:従業員の一人。死亡確認済)が言うには、なんか引きずるば音じゃあ言うけ、その場にいた皆が薄ら気持ち悪うなったん覚えとります。

『わあ言うたら気持ち悪さはもっとでした。なんせさっきば変なもん見とるけえね。それでも仕事じゃけ、半分ぐらいの人数分かれて、私らは二階へ上がりました。月も出てねえ真っ暗じゃったけえ、宿のご主人がどないしはりましたどないしはりました言うて部屋入ったら、ひゅっ言うて姿が見えんようなった。も一人サタさん(注:従業員の一人。死亡確認済)がご主人どないした言うていったら、主人の声で何でもねえがこっちさ来てくれ言うて聞こえたんで、サタさん駆け寄っちゃったんです。

『わあはその時サタさん当たってコケてしもうた。元々及び腰じゃったかいね。今思えばそのおかげで助かったとです。廊下の壁ぇに手えついて、間近で見てしまいました。最初は変な感触じゃけえ思うたけども、そんなことどっかいっちまった』

従業員が震えだし、顔色も悪化。しかし本人希望のため、15分後聞き取り再開。

『わあ昨日、あんたんとこの調査員だか言う人の顔がおかしかった言うたがね。階段の時の話です。あの顔が、わあが手ぇついた壁についとったんです。おんなじようににたぁ笑っとったがね。ハッとなって、多分わあ叫んどったかと思いますが、それで先行ったサタさんがどうした言うて振り向いたんです。わあもそっち向いたら、サタさんの後ろに主人が壁ん顔とおんなじ顔で立っとった。そっからはもう自分が何言うてたかは覚えとりません。慌てて外ば出よう思て、二階の二人には悪いけども階段かけ下りたら、下で待っとった人らがどげんした言うてこっちば見よった。

『あんたらも逃げえ言わなあかんとは思うたんですが、下には何人かおったんですけども、皆がわあの方見て背中向けとる壁に例の矢印みたいなんが何本かヒュルヒュルっと、多分二階から降りてきよったんです。わあの声が引っ込んで、そん時矢印の一本がミヤちゃんの足元へ動いて、ミヤちゃんなんか気づいたんか振り向いたんです。そん時多分、矢印の顔ば間近で見てもうたんですわ。

『多分ありゃあは、顔ば見たらいかんなんかかと思います。わあがそん時まで見たんは矢印の後ろ頭で、矢印の向こう側に顔がついとるんでしょう。わあがそっちじっと見てもうたから皆もミヤちゃんの方ば見て悲鳴上げました。ミヤちゃんに近づいとったヤツは引っ込んだけども、そりゃあ壁から変なもんがいっぱい、うねうねしとるんですからね。でミヤちゃんがこっちば見たら、もうあのにたぁっと笑った顔になっちょる。わあは外出ました。後ろではミヤちゃんどしたとか悲鳴とかありましたが、外出てちょっと離れて振り向いた頃にはシンとしておりました。

『一瞬、わあもさっきまでんことが夢か思うくらい静かになりました。でも誰一人出てきやしませんで、ああ手遅れじゃと何となく思うたん覚えとります。じっと宿ば見とったんですけども、そん時気づきました。屋根の上、月が出とったらもっと早う気づいたんですが、あんの矢印が何本かうねうね伸びとったんです。天ば指すようにうねうね伸びたかと思うたら、何本かは童仙の村の方指し始めました。ありゃあきっと、帰りたがっとったんです』

以上で聞き取りを終了。死亡した四方田ミヤの背後にいた存在の“顔”についてはっきりとではないが思い出せそうとのことで、従業員を本人にはそれと知らせず隔離。

現場となった宿については事件当日未明、火災で焼失。聞き取りからは確認できなかったが、従業員が火をつけたものと思われる。

9月2日。隔離中の従業員を焼却処分。頭部が■■■■■■の■■状に変形、下半身も右足を軸とし■■■■に変形していた。

同2日。童仙村(及び上記現場■■■■■)を隔離地域とし、外部と遮断。U.J.I、南山城国より非公式の協力依頼を受け、合同調査を開始。

――【注:当内容はNTK条約によりSLv4クラス以上のみ閲覧可能】――

9月21日。南山城国・U.J.I非公式合同調査チームは事態の沈静を確認。童仙村は以後50年間の隔離措置を暫定決定。

9月23日。南山城国よりインシデントNo.1070の報告書を受領。当ファイルNo.1070として編集。
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