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南山城国(7)

旅立ち(2)

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「えーっと。それじゃあ、どうするんです? 結局」

カオルが話を戻す。

「ふむ……いくつか他の道もあるのですが……」

「あるのですが?」

「問題は時間です。どの道も、それなりの日数がかかってしまいます。目的地へ到着するのは、他の国々の遥か後ということになってしまうでしょう」

「遠藤さんなら、何か良いルート知ってません?」

全員の視線が遠藤に集まる。遠藤は童仙の方をちらりと見やる。
童仙は異物を口の中に認めた風に顔を歪め、視線を落とした。
遠藤がカオルに向き直る。

「その質問なんだが、既に童仙殿からも受けているんだ。良いルートはある」

「じゃあ、それで行きましょうよ!」

龍之介が嬉しそうに言う。

「ああ。だが良いルートと言っても、時間の都合を考えれば、というだけなんだ」

「どういうことです?」

遠藤が懐からキセルを取り出す。指で弾くと、すぐさま煙が立ち昇った。
口に咥えて煙を吐くと、その煙が地図の上にたゆたう。煙は、一筋の道を描いた。

「スゴい山道を通りますけど……確かに近道ですね」

「近道は近道だよ、カオルちゃん。ソレには代償も伴う」

「ん? 何か書いてありますよ」

龍之介が地図に、消そうとした痕跡のある文字を見つけ出した。

「童仙村?」

「問題はその村なんだ。私たちにとってもだが、特に童仙殿にとってはね」

全員の視線が童仙に向く。

「……皆さんが思われている、その通りです。私の出自はその童仙村にあります」

「なんかややこしい感じ?」

カオルの軽い聞き方に、少し救われたように微笑んで童仙は答える。

「ええ。地図から消されるほどですからね」


◇◇◇


U.J.Iアーカイブ ファイルNo.1070 童仙村を襲った厄災と、それに対する南山城国の隔離対応についての報告


■■■■年8月28日 U.J.Iは南山城国、童仙村地域における魔術回路アノマリーを観測。

以下の記録はその後、南山城国がU.J.Iからの情報開示要請に応える形で行った報告よりの抜粋。なお、南山城国固有の言語である■■■については、U.J.Iニュースピークに対応した形に翻訳済み。

8月29日。南山城国は童仙村に調査員を派遣。隣村よりの観測では異常は認められないとの報告。

8月30日。調査員が童仙村内に立ち入り。調査員三名とも異常は認められないとして隣村に帰還。

8月31日。隣村にて調査員二名が死亡、一名が行方不明(なお、後に二名とともに現場で死亡していたことが判明)。以下は、調査員が童仙村観測施設として宿泊していた■■■■■の従業員の報告(注:ニュースピーク未翻訳)。

『あげなことが起きた時はびっくりしやった。わあは今のおかみさんに二代続けて勤めとるしょって、少々のこたあば見とります。人斬りとか、魔術ゆうもんを使って人ん目の前で燃やすとかは、血気盛んなお客さんの諍いでもようありもした。でもありゃあは、人のできぃことではありんせん。

『あの夜、例のお客三人は調べが終わりもしたゆうて、二階の自分らん部屋へ戻られちゃった。後ろ姿追っかけた時に、はて思うたんじゃども、外は雨も降っとらんゆうに、最後に階段のぼられる人の右ぃ足踏んだとこだけ濡れとったで、わあ足ば見たんです。袴の端からなんか矢印みたいな形の妙なもん出とったんじゃ』

従業員から聞き取りをしていた者が、図(コウガイビル)を見せる。

『ああ、ちょうどこんなんじゃった』

従業員、下を向き咳き込みだす。聞き取り中断を提案したところ、継続を希望する旨の返答。

『ほいで、それについてわあはそん人に聞いたんです。足元濡れとるばってんがよろしいか言うて。そしたらひゅっとその矢印が引っ込んで、そん人がわあ振り向いたんじゃが、ありゃあ今でもわあの見間違いかとも思うじゃけども、そん人の目が左と右どっちも外に開いとったんですわ。それだけでもひゃあ思うたけども、そのままそん人が顔にたぁ崩したもんだで、わあも何も言えんくなるわね』

ここで従業員が震えだし転倒。呼吸不全に陥ったため聞き取りを中断。
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