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United Japanese tea varieties of Iratsuko(6)

悪の夜(3)

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「基本的には」

言葉の合間に煙草をくゆらせるムサシ。
ため息とも受け取れるような、深く長い煙の吐き出し方だ。

「俺はこんな風に、人様の頭に銃を向けることはあっても、それを交渉の材料にしたりはしない」

「知っているとも」

「それは相手を苦しめないためだ。銃を突きつけられているのを感じるってのは当然、良い気分じゃあねえだろう。俺は人を殺すとしても、優しく殺したい」

「私は神父じゃあないが」

ムサシが鼻を鳴らす。

「俺だって懺悔してるつもりはない。なんで俺が来たかを聞いたのは、あんただぜ。いいか、つまり俺は平和主義者だ、実はな」

「かなり屈折した、だがね」

「まあ、人生は思うようにはいかない。でだ、俺へのタレコミによると、亡命したターゲットの持ち込んだ資料、その中身は大量破壊兵器についてだって言うじゃあないか」

それを聞き、依頼主が少しの間をおいて、上げている右手の人差し指を立てる。
その人差し指を振りながら、ムサシに問いかける。

「信じたのか? その情報を」

「信じるに足る相手だったもんで。で、どうなんだ?」

「確認してどうする?」

「言っただろ、俺は平和主義者だ。あんた曰く屈折した、だが。依頼のために一人二人殺すのに今更、躊躇はねえ。だが、誰かさんが大勢殺すのを助けるために、一人二人殺す気はないぜ」

「流石は元FBU捜査官だな」

ムサシの鼻筋が少し歪む。次の口調はやや強めだった。

「で、どうなんだ?」

「……。キミと問答を続けるつもりはないので、答えよう。確かに、資料の内容は大量破壊兵器に関してだ。しかもターゲットはその開発者。いや、“復元者”と言った方が良いかな」

「どういう意味だ?」

「一から開発したワケではないということだよ。兵器の原案自体は、“廃都”から発見されたものだ」

「キャピタルの?」

「ああ。この国の最先端技術もそうだろう?」

“廃都”、キャピタル・キョート・シティ。U.J.Iは、その北に位置する“廃都”から発掘したオーバーテクノロジーを再生させることで、科学技術大国となった。

「だが、“廃都”の技術は全てU.J.Iが吸い尽くしたはずだ」

「この国のプロパガンダを信じてるのか? “廃都”がどんなどころだと?」

「放射能汚染地域で、簡単には入れないはずだが……」

「それがプロパガンダだと言うのだよ。“廃都”にあるのは放射能汚染じゃあない。もっと酷いものだ。故に、U.J.Iは“廃都”の全てを発掘できなかった」

煙草をもう一吸いするムサシ。本来なら、もう捨てている短さだ。

「ともかく、あんたらはそこから大量破壊兵器を復活させたってわけだ。となれば俺としては、ほんの少しあんたらの邪魔をしたいっていう気持ちが、なけなしの正義感から湧いてくるワケだが」

「いいや、だが私たちはそれを大量破壊兵器として使用するつもりはない」

「何?」

「私の居場所を突き止められるとは、油断していたよ。だが、キミの歪んだ優しさが仇になったな。依頼通り、ターゲットを消してくれた。キミはヒーローではない」

銃声が響き、依頼主の耳をかすめる。

「話を逸らすなよ」

「違う、説明の途中だよ。ヒーローではないキミがターゲットにしてやれる唯一のことは、我々の依頼通りに彼を楽にしてやることだ。FBUなら、証人保護プログラムでも利用できたのにな。
資料も焼却するのが、キミにできた精一杯の“邪魔”だ。キミはこの国の性質を深く理解している。資料を存在させておくことも、キミにはできなかっただろう。とは言えソレも我々の依頼通り。尤も、だからこそキミに依頼したのだが」

「右耳で最後に聞きたい言葉はあるかな?」

「コレは私からの優しさだぞ、ムサシ君。キミが我々の手のひらの上の存在で、油断していたとは言え私の居場所を突き止められることに、私が保険を用意していなかったと思うか? そして、私から言えることは『我々は“廃都”から発掘したものを、大量破壊兵器として使用するつもりはない』ということまでなのだぞ?」

ムサシは逡巡する。
何故、コイツはここまで回りくどい言い方をしている? そして、ソレが本当にコイツの優しさなのだとすれば?

「キミは依頼を達成してくれた。私からのこれは“報酬支払い”だ。同じ仕事人としてな。だが、私の国はキミを許しはしまい。この国には既に“ヴェルメロス”の工作員が多数いるぞ」

「……俺の“憑代(よりしろ)”が破壊される?」

「その通り」

ムサシは、自分の頭を撃ち抜いた。それが相手の保険だったのだと理解した上で。
最後に思ったのは、やはり国同士の絡み合いという性質の依頼には、自分は向いていないということだった。

ムサシがいなくなって数秒後、“依頼主”の部屋は爆破された。
“依頼主”は、ヴェルメロスの自らの茶畑で目覚める。
傍には、自らの秘書が立っていた。

「現場好きが過ぎますよ」

「すまないね。しかし私の言い回しには混乱しただろ? タイミングを見失ったんじゃあないか?」

「いえ。貴方はああいうことが好きなので、待ってあげたんですよ」

「なるほど。“ありがとう”だったか、言うべきは」

「“すみません”が足りませんね。国の極秘機密をあれだけ明かされたんですから」

「アイツのような男は好きなんだよ。歪み方がそっくりだろう? 私、いや私たちと」

「否定しませんが、困ります。地位を自覚してください。ヴェルメロス大統領」
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