上 下
63 / 271
United Japanese tea varieties of Iratsuko(6)

悪の夜(1)

しおりを挟む
ムサシは、クローゼットの中に隠れていた。

あまり衣服の入っていないクローゼットは、隠れるのには快適だった。
そのため、咄嗟に入ったにも関わらず、余計な物音を立ててしまうこともなかった。

部屋の主はドアを開け、その端を確認しているようだ。
目印を付け、留守中に侵入者がいないかをいつも確認しているのだろう。
尤も、それを侵すようなへまをするムサシではない。

とは言え、主人が帰ってきたのは誤算だった。
思えば、今回の依頼は協力を持ちかけたヤツらがミスをしてばっかりだ。

俺の人選がおかしかったのか?


◇◇◇


「“ヴェルメロス”から亡命した技術者がターゲット?」

ムサシは思わず聞き返した。

「何か問題が?」

「いや、なかなかそんな類の依頼はないもんでね」

ムサシはフリーランスでグレーな仕事を請け負っている。元々、FBUにいた経験から、U.J.I内での“暗い立ち回りの仕方”には精通しているからだ。
そんなわけで、勿論、請け負ったことがないわけではないが、他国の名前が出てくる仕事の経験というのは、あまり多くはなかった。

請け負わないわけではないが、そういった内容にはそういった内容の専門家がいるものだ。

「……とにかく、報酬の問題だ」

「もう送金したよ」

通信相手はそう告げた。
相手は、現在放送中のあらゆるメディアの音声をリアルタイムに継ぎ接ぎし、入力した内容を発声してくれるソフトを用いて連絡をしてきている。まあ、この手の依頼をするヤツは皆、使っていやがるが。

ムサシは口座を確認する。
確かに、それ相応の額が振り込まれている。希望額一歩届かずという額が。

「残りは、仕事を終えてくれた後に送金するよ」


◇◇◇


「というわけで、お前にはターゲットを“透明にする”のを依頼したい。ジョン」

ムサシはメンバーズレストランで、食事を共にしている相手にそう告げた。
やや太り気味の、目線の鋭い男性だ。

「任せろ。報酬は全額後払いか?」

「いや、前金で半分だ。この店の支払いもつけとく」

「オーケー」

相手は、食事を進める。手元のワインを飲み干す。
ムサシが注ぐと、またも飲み干した。

「しかし、お前少し太ったんじゃあないか? 別に支払いがかさむのが嫌なワケじゃあ毛頭無いが、少し飲み食いしすぎだぞ」

「おいおいムサシ、俺たちの仕事だぞ? カロリーは消費するし、ストレスだって溜まる」

「……まあ、そうだな」


◇◇◇


「というわけで、お前にはターゲットの資料奪取を依頼したい。ジャック」

「相棒をもう一人、選んでもいいか?」

「構わないが、相棒分まで報酬はないぜ」

「勿論だ。それは俺の分で何とかする」

ムサシは詳しく聞かなかった。どうせ分けずに、用済みになったら相棒とは“手を切る”んだろ。
U.J.I環状メトロの構内で、背中合わせに座ってから1分。話はまとまった。


◇◇◇


そして、ジョンは決行当日にアル中状態で発見、現在入院中。
ジャックはその性格を相棒とやらに見抜かれ、路地裏で射殺体で発見された。

以上でムサシは、依頼した内容二つを自らの手でやり遂げなければならなくなったのだった。
勿論、最初から人に任せてハイ終わりとする予定ではなかった。自分でやらなければならない仕事も当然あったのだ。だから今夜の仕事は三つだな畜生。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!

天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。 焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。 一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。 コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。 メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。 男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。 トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。 弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。 ※変な話です。(笑)

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...