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バクエット・ド・パクス(6)

茶葉は収穫(摘採)を延ばすと硬化することがあります(1)

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おかしい……。そう思う女性がここにも一人。
バクエット・ド・パクスの我らがアラサー、恭仁ミサトである。

ミサトと旅団のメンバーたちは小高い山の頂上、自分たちの茶畑を眼下に見下ろせるそこで、一本屹立する樹の陰に世話になりながら、アフターヌーンティーを楽しんでいた。
ぬるめのかぶせ茶は甘味がしつこすぎず薄すぎず、紅茶に引けを取らぬアフターヌーンを演出してくれていた。

それはいいのだが……しかし。
ミサトは一人、カトリーヌと山の下の茶園を見比べながら、焦りに近いものを感じていた。
『おかしい……』という感情は、よくよく考えると『やっちまった……』という感覚に変わっていた。

ミサトはカトリーヌの茶園に覆いを掛け続けた。
男性のハーレ……もとい旅団を構成したいというのが本音だったが、ここバクエット・ド・パクスでは覆いを掛けない茶園、“露天園”は禁じられているというから仕方がない。

郷に入らば郷に従え、という古臭い教えもあることだし。
いや、バクエット・ド・パクスならパクス・ロマーナ的に、When in Rome, do as the Romans doと言うべきか。

しかしどうせ掛けるのならばということで、玉露や碾茶レベルにミサトは掛けてみた。
この世界では、かぶせ茶(煎茶と玉露の中間。煎茶は覆いをしない)程度の覆いで少年や少女に、玉露や碾茶(抹茶の元)程度の覆いで成人女性に人々の性別が変化する。

少女ではどうにもならないが……もし成人女性ならば、ミサトが元々いた世界には宝塚という素晴らしい文化があった。
要は、発育さえ上手くいけば男装女子旅団を結成することも夢ではない。

ミサトのミスは、何となくカトリーヌを選んだことだった。
カトリーヌ以外の二人はあまり接点がないし、まだ覆いを掛けた時点では人物像を把握していなかったので、とりあえずカトリーヌで実験したのだが……。

目の前のカトリーヌは見事に、ゆるふわロングの金髪に碧眼がよく似合っていて、かつ巫女姿がその豊かすぎる体型を隠しきれておらず実に背徳的な“成人女性”に成長した。誰だてめぇ。
一見合わなそうな和の服装と洋を思わせる風貌が、此度のアフターヌーンティーに対するかぶせ茶の如く、予想とは裏腹に完璧にマッチしていた。

マッチしていないのは、ミサトの予想だけだ。

「……カトリーヌ、あなたの茶園って明日、収穫よね」

「ええ♪ いよいよですね!」

「ブレーズとノワールの茶園は、収穫遅らせていいかな?」

「構いませんが、どうしてですか?」

「いや、被覆期間を延ばしたいなと思って」

「彼女たちは私と違って晩生ですし……まあ、少々延ばしても、茶葉が硬化することはないでしょう♪ わかりました!」

まあ、こうなったら残りの二人に期待するほか、ないよね。
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