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南山城国(5)
ギャザリング(4)
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河原へ着く頃には、かなり陽が傾いていた。
ススキ生い茂る中に、三人の人影が見てとれる。
ススキ野に屹立する一本の松の下、刀を抱えている少年と、目の前の人物をすっと見つめる青年がいた。
青年の前にいる人物は背中をこちらに向けており、長い黒髪が印象的だが、やや曲がった背筋からして少し年配の人物のようであった。
より近づいて分かったことだが、ススキ野は一面が風に薙いでいるというわけではなく、ところどころに、ぽっかりと禿げているように見える部分があった。
どうやら人が倒れており、ススキも諸共としているらしい。
「童仙さん、どうやらアレが立合のようですね」
「ええ」
隠れるでもなく、ススキ野の縁から見守る二人。
こちらに背中を向けている人物が刀を抜いた。青年は微動だにしない。
刀が振り上がる。そのまま前のめりに青年に切りかかる。
青年は自分の左肩に向かってきた切先を身体を半身にしながら避けると、回転そのままに相手の右半身に近づき、右ひじをこめかみに叩き込んだ。
相手は体勢を崩し倒れ込もうとする。自分の右腕の外側に回り込んだ相手を迎撃するために、振り下ろした刀を持ち上げようとする腕だけが宙を掻く。
相手の手から離れた刀を青年は、あえて後ろに残してきた左手で掴むと、右手に合流させ、相手の胴を切り上げて両断した。
相手の二体は、同時に床に落下した。
「なかなか……凄まじいですね」
「カオル殿、すみませぬ。少しく見とれておりました」
「……行きましょうか」
「大丈夫ですか?」
カオルはススキ野へ歩き出すことで、その答えとした。
◇◇◇
「何の用です?」
青年が、手の血を拭いながら聞く。
両断された遺体は、筵を被せられていた。
「立合をしばらく見物させていただきまして」
カオルが答える。
「見世物ではございませぬ。して、用件は」
「旅の道連れになっていただきたいのですが」
「断り申す。私は町外れの道場を離れるわけには参りませぬ」
「いえ。あなたではなく、そこの彼です」
カオルは刀を抱えている少年を指さした。
これには童仙も面食らう。
「龍之介ですか?」
「ええ。申し遅れましたが、私は“まれびと”です」
「……委細承知しました。龍之介、いいな?」
龍之介は当惑していたが、このような立合を演じる青年が刀を預けるだけあって、事の速さと内容を把握したようだった。
「……わかりました。よろしくお願い申し上げます!」
◇◇◇
青年を残し、ススキ野を歩く三人。
三人とも黙っていたが、カオルが我先にと口を開く。
「ぶはーっ! 恐かったーっ! 童仙さんも龍之介くんも言いたいことあるだろうけど、とりあえず帰って休もう! いいよね?」
「カオル殿……わかりました」
「えっと、私は自己紹介とか良いのですか?」
「今はよき今はよき。ところで……」
ススキ野を進むと嫌でも目に入る、倒れている人。
「これもあの人がやったのよね?」
「ええ、私の兄弟子が」
「この人らは切ったわけじゃあないの?」
「死んではいますが、切ってはおりません。素手です」
あ、死んでんだ、とカオル。てか素手かよ。
「なんで切らなかったの?」
「我々の流派では、雑魚相手に表道具は用いませぬ故」
ススキ生い茂る中に、三人の人影が見てとれる。
ススキ野に屹立する一本の松の下、刀を抱えている少年と、目の前の人物をすっと見つめる青年がいた。
青年の前にいる人物は背中をこちらに向けており、長い黒髪が印象的だが、やや曲がった背筋からして少し年配の人物のようであった。
より近づいて分かったことだが、ススキ野は一面が風に薙いでいるというわけではなく、ところどころに、ぽっかりと禿げているように見える部分があった。
どうやら人が倒れており、ススキも諸共としているらしい。
「童仙さん、どうやらアレが立合のようですね」
「ええ」
隠れるでもなく、ススキ野の縁から見守る二人。
こちらに背中を向けている人物が刀を抜いた。青年は微動だにしない。
刀が振り上がる。そのまま前のめりに青年に切りかかる。
青年は自分の左肩に向かってきた切先を身体を半身にしながら避けると、回転そのままに相手の右半身に近づき、右ひじをこめかみに叩き込んだ。
相手は体勢を崩し倒れ込もうとする。自分の右腕の外側に回り込んだ相手を迎撃するために、振り下ろした刀を持ち上げようとする腕だけが宙を掻く。
相手の手から離れた刀を青年は、あえて後ろに残してきた左手で掴むと、右手に合流させ、相手の胴を切り上げて両断した。
相手の二体は、同時に床に落下した。
「なかなか……凄まじいですね」
「カオル殿、すみませぬ。少しく見とれておりました」
「……行きましょうか」
「大丈夫ですか?」
カオルはススキ野へ歩き出すことで、その答えとした。
◇◇◇
「何の用です?」
青年が、手の血を拭いながら聞く。
両断された遺体は、筵を被せられていた。
「立合をしばらく見物させていただきまして」
カオルが答える。
「見世物ではございませぬ。して、用件は」
「旅の道連れになっていただきたいのですが」
「断り申す。私は町外れの道場を離れるわけには参りませぬ」
「いえ。あなたではなく、そこの彼です」
カオルは刀を抱えている少年を指さした。
これには童仙も面食らう。
「龍之介ですか?」
「ええ。申し遅れましたが、私は“まれびと”です」
「……委細承知しました。龍之介、いいな?」
龍之介は当惑していたが、このような立合を演じる青年が刀を預けるだけあって、事の速さと内容を把握したようだった。
「……わかりました。よろしくお願い申し上げます!」
◇◇◇
青年を残し、ススキ野を歩く三人。
三人とも黙っていたが、カオルが我先にと口を開く。
「ぶはーっ! 恐かったーっ! 童仙さんも龍之介くんも言いたいことあるだろうけど、とりあえず帰って休もう! いいよね?」
「カオル殿……わかりました」
「えっと、私は自己紹介とか良いのですか?」
「今はよき今はよき。ところで……」
ススキ野を進むと嫌でも目に入る、倒れている人。
「これもあの人がやったのよね?」
「ええ、私の兄弟子が」
「この人らは切ったわけじゃあないの?」
「死んではいますが、切ってはおりません。素手です」
あ、死んでんだ、とカオル。てか素手かよ。
「なんで切らなかったの?」
「我々の流派では、雑魚相手に表道具は用いませぬ故」
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