カメリア・シネンシス・オブ・キョート

南山城国（５）

ギャザリング（３）

「あと一人どうしよっかなー」

商店ひしめく通りを歩きながら、カオルがぼやく。

「そうですぞカオル殿。町に繰り出している場合ではございませぬ」

隣を歩く童仙が返す。

「いやでもさあ、あの屋形にいて誰か来るの待ってても何も解決しないよ？　遠藤さんは来てくれたけどさあ、あんな人なかなかいないし」

「かと言って、このような商店街で旅の道連れなど見つかりますまい……」

返事がない。童仙が横を向く。
カオルは後方、質屋の前にいた。
走って戻る童仙。

「カオル殿！　貴方は一応“まれびと”なのですから……！」

「ねーご主人、この急須いくらで買います？」

カオルは店の主人に急須『烏渡し』を見せる。
主人はそれを手に取った。

「なっ……！　カオル殿っ！」

思わず鍔を弾き、刀に右手が伸びる童仙。見知らぬ者の手から『烏渡し』を守るための咄嗟の動作だったが、刀を抜いたところでどうなるわけでもない。

「心の余裕“戯れ”ですよ、童仙さん。茶器たる物、目利きに価値を付けてもらわないと」

「ですが……」

「これはこれは、織部好みの形状ですねえ。少しへうげた筆でも入れたくなる一品。しかしながら価値は付けかねますなあ、この“筒”には」

そう言って、主人が笠を外す。
唐笠天狗こと、遠藤二十だった。

「遠藤さん！　神出鬼没ですね」

「優れた科学者は、って言うだろ？」

「天狗殿、科学者だったのですか？」

「いや、違うけど」

相変わらず掴みどころのない遠藤。
後ろから店の本当の主人が出てきた。

「坊主。厠の間、店番ありがとうな」

「どういたしまして」

そう言って、店を出る遠藤。

「二人とも、町をぶらつくなら声をかけてくれてもいいのに。つれないなあ」

「いや、天狗殿から消えたのではありませんか」

「僕に声をかけようと思ったら、風上から囁いてくれるだけでいいのだよ。風説を流布してくれればいいのさ」

遠藤はそう言うと、ふぅ～と風を吹く真似をしてみせた。

「時にカオルちゃん。もう一人の旅の道連れだが、進展はあったかい？」

「それがなかなか」

「そう思ったよ。そこで良い人材を見つけた。この商店街を下った先、“芒（ススキ）の河原”で申の刻、剣の立合がある。そこに行くと良い」

「剣の立合？」

「ああ。カメリア・シネンシス（茶）が、ミスカンサス・シネンシス（芒）で立合さ。一笑一笑」