上 下
40 / 271
シュロッス・イン・デル・ゾーネ(5)

ギャザリング(7)

しおりを挟む
「ツヅキ君、キミにも是非とも聞いておきたいんだけれど」

「何ですか?」

団長がツヅキに問う。

「キミはこの世界に義理はないはずだ。ましてや、この国にもだし、当然オートラグにもね。だからキミが今ここで『やる気がなくなった』って言っても、理解はできる。まあ、元からなかったなら話は別だが……。正直にというのは、この二人を前にして難しいだろうけれど、是非とも聞いておきたい。
まだ、旅をする気はあるかな?」

「ありますよ」

「何故?」

「いや、元の世界へ戻りたいですから」

「ダウト」

「え?」

「それもあるかもだけど、一番じゃあないと思う」

「……そうですね」

「じゃあ、一番は?」

「……デイルさんと同じ、ではいけませんか?」

団長は少し止まった後、デイルの方を向いた。
デイルも団長の方を向いたが、すぐにツヅキに向き直し、笑うような、しかし何か言いたげな表情になる。
団長はそれを見届けて笑うと、ツヅキに言った。

「わかりました。ではデイルさんと同じく、これ以上は聞かないでおきましょう。
あ、メイさん。ツヅキ君の心は察しないように」

「えっと……」

「その方が全て丸く収まるのです。いいですね?」

「……わかりました」

メイを抑える団長。
ツヅキが口を開く。

「団長、俺からもいいですか?」

「いいですよ。どうぞ」

「団長は、何故ここまでしてくれるのですか?」

「デイルさんとお二人に、ですか? 確かに、旅団メンバーの派遣、皆さんの保護、それも茶園の領域内への移動もと、どだい費用はかかっていますね。
答えは簡単です。ペイルンオーリン家には、それだけのお返しを喜んで支払える、借りがあるのです」

「……なるほど」

「もしツヅキ君が返したいほど恩を感じてくれているのなら、いつでも倍返ししてくださって結構ですよ。良ければ入団をお願いしたいぐらいです。ゼルテーネが入団してくれるのなら、こちらとしては有難い限りですから」

「考えておきます、元の世界に帰れなければ」

団長は軽く頷くと立ち上がる。

「さて、では会議はこの辺りで。下の階へ行って、商館隣の倉庫へ向かってください。
そこにドクター……いえ、『おちゃはかせ』と呼ばれている人物がいます。ヒゲの似合うナイスガイなので、すぐにわかると思います。その人物に、私に言われて来た旨をお伝えいただければ」


◇◇◇


三人が出ていった後、団長は玉露の二煎目を淹れていた。

そして先ほどの自分の質問に対し、ツヅキが答えた意味を思って、笑った。

ツヅキはああ答えれば、それ以上聞かれずに済むと思ったのだろう。
言葉自体がどういう意味だったか、本人の中では何か辻褄が合う説明ができているのだろうが、それは当たっていないに違いない。

当たっていたなら、そうは答えていないはずだからだ。

デイルの時に話を切り上げたのは、あのタイミングでメイがデイルの心を読んでいたからだ。
デイルが何故オートラグを裏切ってまでこのような行いをするのか、答えは一つしかない。メイのためだ。

心を読まなくても察せることだが、心を読んだメイにとっては実際に話されるよりも、そのことがしっかり伝わったに違いない。

なので、そういう理由で会話を切り上げたことがツヅキにもわかっていれば、同じ話法を選択するはずはないのだ。

でも……と団長は思い、またも笑う。普段から団員たちに「ニヤけすぎですよ」と言われる団長だったが、今日は確かに、と自覚した。

ツヅキ君のその返しを聞いた時のメイちゃんの反応、面白かったな。
しかも、それを自分の能力で再確認しようとするところが尚更面白い。

心なしか、そんなことを考えながら飲む二煎目の玉露は、一煎目よりも旨味が強いように感じられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!

天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。 焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。 一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。 コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。 メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。 男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。 トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。 弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。 ※変な話です。(笑)

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...