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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(5)
ギャザリング(5)
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「京番茶といきたいところだが……ツヅキ君とメイは何がいい?」
「玉露ね」
「あ、俺は何でもいいです」
「……すまないツヅキ君、玉露でもいいかな?」
「ですね、玉露にしましょう」
メイは聞き終わるが早いか、ソファにどっかと腰を下ろした。
ツヅキはメイの隣、デイルは向かいに座った。
団長は笑いながら、もう一度、杖茶杓を振る。
四角くて黒い光沢のある盆に乗って、玉露の茶葉が現れた。
その横には中華風の意匠のポットと、同様の意匠のマグカップのような器がセットだ。
玉露の茶葉は黒々とした中に閃緑色が含まれ、煌めいているかの如き印象を放っていた。
隣のマグカップのような器は、何故か注ぎ口が付いている。
「ツヅキ君は、元の世界ではお茶は飲んでいたかい?」
「いえ、夏場に冷たい麦茶を飲むぐらいですね。あとペットボトルのほうじ茶」
「ペットボトル?」
デイルが聞く。
「あ、何と言うかプラスチックの……ってこれもわからないか」
「デイルさん。U.J.Iにある、特殊な樹脂でできた器のことですよ」
「ああ、団長がいつぞやに見せてくれたアレだね」
「ティウス団長、茶葉を手にとってもいいかしら?」
「もちろん。どうぞ」
メイが茶葉の入った盆を手に取る。
茶葉を少しかき混ぜると、一すくいを顔に近づけた。観察した後、鼻に近づけ香りを嗅いだ。
「コレはどなたですか?」
「窓口の娘だよ」
「すごく美味しそうですね。テアニンを思わせる、フルーティーな覆い香がします。ヒネ香が少しなのがアクセントなのかしら」
「デイルさん、メイさんは流石ですね」
ツヅキには何が何だかサッパリわからない。
デイルはメイから茶葉を受け取ると、さっと確認し、ツヅキに手渡した。
「ツヅキ君。玉露は最も旨味の多い茶葉なんだ。カバーをして日光を遮断することで、茶葉は旨味を増すんだよ。だから茶葉の色は自ずと濃緑色が強いものとなる」
「そうなんですか?」
「まあ、比較対象がないと、色の違いはわかりにくいね。香りを嗅いでみてくれないか。鼻息を当てて、茶葉を温めてから嗅ぐのがコツだ」
言われた通りに嗅いでみる。何とも言えない落ち着く香りだ。
鼻息を当ててから嗅ぐことで、普通に嗅ぐよりも心なしか濃厚さを感じる。
「さっきメイが言っていた“覆い香”というのは、海苔のような香りだ。通常は乾燥した海苔にかなり近い香りなんだが、このような上等品の玉露は、少しフレッシュであったりフルーティーな印象を含んでいる。生臭くはないが、採れたての海苔のような香りと言ってもいい。
また、“ヒネ香”というのは、熟成した茶葉にある香りだ。今年の茶葉の収穫はこれからだから、今に飲めるのは全て昨年以前に収穫されたお茶ということになる。“ヒネ香”自体は説明が難しいが……気持ちが落ち着く穀草の香りとでも言うかな」
「干し草っぽい、でいいんじゃないの。悪い意味はないけど」
デイルさんには悪いが、メイの言い方の方がしっくりくるな、とツヅキは思った。
確かに、全く悪い香りではない。香木と言ってもいいぐらい、芳しい“干し草”だ。
団長は茶葉が回っている間に、お湯をポットからマグカップのようなものに移した。
「この注ぎ口の付いた器は“湯冷まし”なんだ。玉露の旨味は50~60℃で引き出されるから、お湯を少し冷ますんだよ」
「なんか……言い方悪くて申し訳ないんですけど、面倒臭いですね」
「ほんとそれ」
そう言う団長は、しかし淹れるのを楽しんでいるように見えた。
「玉露ね」
「あ、俺は何でもいいです」
「……すまないツヅキ君、玉露でもいいかな?」
「ですね、玉露にしましょう」
メイは聞き終わるが早いか、ソファにどっかと腰を下ろした。
ツヅキはメイの隣、デイルは向かいに座った。
団長は笑いながら、もう一度、杖茶杓を振る。
四角くて黒い光沢のある盆に乗って、玉露の茶葉が現れた。
その横には中華風の意匠のポットと、同様の意匠のマグカップのような器がセットだ。
玉露の茶葉は黒々とした中に閃緑色が含まれ、煌めいているかの如き印象を放っていた。
隣のマグカップのような器は、何故か注ぎ口が付いている。
「ツヅキ君は、元の世界ではお茶は飲んでいたかい?」
「いえ、夏場に冷たい麦茶を飲むぐらいですね。あとペットボトルのほうじ茶」
「ペットボトル?」
デイルが聞く。
「あ、何と言うかプラスチックの……ってこれもわからないか」
「デイルさん。U.J.Iにある、特殊な樹脂でできた器のことですよ」
「ああ、団長がいつぞやに見せてくれたアレだね」
「ティウス団長、茶葉を手にとってもいいかしら?」
「もちろん。どうぞ」
メイが茶葉の入った盆を手に取る。
茶葉を少しかき混ぜると、一すくいを顔に近づけた。観察した後、鼻に近づけ香りを嗅いだ。
「コレはどなたですか?」
「窓口の娘だよ」
「すごく美味しそうですね。テアニンを思わせる、フルーティーな覆い香がします。ヒネ香が少しなのがアクセントなのかしら」
「デイルさん、メイさんは流石ですね」
ツヅキには何が何だかサッパリわからない。
デイルはメイから茶葉を受け取ると、さっと確認し、ツヅキに手渡した。
「ツヅキ君。玉露は最も旨味の多い茶葉なんだ。カバーをして日光を遮断することで、茶葉は旨味を増すんだよ。だから茶葉の色は自ずと濃緑色が強いものとなる」
「そうなんですか?」
「まあ、比較対象がないと、色の違いはわかりにくいね。香りを嗅いでみてくれないか。鼻息を当てて、茶葉を温めてから嗅ぐのがコツだ」
言われた通りに嗅いでみる。何とも言えない落ち着く香りだ。
鼻息を当ててから嗅ぐことで、普通に嗅ぐよりも心なしか濃厚さを感じる。
「さっきメイが言っていた“覆い香”というのは、海苔のような香りだ。通常は乾燥した海苔にかなり近い香りなんだが、このような上等品の玉露は、少しフレッシュであったりフルーティーな印象を含んでいる。生臭くはないが、採れたての海苔のような香りと言ってもいい。
また、“ヒネ香”というのは、熟成した茶葉にある香りだ。今年の茶葉の収穫はこれからだから、今に飲めるのは全て昨年以前に収穫されたお茶ということになる。“ヒネ香”自体は説明が難しいが……気持ちが落ち着く穀草の香りとでも言うかな」
「干し草っぽい、でいいんじゃないの。悪い意味はないけど」
デイルさんには悪いが、メイの言い方の方がしっくりくるな、とツヅキは思った。
確かに、全く悪い香りではない。香木と言ってもいいぐらい、芳しい“干し草”だ。
団長は茶葉が回っている間に、お湯をポットからマグカップのようなものに移した。
「この注ぎ口の付いた器は“湯冷まし”なんだ。玉露の旨味は50~60℃で引き出されるから、お湯を少し冷ますんだよ」
「なんか……言い方悪くて申し訳ないんですけど、面倒臭いですね」
「ほんとそれ」
そう言う団長は、しかし淹れるのを楽しんでいるように見えた。
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