カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

文字の大きさ
上 下
36 / 288
シュロッス・イン・デル・ゾーネ(5)

ギャザリング(3)

しおりを挟む
「それで、緊急事態というのは何なんです?」

ツヅキは横を歩くメイの父親、デイルに聞いた。
三人は商館のロビーの階段を上がり、団長室に繋がる廊下を歩いていた。

「メイはいつも通り……話していないようだな」

「お父様が話した方が、明快でしょ?」

デイルは下を向き、ため息を吐くと、ツヅキに言った。

「すまないな、ツヅキ君。娘に悪気はないんだ」

「ええ、もちろん」

ちらりとメイの方を向く。メイは目を見開き、「何か?」という表情を返した。

「生まれた時から、メイは特殊な能力を持っている。魔術の助けなしに人の心を読めるという能力だが、それに慣れているせいか、他人へ説明しないといけないことを省く癖があってね」

「能力のせいじゃあないわ。説明する必要がないっていう、理性的な帰結からよ」

「その結果、他人は困惑するじゃあないか」

「でもその結果、私より説明が上手い人から答えが聞けるわ」

「お前も上手く説明はできるよ。やればな」

親子の会話を聞きながら、蚊帳の外になってしまった居どころの悪さを誤魔化すように、ツヅキは唇を歪めてみせる。
デイルはそれに気づいた。

「そうだった、すまないツヅキ君。話の途中だったね。緊急事態の話だったな」

「大丈夫です」

「残念ながら私も説明は上手くない。単刀直入に伝えるがいいかね?」

「ええ」

「先日のヴァーシュ大法官との口頭試問会で、“再召喚”の話があっただろう」

「はい」

「あれがオートラグ内で採択された」

「……は?」

ツヅキの頭の中で、あの時の会話がフラッシュバックする。

「つまり……俺の“消滅”を意味しますよね、それは」

「その通りだ」

「……なるほど、それは緊急事態ですね。少なくとも、俺にとっては」

「私にとってもよ」

メイが割り込んでくる。
「それって……」を表情に出しながらメイを見るツヅキ。

「勘違いしないでよね。単純に私が困るってだけよ」

言い終わると、舌を出すメイ。

「……どうしてなんです?」

「オートラグ口頭試問会での質問で、右脳のことについて聞かれたのを覚えているかな?」

「確か、最初の方の質問ですね」

「その答えを私は読んだが、我々の世界の水準から言えば……気を悪くしないでほしいんだが、ツヅキ君のいた世界の、右脳についての理解は遅れていたのだ。
それはつまり、キミのいた世界の人々は右脳を活用できていないということを意味する。もちろん、キミ自身も含めてだ」

「あの場でも、そう仰っていましたね。それがまずいんですか?」

「この国ではね。魔術に右脳の協力は不可欠なんだ」

「ただ、旅には不可欠じゃあないわよ」

またもメイが口をはさむ。

「その通りだ。そしてツヅキ君、キミは今こう考えているね。『この人は味方なのか?』」

「……心を読みましたか?」

「いや、魔術詠唱をしていないからね。ただの理性的な帰結さ。
私はこの場にキミを助けに来たはずなのに、キミからすれば今の話を聞いて、こう思うはずだ。『俺が“消滅”させられるかもしれない答えを、この人は俺の頭から読み、大法官に言ったのか? じゃあ今、何故助けに来ているのか?』
言い訳に聞こえるかもしれないが、あの時、心を読んでいたのは私だけではない。ヴァーシュ大法官を挟んで私とは反対側に座っていたメンバーも、キミの心を読んでいたのだ。
あの場でヴァーシュ大法官に伝えるのは私だけだ。もう一人は、読んだ内容を逐一記録する。口頭試問が終了した後に、大法官はその記録を確認し、二人の読んだ内容が一致しているかを照合する。嘘はつけないのだ」

「……」

「私が本当に味方かどうかは、すぐにわかる」

三人は、団長室前に到着した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...