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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(5)
ギャザリング(3)
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「それで、緊急事態というのは何なんです?」
ツヅキは横を歩くメイの父親、デイルに聞いた。
三人は商館のロビーの階段を上がり、団長室に繋がる廊下を歩いていた。
「メイはいつも通り……話していないようだな」
「お父様が話した方が、明快でしょ?」
デイルは下を向き、ため息を吐くと、ツヅキに言った。
「すまないな、ツヅキ君。娘に悪気はないんだ」
「ええ、もちろん」
ちらりとメイの方を向く。メイは目を見開き、「何か?」という表情を返した。
「生まれた時から、メイは特殊な能力を持っている。魔術の助けなしに人の心を読めるという能力だが、それに慣れているせいか、他人へ説明しないといけないことを省く癖があってね」
「能力のせいじゃあないわ。説明する必要がないっていう、理性的な帰結からよ」
「その結果、他人は困惑するじゃあないか」
「でもその結果、私より説明が上手い人から答えが聞けるわ」
「お前も上手く説明はできるよ。やればな」
親子の会話を聞きながら、蚊帳の外になってしまった居どころの悪さを誤魔化すように、ツヅキは唇を歪めてみせる。
デイルはそれに気づいた。
「そうだった、すまないツヅキ君。話の途中だったね。緊急事態の話だったな」
「大丈夫です」
「残念ながら私も説明は上手くない。単刀直入に伝えるがいいかね?」
「ええ」
「先日のヴァーシュ大法官との口頭試問会で、“再召喚”の話があっただろう」
「はい」
「あれがオートラグ内で採択された」
「……は?」
ツヅキの頭の中で、あの時の会話がフラッシュバックする。
「つまり……俺の“消滅”を意味しますよね、それは」
「その通りだ」
「……なるほど、それは緊急事態ですね。少なくとも、俺にとっては」
「私にとってもよ」
メイが割り込んでくる。
「それって……」を表情に出しながらメイを見るツヅキ。
「勘違いしないでよね。単純に私が困るってだけよ」
言い終わると、舌を出すメイ。
「……どうしてなんです?」
「オートラグ口頭試問会での質問で、右脳のことについて聞かれたのを覚えているかな?」
「確か、最初の方の質問ですね」
「その答えを私は読んだが、我々の世界の水準から言えば……気を悪くしないでほしいんだが、ツヅキ君のいた世界の、右脳についての理解は遅れていたのだ。
それはつまり、キミのいた世界の人々は右脳を活用できていないということを意味する。もちろん、キミ自身も含めてだ」
「あの場でも、そう仰っていましたね。それがまずいんですか?」
「この国ではね。魔術に右脳の協力は不可欠なんだ」
「ただ、旅には不可欠じゃあないわよ」
またもメイが口をはさむ。
「その通りだ。そしてツヅキ君、キミは今こう考えているね。『この人は味方なのか?』」
「……心を読みましたか?」
「いや、魔術詠唱をしていないからね。ただの理性的な帰結さ。
私はこの場にキミを助けに来たはずなのに、キミからすれば今の話を聞いて、こう思うはずだ。『俺が“消滅”させられるかもしれない答えを、この人は俺の頭から読み、大法官に言ったのか? じゃあ今、何故助けに来ているのか?』
言い訳に聞こえるかもしれないが、あの時、心を読んでいたのは私だけではない。ヴァーシュ大法官を挟んで私とは反対側に座っていたメンバーも、キミの心を読んでいたのだ。
あの場でヴァーシュ大法官に伝えるのは私だけだ。もう一人は、読んだ内容を逐一記録する。口頭試問が終了した後に、大法官はその記録を確認し、二人の読んだ内容が一致しているかを照合する。嘘はつけないのだ」
「……」
「私が本当に味方かどうかは、すぐにわかる」
三人は、団長室前に到着した。
ツヅキは横を歩くメイの父親、デイルに聞いた。
三人は商館のロビーの階段を上がり、団長室に繋がる廊下を歩いていた。
「メイはいつも通り……話していないようだな」
「お父様が話した方が、明快でしょ?」
デイルは下を向き、ため息を吐くと、ツヅキに言った。
「すまないな、ツヅキ君。娘に悪気はないんだ」
「ええ、もちろん」
ちらりとメイの方を向く。メイは目を見開き、「何か?」という表情を返した。
「生まれた時から、メイは特殊な能力を持っている。魔術の助けなしに人の心を読めるという能力だが、それに慣れているせいか、他人へ説明しないといけないことを省く癖があってね」
「能力のせいじゃあないわ。説明する必要がないっていう、理性的な帰結からよ」
「その結果、他人は困惑するじゃあないか」
「でもその結果、私より説明が上手い人から答えが聞けるわ」
「お前も上手く説明はできるよ。やればな」
親子の会話を聞きながら、蚊帳の外になってしまった居どころの悪さを誤魔化すように、ツヅキは唇を歪めてみせる。
デイルはそれに気づいた。
「そうだった、すまないツヅキ君。話の途中だったね。緊急事態の話だったな」
「大丈夫です」
「残念ながら私も説明は上手くない。単刀直入に伝えるがいいかね?」
「ええ」
「先日のヴァーシュ大法官との口頭試問会で、“再召喚”の話があっただろう」
「はい」
「あれがオートラグ内で採択された」
「……は?」
ツヅキの頭の中で、あの時の会話がフラッシュバックする。
「つまり……俺の“消滅”を意味しますよね、それは」
「その通りだ」
「……なるほど、それは緊急事態ですね。少なくとも、俺にとっては」
「私にとってもよ」
メイが割り込んでくる。
「それって……」を表情に出しながらメイを見るツヅキ。
「勘違いしないでよね。単純に私が困るってだけよ」
言い終わると、舌を出すメイ。
「……どうしてなんです?」
「オートラグ口頭試問会での質問で、右脳のことについて聞かれたのを覚えているかな?」
「確か、最初の方の質問ですね」
「その答えを私は読んだが、我々の世界の水準から言えば……気を悪くしないでほしいんだが、ツヅキ君のいた世界の、右脳についての理解は遅れていたのだ。
それはつまり、キミのいた世界の人々は右脳を活用できていないということを意味する。もちろん、キミ自身も含めてだ」
「あの場でも、そう仰っていましたね。それがまずいんですか?」
「この国ではね。魔術に右脳の協力は不可欠なんだ」
「ただ、旅には不可欠じゃあないわよ」
またもメイが口をはさむ。
「その通りだ。そしてツヅキ君、キミは今こう考えているね。『この人は味方なのか?』」
「……心を読みましたか?」
「いや、魔術詠唱をしていないからね。ただの理性的な帰結さ。
私はこの場にキミを助けに来たはずなのに、キミからすれば今の話を聞いて、こう思うはずだ。『俺が“消滅”させられるかもしれない答えを、この人は俺の頭から読み、大法官に言ったのか? じゃあ今、何故助けに来ているのか?』
言い訳に聞こえるかもしれないが、あの時、心を読んでいたのは私だけではない。ヴァーシュ大法官を挟んで私とは反対側に座っていたメンバーも、キミの心を読んでいたのだ。
あの場でヴァーシュ大法官に伝えるのは私だけだ。もう一人は、読んだ内容を逐一記録する。口頭試問が終了した後に、大法官はその記録を確認し、二人の読んだ内容が一致しているかを照合する。嘘はつけないのだ」
「……」
「私が本当に味方かどうかは、すぐにわかる」
三人は、団長室前に到着した。
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