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南山城国(3)

収斂

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「これより、『烏渡し』の儀が行われます。一通り夢絃さまと会話してもらい、『烏渡し』を預ける旨が夢絃さまよりございましたら、礼をしていただければと思います」

朝食の後、誰も来ないしゴロ寝でもしようかなと思って背中を床に預けた矢先に、カオルのところにやって来た童仙は言った。

「あーはいはい。朝食前の説明でも言ってたアレですね」

朝食前、一通り異世界についての説明を聞き終えていた。
何度か、その説明の中に『烏渡し』が出てきたのだった。
ちなみに「『烏渡し』って何ですか?」の質問には「見ていただければ」の一点張りだった。

「夢絃さんって、この国の一番偉い方ですよね? 怖い方ですか?」

「いえ、そんなことは。芯の通ったお人にて。ただ、ややカオル殿の世界の価値観で言えば、苛烈な部分が強いやもしれません」

ちょっと怖めってことね、とカオルは咀嚼した。
まあ一刻も早く帰りたい。儀でも何でもござれだ。

「その『烏渡し』ってのを受け取って、東の山脈への旅に出るんですよね?」

「左様です」

「メンバー……人数は4人っていう決まりなんでしたっけ。私以外の3人は決まってるんですか?」

「まだにございます。選ぶのも、カオル殿のお仕事です故」

「候補の人はいるんですか?」

「『烏渡し』の儀の後に、お会いしていただきます」

なんか堅苦しいし、かったるいなあ、とカオルは思った。
いかにも日本的というか、異世界なのに日本的とかどんだけー。

「童仙さん、織田信長とか豊臣秀吉って知ってます?」

「いえ、存じませぬ」

「ですよねえ」

やっぱ異世界か。

「あ、じゃあ『蜻蛉切』とか『八丁念仏』とか、『村正』は?」

「その方々なら、存じ上げております」

「え、知ってんの?」

「ええ、全て剣の達人の異名です故」

「あ、人名なんですか?」

「というより、通り名ですね。カオル殿が何故ご存じで? 元の世界でもおられたのですか?」

「あーおられたというよりは、あったですね。私の世界では刀の名前でした」

「なるほど。妙なこともあるものですなあ」

会ってみたかったなその人等、とカオル。

「じゃあ『新田』『初花』『楢柴』、『付藻茄子』に『平蜘蛛』は?」

「おお! 茶器ですね」

「あ、それはこっちでも茶器なんですね」

「そこまでご存じなら内密に申し上げますが、『烏渡り』も茶器です。正確には茶器としての側面もある、ですね」

「え、茶器を旅のために貰うんですか?」

「いや、茶器としての側面もあるだけで……まあ、見ていただければ」

またそれかい、とカオル。

「ところで、カオル殿」

「はい?」

「カオル殿は見知らぬ土地での一日目から豪胆というか……私は構いませぬが、夢絃さまの前では少しく、ちゃんとお願いいたします」

「え、なんで?」

「いや、寝転ばれながら話をされているところを見ると不安になりまして……」

「わきまえるトコはわきまえますよ。ご安心めされい」
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