21 / 287
United Japanese tea varieties of Iratsuko(3)
塩味の効いた朝食
しおりを挟む
アサヒは目が覚めた。目の前には、端正な人形の顔があった。アサヒは知らないが、ドールを思わせる顔だ。
寝起きの頭が、思考を麻痺させていた。ただ「キレイだなあ……」と見つめる。
と、その人形が瞬きした。驚きの感覚がアサヒの頭の頂点から突き刺すように足先まで走った。
「うわっ!」
と後ろに勢いよく頭を引いて、後頭部を壁に強打した。
「何してるの、ケガするわよ」
「っつう……いや、ジュディさんこそ何してたんですか」
「完全に生身の人間の顔を、まじまじと見る機会は少なくてね。さあ、起きましょうか」
アサヒは徐々に、自分の置かれた状況を思い出していた。
昨日、異世界とかいうところに気づいたら“誘拐”されてしまっていて、あれよあれよという間に、“特捜6課”なるチームに配属されてしまったこと。
この“国”が捜索してくれていたっていうくらい自分は重要人物だって聞いたけど、寝るところがないって言われたこと。
「留置所なら空いてるぜ、それか俺の部屋」というフランシスの提案に、ジュディが「それなら留置所一択ね」と返したこと。
結局、ジュディの部屋で寝ることになってしまったこと(それに対してのフランシスの一言は「なるほど、留置所ね」)。
小さな窓からは、高層ビル群が輝いていた。青空はほぼ見えなかった。
「朝食よ。私は食べたことがないから、味は保証できないけど」
フレンチスクランブルにベビーリーフ、味噌汁と白米という、およそ異世界らしくない朝食だった。
アサヒは朝食の前に立ったまま、しばらくそれらを見つめてしまった。
「何かおかしい? この国の異世界についての研究は、かなり進んでいるはずなのだけれど。朝食についても」
アサヒは、ぽろぽろと泣き出してしまった。
「ちょっと! どうしたの?」
アサヒの前に膝をついて、顔を窺うジュディ。
鼻を啜りながらアサヒは笑って、答えた。
「いや、こんな朝食まで研究が進んでるのにビックリして……へへ」
「……心配させないでよ。ほら、食べて」
ジュディは、アサヒが泣き出した本当の理由を知っていた。
だが、会って二日目の相手にそれを話されるのは、アサヒにとっては嫌に違いないのだ。
それにその“理由”は、これからアサヒを協力させ続けるのに“利用”できる。
我ながら、反吐が出そうな振る舞いだ。と、ジュディは思った。
このクソみたいな世界で育ってきた子供ならともかく、異世界で育った子供なのだ。
そんな相手を利用するような振る舞いは、赤子に対して行うのと一緒で、気分が良いはずがない。
「んっ!」
「味が良くなかったかしら?」
「……塩味が効いてますね」
「……それはあなたの味付けね」
寝起きの頭が、思考を麻痺させていた。ただ「キレイだなあ……」と見つめる。
と、その人形が瞬きした。驚きの感覚がアサヒの頭の頂点から突き刺すように足先まで走った。
「うわっ!」
と後ろに勢いよく頭を引いて、後頭部を壁に強打した。
「何してるの、ケガするわよ」
「っつう……いや、ジュディさんこそ何してたんですか」
「完全に生身の人間の顔を、まじまじと見る機会は少なくてね。さあ、起きましょうか」
アサヒは徐々に、自分の置かれた状況を思い出していた。
昨日、異世界とかいうところに気づいたら“誘拐”されてしまっていて、あれよあれよという間に、“特捜6課”なるチームに配属されてしまったこと。
この“国”が捜索してくれていたっていうくらい自分は重要人物だって聞いたけど、寝るところがないって言われたこと。
「留置所なら空いてるぜ、それか俺の部屋」というフランシスの提案に、ジュディが「それなら留置所一択ね」と返したこと。
結局、ジュディの部屋で寝ることになってしまったこと(それに対してのフランシスの一言は「なるほど、留置所ね」)。
小さな窓からは、高層ビル群が輝いていた。青空はほぼ見えなかった。
「朝食よ。私は食べたことがないから、味は保証できないけど」
フレンチスクランブルにベビーリーフ、味噌汁と白米という、およそ異世界らしくない朝食だった。
アサヒは朝食の前に立ったまま、しばらくそれらを見つめてしまった。
「何かおかしい? この国の異世界についての研究は、かなり進んでいるはずなのだけれど。朝食についても」
アサヒは、ぽろぽろと泣き出してしまった。
「ちょっと! どうしたの?」
アサヒの前に膝をついて、顔を窺うジュディ。
鼻を啜りながらアサヒは笑って、答えた。
「いや、こんな朝食まで研究が進んでるのにビックリして……へへ」
「……心配させないでよ。ほら、食べて」
ジュディは、アサヒが泣き出した本当の理由を知っていた。
だが、会って二日目の相手にそれを話されるのは、アサヒにとっては嫌に違いないのだ。
それにその“理由”は、これからアサヒを協力させ続けるのに“利用”できる。
我ながら、反吐が出そうな振る舞いだ。と、ジュディは思った。
このクソみたいな世界で育ってきた子供ならともかく、異世界で育った子供なのだ。
そんな相手を利用するような振る舞いは、赤子に対して行うのと一緒で、気分が良いはずがない。
「んっ!」
「味が良くなかったかしら?」
「……塩味が効いてますね」
「……それはあなたの味付けね」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる