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テラ・ドス・ヴェルメロス(2)
紫煙宮への潜入
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というわけで、何のために何を盗み出すのかもわからないうちに、ララは二人についてきてしまった。
「ララさんは家で待っててもらってよかったんじゃあ?」
レインスが問いかける。
「いや、ダメだな。あのまがい物の山の中から本物を見分けられるのは、“ララ”だけだし」
「え? 実際にあの部屋に入ったのか?」
「覗いただけだけどね」
三人は、サザンカ広場を挟んで時計塔とは反対側に位置する『紫煙宮』へ来ていた。今はその前庭、茶の樹で構成された垣根に隠れていた。
『紫煙宮』は“ヴェルメロス”の行政の研究機関だった。この建物内部の秘密の部屋に“例の銃”とやらがあるのだった。
「“例の銃”ってなんなんですか?」
「いや、俺もよく知らねえんだ。“ララ”が現れるポイントを予測した文書を盗んだ時に、それも廊下で盗み聞きしたんだよ。オクルス、お前は覗き見したんだろ?」
「だから、“ララ”でないと見分けつかないんだって」
「ってことは、見分けつかないほどどれも似たり寄ったりなんだろ? どんなもんだったんだ」
「あー、そういう意味じゃあないんだ。まあ、見たらわかる」
◇◇◇
少年たちは、裏口を完全に理解していた。お陰で、大した危険もなく例の部屋までたどり着いた。
途中、少年たちよりも若干、背が高めのララは何かに引っかかったりしてテンポが遅れることはあったが、少年たちに言わせると「初めての潜入はそんなもの」らしい。
そして今、彼らは例の部屋の天井裏のダクトの中にいた。
先頭はオクルスで、例の部屋をダクト床の網を通して窺える位置まで進んでいた。
「この網を外すから、順番に中に下りよう」
頷くララとレインス。
ダクトはすんなり外れ、オクルスはするりと部屋へ消えていった。
ララは後ろを向く。レインスが口パクで「大丈夫!」と返した。
匍匐前進して下を覗き込む。オクルスが下で手招きしていた。
あれ、ここからどういう姿勢で下りたらいいんだろう、とララは思った。
数秒考えて、少しダクトの中を進んで、足の方から自分の身体を下ろしていくことにした。
途中までは上手くいっていたが、腹から胸の辺りを下ろす際に滑り、一気に腕までがダクトの外に出た。
指で辛うじて、ダクトの縁に引っかかる。
「うわわっ」
まだ足は届かない。下からは
「ララさん! もう手を放して飛んでも大丈夫だって!」
その声を信じ、ララは手を離した。思いっきりお尻から落下する形となってしまった。
しかし、痛みと音は少なかった。
「こうなるよねえ……」
下からはクッションとなったオクルスの声。
「オクルス、もう一人分いけるか?」
上からは、重量追加の是非を問うレインスの声だ。
「ごめんなさい! オクルスさん!」
慌てて飛びのくララ。背中が何かに当たる。
「ヤバいって!」
完全に立ち上がる姿勢も取れぬまま、ララの横にスライディングするオクルス。
ララが当たったのはどうやら長い机で、机の上には物が並んでいるようだった。
そのうちの二つが机からこぼれ落ち、オクルスの両手に吸収される。
「ナイスキャーッチ、オクルス」
いつの間にか下に降りていたレインスが言う。
オクルスの両手には、持ち手が横に伸びている、小さなヤカン上の物体があった。
「これって確か……急須、ですか?」
「ララさんは家で待っててもらってよかったんじゃあ?」
レインスが問いかける。
「いや、ダメだな。あのまがい物の山の中から本物を見分けられるのは、“ララ”だけだし」
「え? 実際にあの部屋に入ったのか?」
「覗いただけだけどね」
三人は、サザンカ広場を挟んで時計塔とは反対側に位置する『紫煙宮』へ来ていた。今はその前庭、茶の樹で構成された垣根に隠れていた。
『紫煙宮』は“ヴェルメロス”の行政の研究機関だった。この建物内部の秘密の部屋に“例の銃”とやらがあるのだった。
「“例の銃”ってなんなんですか?」
「いや、俺もよく知らねえんだ。“ララ”が現れるポイントを予測した文書を盗んだ時に、それも廊下で盗み聞きしたんだよ。オクルス、お前は覗き見したんだろ?」
「だから、“ララ”でないと見分けつかないんだって」
「ってことは、見分けつかないほどどれも似たり寄ったりなんだろ? どんなもんだったんだ」
「あー、そういう意味じゃあないんだ。まあ、見たらわかる」
◇◇◇
少年たちは、裏口を完全に理解していた。お陰で、大した危険もなく例の部屋までたどり着いた。
途中、少年たちよりも若干、背が高めのララは何かに引っかかったりしてテンポが遅れることはあったが、少年たちに言わせると「初めての潜入はそんなもの」らしい。
そして今、彼らは例の部屋の天井裏のダクトの中にいた。
先頭はオクルスで、例の部屋をダクト床の網を通して窺える位置まで進んでいた。
「この網を外すから、順番に中に下りよう」
頷くララとレインス。
ダクトはすんなり外れ、オクルスはするりと部屋へ消えていった。
ララは後ろを向く。レインスが口パクで「大丈夫!」と返した。
匍匐前進して下を覗き込む。オクルスが下で手招きしていた。
あれ、ここからどういう姿勢で下りたらいいんだろう、とララは思った。
数秒考えて、少しダクトの中を進んで、足の方から自分の身体を下ろしていくことにした。
途中までは上手くいっていたが、腹から胸の辺りを下ろす際に滑り、一気に腕までがダクトの外に出た。
指で辛うじて、ダクトの縁に引っかかる。
「うわわっ」
まだ足は届かない。下からは
「ララさん! もう手を放して飛んでも大丈夫だって!」
その声を信じ、ララは手を離した。思いっきりお尻から落下する形となってしまった。
しかし、痛みと音は少なかった。
「こうなるよねえ……」
下からはクッションとなったオクルスの声。
「オクルス、もう一人分いけるか?」
上からは、重量追加の是非を問うレインスの声だ。
「ごめんなさい! オクルスさん!」
慌てて飛びのくララ。背中が何かに当たる。
「ヤバいって!」
完全に立ち上がる姿勢も取れぬまま、ララの横にスライディングするオクルス。
ララが当たったのはどうやら長い机で、机の上には物が並んでいるようだった。
そのうちの二つが机からこぼれ落ち、オクルスの両手に吸収される。
「ナイスキャーッチ、オクルス」
いつの間にか下に降りていたレインスが言う。
オクルスの両手には、持ち手が横に伸びている、小さなヤカン上の物体があった。
「これって確か……急須、ですか?」
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