カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

文字の大きさ
上 下
9 / 288
テラ・ドス・ヴェルメロス

名無しのララ

しおりを挟む
「痛っ……」

「ララさん! 急いで!」

二人の少年はすいすいと抜けていくが、“ララ”にとっては慣れない土地の人混みだ。
少年に手を引っ張られては、誰かに肩をぶつけられるのを繰り返していた。

「なあ、サザンカ広場を迂回するって案はなかったのか?」

「今になってそれをわざわざ言わない、って案はなかったか?」

返された側の少年が舌打ちする。

「まあ、もう見えてるしな」

人の濁流から抜け出て、三人は小さな木造りの小屋に入った。
“ララ”は、顔を隠していたフードを外した。

小屋を形作っている木の板は隙間だらけで、そこからは少し暗くなったとはいえ、いまだ黄昏色をしている太陽光が差し込んでいた。
それらは壁にかかっていたり机の上に無造作に置かれている、よくわからない金属部品に反射している。
“ララ”はさっき降りてきた時計塔の中を思い出した。

「これで一安心だー」

少年の一人が、机の隣の椅子にドカッと座って言う。
もう一人の少年は、壁にもたれかかっていた。

椅子に座った方の少年は帽子を外し、右目のモノクルも外すと、それを拭き始めた。
壁にもたれかかった方の少年は首のスカーフをつかみ、少しゆるめている。

モノクルの少年がそれをつけ直し、問いかけた。

「えーっと、“ララ”さん。名前は何てーの」

スカーフの少年も、こちらに顔を向ける。
“ララ”は困惑した。“ララ”じゃあないのか。

「……えっと、すみません。自分の名前がわからなくて……」

二人の少年は顔を見合わせる。
スカーフの少年が言った。

「オクルス、“ララ”ってこういうもんなのか」

「いや、違うと思う」

オクルスが再度、“ララ”に顔を向ける。

「あーじゃあ、あの時計塔にいる前、何してたか覚えてます?」

「……すみません。覚えてません」

また二人は顔を見合わせた。
スカーフの少年が聞く。

「記憶喪失?」

「ぽいね。記憶喪失」

オクルスは手を口に当てて少し考える動作をした後、“ララ”の方を向くと、言った。

「“ララ”さんには悪いけど……少し先が思いやられるなあ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

処理中です...