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テラ・ドス・ヴェルメロス

名無しのララ

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「痛っ……」

「ララさん! 急いで!」

二人の少年はすいすいと抜けていくが、“ララ”にとっては慣れない土地の人混みだ。
少年に手を引っ張られては、誰かに肩をぶつけられるのを繰り返していた。

「なあ、サザンカ広場を迂回するって案はなかったのか?」

「今になってそれをわざわざ言わない、って案はなかったか?」

返された側の少年が舌打ちする。

「まあ、もう見えてるしな」

人の濁流から抜け出て、三人は小さな木造りの小屋に入った。
“ララ”は、顔を隠していたフードを外した。

小屋を形作っている木の板は隙間だらけで、そこからは少し暗くなったとはいえ、いまだ黄昏色をしている太陽光が差し込んでいた。
それらは壁にかかっていたり机の上に無造作に置かれている、よくわからない金属部品に反射している。
“ララ”はさっき降りてきた時計塔の中を思い出した。

「これで一安心だー」

少年の一人が、机の隣の椅子にドカッと座って言う。
もう一人の少年は、壁にもたれかかっていた。

椅子に座った方の少年は帽子を外し、右目のモノクルも外すと、それを拭き始めた。
壁にもたれかかった方の少年は首のスカーフをつかみ、少しゆるめている。

モノクルの少年がそれをつけ直し、問いかけた。

「えーっと、“ララ”さん。名前は何てーの」

スカーフの少年も、こちらに顔を向ける。
“ララ”は困惑した。“ララ”じゃあないのか。

「……えっと、すみません。自分の名前がわからなくて……」

二人の少年は顔を見合わせる。
スカーフの少年が言った。

「オクルス、“ララ”ってこういうもんなのか」

「いや、違うと思う」

オクルスが再度、“ララ”に顔を向ける。

「あーじゃあ、あの時計塔にいる前、何してたか覚えてます?」

「……すみません。覚えてません」

また二人は顔を見合わせた。
スカーフの少年が聞く。

「記憶喪失?」

「ぽいね。記憶喪失」

オクルスは手を口に当てて少し考える動作をした後、“ララ”の方を向くと、言った。

「“ララ”さんには悪いけど……少し先が思いやられるなあ」
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