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南山城国

憂愁

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「まれびと殿は、女子にございました」

左肩に抱えた彼女を下ろしながら、彼は言った。
玄関に駆けつけた権左衛門は左膝をつき、彼女を見やる。

「歳の頃は十六、七の娘といったところか。先が思いやられるな」

笠を外すと彼女の隣に、運んできた彼は腰掛けた。

「そうでもないかと」

「何ゆえだ。童仙」

童仙は彼女の前髪を右手で上げる。
左手の人差し指と中指に息を吹きかけ、彼女の額を払う。

ぼんやりと、紋様が浮かび上がる。
円の中心から下に、湾曲したバツ印を重ねたような紋様だ。

「ほう。魔道の術式に長けていると申すか」

「儂にも見せよ」

奥から声が聞こえる。
童仙は草鞋を脱ぐと、彼女を抱えて奥に進んだ。

先代、月野ヶ瀬心惨の大鎧の前に、白装束の月野ヶ瀬夢絃が正座していた。
夢絃の前に、童仙は彼女を置く。

夢絃は目を閉じ黙座していたが、緩やかに左手を大脇差へと伸ばすと、鍔を弾き、寝ている彼女を突き刺した。

「なるほど喃」

刀の切っ先は、彼女から指一本分離れた高さで震えていた。
夢絃が刀から手を放す。刀は空中に震えながらも直立したままだ。

「童仙。そなたの目、間違っておらぬ」

「かたじけのうございます」

童仙が三つ指をつき、頭を下げる。
刀はその震えを増すと、弾き飛ばされ、柄の部分が天井に突き刺さった。

夢絃は立ち上がると、部屋から出ていった。
童仙も立ち上がったが、時を待った。

天井の刀が外れ、落下した。
童仙は虫を払うような動作で、柄をつかむ。

「まれびと殿。先のは貸しの一つにて」

童仙はそのまま刀を彼女へ突き刺す。
彼女の衣服に、小さな穴が開いた。

童仙は目を瞑ると鼻から深く息をつき、彼女の今後を慮った。
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