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18、拾った娘
しおりを挟む「誰だ?」
「俺だ」
扉を開けると、マウヌが立っていた。
くつろいだ格好のセヴェリと違い、魔術師団の制服を着ている。
招き入れながら、セヴェリは聞いた。
「まだ仕事だったのか?」
マウヌは首を振った。
「人と会っていたんだ」
ずかずかと上がり込んで、勝手知ったる長椅子に座り、いきなり聞いた。
「結婚したんだって?」
不意打ちに頬が緩んだ。
「もう知っているのか?」
「ヨハンナから聞いた」
「そうか」
それで着替える間を惜しんで、祝福に来てくれたのだろうか。
照れ臭さを感じたセヴェリだが、マウヌの口から出たのは祝福ではなかった。
「相手は、拾った娘なんだって?」
言い方に、冷えたものを感じた。
セヴェリは静かに訂正した。
「助けたんだ。拾ったんじゃない」
「同じだよ」
酔っているのかとその顔を見たが、そういうわけでもなさそうだった。
セヴェリは話題を変えた。
「お前は結婚しないのか?」
「するさ、いずれ。親の決めた相手と」
「ああ、そうだったな」
「俺はさ、お前のこと、ちょっとすごいと思ってたんだ」
マウヌは唐突に言い出した。
「あんな辺鄙な村で、独学で魔術の勉強しただけなのに、俺たちの誰より抜きん出てる」
なにがいいたいのだろう。
セヴェリはマウヌの真意をつかみかねた。
「それは光栄だな」
「お前とこの領主は、お前を娘婿に欲しがっていただろう?」
「断ったよ。好みじゃなかった」
ははは、とマウヌは乾いた笑い声をあげた。
「さすがだね、男前は。カンナス宰相だって、お前を第一魔術師団に入れようかと言っていたそうだな」
「それも断ったよ。第一師団に入ると、ずっと宮廷にいなきゃいけないじゃないか」
村にいる時間が少なくなるのが嫌だったのだ。
宰相は何度も引き止めてくれたが、サムエルが間に立ってくれて、結局は諦めてくれた。
マウヌは面白くなさそうに言う。
「そういうとこだよ。飄々としているというか。見てると腹が立つ」
「なんで何もしてないのに、怒られなきゃいけないんだ?」
「これだけ言ってもわからないのか?」
「これでわかる奴がいるのか?」
「お前との繋がりを強めたい貴族連中はたくさんいる。なのに拾った娘と結婚? どうかしてるんじゃないか?」
「マウヌ、拾ったじゃない。助けた、だ。次言ったら、ただじゃすまないぞ」
「ちょっとは出世に興味持てよ」
「いやだよ。僕はあの村と森を守れたらいいんだ」
「俺は入りたいよ、第一魔術師団に」
「そうなのか?」
マウヌの言ってることは支離滅裂で、セヴェリはやっぱり酔ってるのかと思った。
「ヨハンナは泣いてたぞ」
その言葉がそんなに沈んだ調子で言われなければ、放り出していたところだ。
「なぜここにヨハンナが出てくる?」
「とぼけるなよ」
「とぼけてない」
マウヌは立ち上がった。
セヴェリもつられて立つ。
「お前は結局、責任ある地位に就くことから逃げてるんだよ」
「だとしても、それがお前に関係あるのか?」
「ヨハンナを泣かせるな」
セヴェリは首を振った。
「いいか、マウヌ。よく聞け。ヨハンナは僕の前で泣いていない。ヨハンナがお前の前で泣いたとしたら、それはお前とヨハンナの問題だ」
ふん、とマウヌは鼻で笑った。
「拾った娘は、さぞ哀れな様子で泣いて同情を引いたんだろうな。目に浮かぶさ」
セヴェリはマウヌの胸ぐらをつかんだ。
「次言ったら、ただですまない、といったはずだ」
そのまま睨み付けると、マウヌは唇を曲げて笑った。
「何度でも言うさ。お前は、責任を負いたくないから、わざわざ自分より低い身分の、拾った娘と結婚したんーー」
ーーガッ!!
繰り出した拳は、みぞおちに入った。
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