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第7章
第74話
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「なぁモニ。明日会いに行くヴォブリー一族っていうのは…転移魔法が使えるってことなのか?」
俺達はもう寝る寸前。ベッドの上。
そんな時にとめどない話をすることもあれば、ナガルス族の事をモニに教えてもらうこともある。
今日は、そんな日。
「…う~ん。まぁそうね。使えるというと少し…。まぁその通りかな。理屈で考えれば誰でも転移魔法は使えるらしいんだけど、実際はその一族しか使えない。それはずっと転移魔法を研究してきたからという理由もあるけど、もう一つの理由があるとも言われてる。」
「もう一つ?」
「それは…彼らのように巨人の一族でなければならないの。巨人と古代魔法はとても親和性が高いと言われているから…だから彼らしか使えない。」
「巨人の一族…ヴァルと一緒の…巨人の末裔ってことだよな?」
「うん。その通り。でもまさかハルダニヤ国にも巨人の末裔が居たとは知らなかった。いえ、もしいるのだとしたら不味いのかも知れない…。」
「?不味い?なんで?だって…巨人の末裔が暮らしている…国?里?みたいな所はあるんだろ?だったら他の所にも巨人の末裔が居てもおかしくないだろ?旅行とかしてそのまま住み着いちゃうことだってあるかも知れないし。まぁルド婆さんはハルダニヤ国出身っぽい事を言ってたけど。」
「そう、そこなのよ。ショーの話から推測するに…どうやら巨人達は色々な場所で生き残ってる可能性がある…。…一番有名な場所は南部大陸にある…古き巨人の末裔と呼ばれる人達が住んでる所。彼らは決して兵を持たず他国に攻め入ったりはしない。もちろん攻め込まれれば反撃するけど、まぁ巨人に喧嘩売ろうなんて馬鹿は今も昔も殆どいないけど。」
「へぇ。巨人の国があるとは聞いてたけどそういう感じか。もしヴァルが今もザリー公爵領で迫害され続けてたら…いつか連れて行ってやろうとも思ってた。まぁ、大丈夫そうだったけどさ。」
「それは…いい考えかもね。少なくとも彼らはとても理知的よ。仲間に対しても情が厚い。滅びゆく一族だからこそ数少ない同族は決して裏切らないし、よく助けるから。ただ…。」
「ただ?」
「彼らは仲間以外にはかなり…よそよそしいの。国の中にも入れないし、国境近くの街位なら入れるけどそれくらいね。巨人族以外は中心部に入れないし何より…出さない。決して巨人の国の外には出て来ない。ヴァルをそこに連れていけば多分だけど…もう二度と会えないと思う。」
「おお…そりゃ…だいぶ内向きの方々じゃないか…。でもまぁ…どうしてもヴァルの身が危険になったらそこに連れていけばいいよな?少なくとも守ってくれるんだろ?」
「そうね…確かに守ってくれると思う。話がずれちゃったけど、この古き巨人の末裔たちは所謂勇者との戦いの時に中立だった巨人達が作った国だとされてるの。中立というか我関せずというか…。だから外界を遮断するような姿勢なんだけど…。」
「ふむ…。だとすると巨人の末裔ってのは南部大陸にしかなくて、他の所に巨人が居るのがおかしいってことか?」
「ううん。巨人の末裔はこの浮島にも居るからね。ヴォブリー一族は優しき巨人達の末裔だから。そしてどうやらヴァルちゃんとルド婆さんは悪しき巨人の末裔ということ…。」
「…例え悪しき巨人の末裔だとしても、悪いのは昔の奴等だ。今の彼女達に一体何の関係があるっていうんだ。」
「あ、いやいや。違う違う。私もそういう事が言いたい訳じゃなくって…。えっと何を言おうとしたんだっけ…。えっと、あぁ、そうだ。私達が匿って保護してる優しき巨人の末裔、つまりヴォブリー一族は、彼らの古代魔法に対しての親和性と深い知識を引き換えにここで暮らしてるの。まぁ…下品な言い方をすれば、匿ってやるから魔法技術をよこせって感じ?」
「あ、そっか。うん…なるほど。優しき巨人の末裔とはいえ、恐らく人族がひしめき合ってる地上では暮らしにくいだろうからな。悪しきとか優しきとかそんなのそこら辺の奴等はわかりゃしないしな。」
「そう…。でも歴史を知ってる人族もいる。特に王族や貴族たちは間違いないと思う…。だからこそ悪しき巨人の末裔は、ハルダニヤ国では優しき巨人の末裔よりもより一層暮らしにくいはず。けど貴方から聞いた感じだと、ヴァルドヴォニカルって人はどうやらハルダニヤ国内に故郷があったような事を言っていた。…恐らくだけどハルダニヤ国が悪しき巨人の末裔を匿ってる…。」
「…。」
「…ヴォブリー一族は転移魔法を差し出した…。では悪しき巨人の末裔は何を差し出してハルダニヤ国の庇護を求めたんだろう…。」
「…確かに…。」
「正直ハルダニヤ国の戦力は、世界でただ一人の古龍騎士オセロス・モナド、ハルダニヤ流兵術開祖ダックス・ディ・アーキテクス、リヴェータ教徒…ここらへんだったの。こいつらは非常に強力だけど…ある意味どういう相手かは分かってた…。」
「確かに…強くて強大だけど予想がつかないって訳じゃないな。そうか…わからない敵が敵の戦力に入ってるかも知れないってこと?」
「入ってるかも…いえまず間違いなく入ってる。でも問題は、それが影も形もわからないってこと。…全然…わからない。悪しき巨人の末裔は…一体何をしてるの?ハルダニヤ国とどんな取引をしてるの…?」
「それは…わからない。多分ヴァルに聞いてもわからないと思う。思うけど…ザリー公爵は何か知っているかも知れない。ルド婆さんとザリー公爵って何か…昔なじみって感じもしたから。もしかしたらなにか知ってるかも…。」
「そうね…。ちょうどザリー公爵領に行くわけだし、聞いてみましょうか。…答えてくれるとは思わないけど。」
「大丈夫じゃない?ザリー公爵は…何ていうか、今のハルダニヤの王族に良い印象を持って感じだったし…。」
「…確かにそんな感じはしたけど…それでも公爵だからね。私達に味方をするほどってわけじゃないと思う。精々指名手配犯の行方を教えてくれるぐらいじゃないかな。知ってたらだけど。」
「そうかな…そうかもしれないな…。そう言えば転移拠点?って初めて聞いたんだけど、そんなのがあるのか?かなり…便利そうじゃないか?」
「そう…ヴォブリー一族の協力の下、大分前に転移魔法を開発出来たの。その転移魔法陣を無人の浮島に設置して世界中を漂わせて…いざっていう時に使うの。こういう時とか…ハルダニヤ国に攻め込む時とかね。」
「…戦争の時に使ってたのか…。ひょっとしてどこからともなくナガルス族が現れるっていうのは…。」
「そう。無作為に漂ってるとされている浮島に、私達の軍を転移させてるの。夜の内にね。彼らは浮島がどのように飛んで居るのかはわからないし、そもそも浮島は魔力を蓄えるために必ずしもヴィドフニルの大樹を通るわけじゃないの。だから私達が管理してる浮島とそうでない浮島の違いなんてわからない。軍を幾つかに分けて転移とか色々してるから、ほぼ出鼻を抑えるのは無理でしょうね。」
「ははぁ、なるほど。軍事的な機密だった訳だ。それじゃあおいそれと話せないか…。」
「そう。軍関係者だけは知ってるけど、戦士のみだけが使うと言ったって人が増えれば情報が漏れる危険はある。一度漏れればかなり不利になる情報でもあるから…今までハルダニヤに攻め入る人数は厳選し、少数にしなければならなかった。だから何度も攻め入ってもあまり成果を得られる事は無かった…。…でも、もう…これで最後。」
「もうバレても構わないってことか…。しっかし転移魔法か…凄いよな。俺のいた国のどんな技術を使ったってこんな凄いこと出来ない。すげぇ研究したんだろうな…。」
「そうね…。…ずっと…ずっとしていた。どんな事をしても。…誰を犠牲にしても…。……ねぇ……ショー…。」
「ん?」
「こ、故郷の…故郷から…。…故郷の…故郷の話を聞かせてよ…久しぶりに…。」
「?ああ、良いよ。そう言えば何か久しぶりだなぁ。故郷の話をするのも。話して無いことあったっけ…。」
「…じゃあ歌を教えて。故郷の歌。歌ってよ。なんでも良いから。」
「うぇぇ…?いやちょっと恥ずかしいし…。」
「広場ではあんなに大声で歌ってたじゃない。良いでしょ?」
「いやあれは大分酔ってたし…。」
「じゃあ私笛吹くから。それなら恥ずかしくないでしょ?お酒も飲んでいいからさ。私結構上手いから。高貴な人間の嗜みって奴ね。」
「…っふっふ、高貴って。わぁかったよ…。あ~何にするか。…じゃあ…。」
結局あまり上手く歌えなかった。
モニの吹く笛がとても綺麗で、聞き入ってしまったから。
彼女の笛は、とても美しく、綺麗で。
悲しい音色に聞こえた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「ようこそお越しくださいました。お初にお目見えします。ヒュロッキン・ヴォブリーと申します。ナガルス族に庇を借りております巨人族の、取り纏めなぞをしております。」
で、でかい…。
ルド婆さんもヴァルもでかかったけど更にもう一回りでかい。
2m…いや3mはいってない…か?
やっぱり巨人族ってこんなにでかいもんなのか…。
っていうかでかいって凄いな。それだけで圧倒される。
…なんか殴り合いしたら負けそう。女の人なのに…。
でもまさか総本家城郭の地下にこんなでかい魔法陣があったなんて知らなかった。
学校の教室くらいのでかい魔法陣が何個も何個も。
ここで転移魔法の研究をしてたのか?
「あ…っと、はじめまして。ヒュロッキンさん。あの…ショーと申します。」
「良く良く存じておりますとも、ショー様。それと私共に敬語なんておやめください。あなた様はシャモーニ様と共に未来のナガルスを治めるお方。どうぞ私共を貴方の手足と思い、お使いください。私の事はヒュリーと。」
「あ、はい。ヒュリーさん。…いや、ヒュリー。シャモーニと結婚したのは知ってると思うけど、これからも宜しく頼む。」
「もちろんでございます。ショー様。知っているのは貴方様がご結婚された事だけではありません。貴方様が我が同族を救って下さったこと、存じ上げております。」
「あぁ、そのことか…。…。…ただ貴方方は優しき巨人の末裔でしょう?…俺が救ったのは…悪しき巨人の末裔だ。…それでも同胞なのかい?」
「…ふふ…。優しき悪しき等周りが言い始めたに過ぎません。我々は昔二つの陣営に分かれて戦い、我々が勝利し彼らが敗北した。ただそれだけのことでございます。呪いを受け世代を重ねざるを得なくなった今、昔に戦った者は皆、息絶えました。あとに残ったのは…いずれ滅びゆく運命を共にした同胞だけでございます。」
「…いずれ滅びゆく…?」
「我ら巨人は皆、寿命が短くなり、身体は小さくなり、子は一人しか残せなくなり、魔力も少なくなっているのです。良くなってるのは頭の方だけでしょうか。まだ幾世代も先の話でございましょうが…いずれ消えて無くなる一族なのですよ。」
「…そうか…。…では何故貴方方巨人族は…ナガルスに協力したり、ハルダニヤに協力したりする?いずれ消えて無くなる…そんな未来しか無いのなら、どこかの片隅でひっそりと暮らす。そう考えるのも自然だと思うが。古き末裔達のように…。」
「…南部大陸の彼らの事を仰っているのですね?彼らが何を考えているのか…わかりません。何よりナガルス族に連なる我らも外界との接触を控えておりますので。ただハルダニヤに巨人がいたとしても、ハルダニヤ国に協力していたとしても彼らを責めること等出来ません。」
「…それは…何故だ?」
少し。
少しだけイラッとした。
サイードが捧げられたのは、多かれ少なかれハルダニヤ国のせいだろ?
人族が協力してれば封印なんて真似はしなくて済んだかも知れない。
ハルダニヤ国が協力してれば生贄なんてもっと早く無くなったかも知れない。
佑樹だって召喚されなかったろうし、モニだってあんな苦しむことはなかった。
それを分かって言ってんのかよ。
「ショー。落ち着いて…。」
「…確かに彼らはナガルス族の敵でございます。そうである以上、我らの敵であることも変わりありません。しかし我ら巨人の末裔が寄る辺無く漂うには、あまりに多くの敵が居るのです。悪しき巨人の末裔を率いているのがどこぞの誰ぞかは知りませんが、一族の命と安寧を勝ち取るために大樹に阿る決断をしたとしても、私はそれを責めることなどできません。」
「…。」
「ショー様も我ら巨人の末裔が人族にどのような扱いを受けているか…ご存知でしょう。我等のみで安住の地を探すのは難しいのです。それだけで人族に仇なすと思われる。庇護なくして定住できずと判断してしまうのは…わかります。例えそれが他の誰かを犠牲にするものであってもです。守りたいものが大事であればあるほど強くあり続けるのは難しいと、私もこの立場になってようやくわかったのですけどね…。」
「…そうですね。大事なものがあるほど、どんな卑怯にも成り下がるのは…わかる。強く居続けられるのはきっと他の何よりも自分が大事なやつなんだろうな…。」
「いえいえ。そう結論を急ぐものでもありませんよ。中には全てを抱えて突き進むような豪傑もおりますしね。ショー様はまさにそうでしょう。ただ我々は違ったのです。」
「そうだといいけどな。…そう言えばここで転移魔法の研究をしてるのか?ここにこれ程魔法陣が沢山あるとは思わなかった。あまり貴方達を見かけたことはなかったけど。」
「いえいえ、ここが研究の拠点ではありませんよ。この魔方陣は転移魔法陣で…これら一つ一つが様々な浮島や大陸に繋がっているのです。我等が研究拠点は別の浮島にございます。今回はこれらの魔法陣を存分に使ってくださいませ。我等助力は惜しみません。しばらくはここに我等が一族が常に控えておりますゆえ、いつでもお好きなようにお使いください。」
「ああ、ありがとう。」
「それと今回ナカダチ殿とミキ殿を探索するに当たりナガルス族からの協力者もございます。まずは彼女、リザン・メルレイン殿です。」
「…リザン・メルレインです。…この度は…ナガルス様の…ご命令を受け…この任務に参加…いたします。身命を賭し…皆様のお役に…立ちます…。」
ゆっくり喋るなぁ~。
でも動作がゆっくりって訳じゃないな。目は常にキョロキョロしてるし、常に誰かの顔を伺ってる。
しかし何よりも珍しいのは…。
「ああ…その…よろしく頼む。その…身命まで賭けなくて良いけどさ…。そういえば、君は黒目黒髪で羽…も無いんだね?結構珍しいような…?」
「よろしく…お願いいたします。…ショー様。…我々は…生まれたときに…自らの羽を…毟るのです。仕事をするために…羽は邪魔に…なります。」
なんの仕事だよぅ。
生まれつきの羽を毟る位は普通にやる仕事ってなんだよぅ。
スパイ…暗さ…。
まぁいい。あまりそこら辺は突っ込まずにおこう。
「シャモーニ様…勇者様…不詳の身なれど…よろしくお願い…致します…。」
「ええ。貴方の功績は必ず全て、母に伝えます。」
「あー、どーも。よろしくお願いします。佑樹です。」
やっぱモニはナガルス族の前になると威厳があるな。見習わねば。
「彼女は人族の生活圏での諜報活動に長けています。生まれたときからそういった教育を受けておりますれば。ハルダニヤの文化、地理、歴史に詳しく、皆さんの調査にお役に立つことは間違いないでしょう。」
「そうですか。それは頼もしいです。俺も佑樹も人族ではあるんですけど、ハルダニヤ国の文化に精通してるかというと…。」
「そうだよなぁ。生活は出来るけど知識にかなり偏りがあるからな。」
「お任せ…下さい…。人探しにも…コツがありますれば…。」
「うんうん。お二方が優しい方で良かった。さて、もう一人はシュワード殿です。こちらもガダム第3分家の優秀な若者ですよ。」
「ガダム…?あれ?」
「はい!シュワード・ガダム・ル・アマーストと申します!アツ曾祖母様には皆さんの事をよく聞いております!少しでも皆さんのお力になれればと!よろしくお願いします!」
「ああ。そういえば自分の所の子を協力させるとか言ってたわね。…本当に差し込んでくるとは思わなかったけど。」
「まぁまぁ。いいじゃん。よろしく頼むよ。シュワード…君?男の子…?女の子…?」
「はい!自分は男です!よく女に間違われますけど!男ですから!っへっへっへ。」
おう…。
年齢が若い。多分12…13、14?位か?
だからかわからないけど中性的で性別の区別がつかない。
声も声変わり前っぽいから高いし、肌はつるつるしてるし、目は大きいし、髪は短いけどショートヘアって言われればそうだし。
あとそれとあと。
「僕はガーク会派第3期生なんです!是非ともショー様のお力になりたくて!羽無しですので地上での活動には慣れてます!」
「お、うん。うんヨロシクね。」
なんか…近くない?あれ?気の所為?勘違い?いやでも男だし。なんかここでやめろよって言ったら逆に意識してんの?みたいな?
「男同士か…。…まぁいいか。」
モニさん。良いんですか。いや良くないです。僕が。
「彼は非常に優秀で、冒険者をしながら革細工師としても活動しております。それで地上の諜報活動みたいな事もしてもらっているそうです。確か…アダウロラ会派の剣術も修めているのですよね?かなりの腕だと聞いていますよ。」
「いえ!皆伝ではありませんので!剣だけだと精々荘園級程度の腕です!皆様には遠く及びませんよ!あはっはっは!」
「そ…そう…。」
元気だなぁ…。
「いやいや。羽無しとして生まれたにも係わらず、腐らず、人族の剣術を修めるまで努力するのは中々出来ることじゃありませんよ。アツ様もそこを見込んで貴方をこの任務に任じたんでしょうから。」
「いえいえ。羽が無いからと腐ってもしょうがないですからね~。グジグジ言ってる方々も居るみたいですが…。」
ううん?
あれ?ちょっと…リザンさんの方見た?
いや気のせいか。いくら何でもこんな所でいきなりふっかけるなんてそんな…。
「…我が一族は…汚名を灌ぐ…そのために自らの…誇りを捨てたのです…。…最初から誇りがない…方にはわからないでしょうが…。」
「…はぁ?…さっすが、誇りを無くして泥を啜っていらっしゃる方々は仰る事が違いますね?」
「…ッチ。土竜はてめぇだろうが。」
「…やんのかよアバズレェ。」
え?え?
おいおい?
ちょっと、あれ?
何かパリパリ鳴ってない?辺りも暗く…あれ風?暗い?
え?ちょ?え?
これまじヤバいやつ?
ど、え?どうしたらいいの?
「私達の前でそのような醜態を良く晒すな?わざとやっているのか?…一族にそのまま突き返してやろうか?」
「…は!申し訳ありませんでした!」
「…失礼…致しました…。」
うおお…モニ慣れてる。
こういう所は流石だな。
こうも簡単に俺はできない。
そうか。こういうふうに一族に失敗を伝えられるのが不味いのか。
そのまま一族の不名誉になるわけだからな。
いざとなったら俺も使うか。…いやそこら辺の背景も一応聞いてから使うか…。
「…まぁ、色々癖はある方々ですが腕が良いのは確かですから。地上での行動にも精通しておりますし。それでいて今すぐ都合がつくのがなんとかこの二人という理由もあるのですよ。下で活動できるナガルス族は限られて居ますからね。…それと実はあと一人…。」
「…気づいてるわよ。…ハミン。なんであんたここに居るのよ。さっきからヒュリーの後ろでチラチラニヤニヤ。まさか付いてくるなんて言わないでしょうね。」
「モニ様。ではどちらの方がモニ様のお世話をするというのです?ショー様捜索の時は多くの一族が協力しましたし女性も居ました。問題はなかったでしょう。しかし今回は少数精鋭。モニ様のお世話が出来る方が居るとは思えませんが?」
「…それは…リザンだって居る…いや自分で…出来るし…。」
うん。一回リザンを見たけど速攻で目を逸らされたもんね。しょうがないよね。
「は?自分で?本当ですか?これはこれは…化粧もご不浄もお料理もご自分で出来るようになっていらしたとは…このハミン、感動いたしました。」
「いや化粧…はあれだけど料理は私じゃなくたって別に…。」
「はぁ、なるほど。恐らく野営が多くなると思いますが、料理を旦那様にさせるのですね?まぁリザン様にして頂くという方法もありますが…。」
「…。」
「…。」
リザンはずっと下向いてるね。彼女は料理無理だろうな。
逆にシュワードが堂々としてるんだけど。
「別に出来る人がやればいい!緊急事態に女としてどうのこうのなんて言う方がおかしいでしょ!」
「私が帯同すれば少なくとも料理で困らせることはありませんよ。昔は諸国を回っておりましたし一通りの技術も修めております。料理もできますしね。夜は笛と弦弾きでお慰めできますし。」
「…!…まぁ…確かに楽師としては見事だけど…なんか珍しいじゃない。腕が立つわけじゃないのに危険な任務に付いてくるなんて。」
「何故でしょうかね。これも巫女の系譜のせいでしょうか。なんとなくそうした方がいい気がするのですよ。吟遊詩人としての勘かも知れません。」
「…巫女の血か…。しょうがないわね。それならいいよ。は~、しょうがないけど。」
「…あの、モニ?この…ハミンさん。モニの世話人だよね?いつも一緒にいる…?」
「世話人っていうかもう乳母よね。生まれたときから殆ど一緒に居るもの。」
「皆様お初にお目見えします。ハミンと申します。いえ、ショー様はもちろんご存知でしょうけど。乳は出ませんからね?まだ未婚なので。」
「ええ…よろしく、お願い…いやちょっと待ってください。この捜索はかなり厳しい状況にもなりますよ?戦闘能力が無いとかなり厳しいかと…。」
「確かに戦闘能力はありません。ただし旅のいろはには詳しいですよ。南部大陸にも開拓の大地にも精通してます。昔はとにかく旅続きだったもので。それに戦闘能力は無いからといって皆様の戦力になれないわけではありませんよ?」
「?それは一体どういう…。」
「…ショー。このハミンは確かに戦える訳じゃないけど…凄い役に立つのよ…。」
「えっと…。」
「改めてご紹介させて頂きます。見越したる三眼の民の一族、奏楽三眼のハミンと申します。以後、よろしくお願い致します。」
「え…?」
「マジかよ…。」
「これは…!初めてお会いしました…!」
「三眼の…民…。」
いつも深く被っていた帽子。ナースキャップみたいだと思ってたけど、それはこの額の目を隠すためだったのか…。
本当に額のど真ん中に目がある。あ、パチパチしてる。瞬きするんだ…あの目。
「まぁこういう訳でね。彼女は獣人族の一部族である三眼の民の出なの。巫女程じゃないし、未来を予知出来る訳でも無いんだけど…勘がもの凄いのよ。状況にもよるけど三択位まではほぼ絶対当てるしね。手探りでどうしたら良いかわからないって時には意外と役に立ってくれると思う。」
「はい。モニ様からご紹介していただいたとおりです。この目がある限り不意打ち等は絶対にされません。ある程度情報が絞れれば、私が最終的に決めることができます。人探しにはかなり打って付けかと。それに歌も笛も上手いですよ。ふふん。」
「なるほど…。確かにそれはありがたいです。けど歌と笛ですか?ハミンさんにあまりそういう印象は無いのですが…。」
「最近は吹いて無いわね。そう言えば。でも私の師匠だからかなり上手いのよ。」
「そうなの?モニの師匠なら…相当上手いんでしょうね。これは楽しみです。」
「上手くいけば三眼の民の巫女のお力を貸していただけるかも知れません!それも考えれば是非ハミんさんには仲間に加わっていただきたいです!」
「あと…料理も…助かります…。」
「お任せあれお任せあれ。…まぁ巫女に協力してもらえるかはわからないですが…。」
「うしっ!それじゃ行こうか!ヒュリー、頼む。」
「は。皆様こちらの魔法陣に…。」
おお…しかしかなりの数の魔法陣だ。
この中からどれを選べば良いのかなんて分からん。これはヴォブリー一族に聞かないと分かんないな。
「こちらに乗っていただき…この端の手形に手を載せ魔力を流して下さい。内なる魔力でも外なる魔力でも構いません。最初はザリー公爵領近辺の浮島に転移します。」
古代魔法に使う魔力か現代魔法に使う魔力かか。どちらでも良いんだな。
「じゃあ…行くぞ!」
魔力を…ッグっと流し…ゥエッ!引っ張ら。
俺達はもう寝る寸前。ベッドの上。
そんな時にとめどない話をすることもあれば、ナガルス族の事をモニに教えてもらうこともある。
今日は、そんな日。
「…う~ん。まぁそうね。使えるというと少し…。まぁその通りかな。理屈で考えれば誰でも転移魔法は使えるらしいんだけど、実際はその一族しか使えない。それはずっと転移魔法を研究してきたからという理由もあるけど、もう一つの理由があるとも言われてる。」
「もう一つ?」
「それは…彼らのように巨人の一族でなければならないの。巨人と古代魔法はとても親和性が高いと言われているから…だから彼らしか使えない。」
「巨人の一族…ヴァルと一緒の…巨人の末裔ってことだよな?」
「うん。その通り。でもまさかハルダニヤ国にも巨人の末裔が居たとは知らなかった。いえ、もしいるのだとしたら不味いのかも知れない…。」
「?不味い?なんで?だって…巨人の末裔が暮らしている…国?里?みたいな所はあるんだろ?だったら他の所にも巨人の末裔が居てもおかしくないだろ?旅行とかしてそのまま住み着いちゃうことだってあるかも知れないし。まぁルド婆さんはハルダニヤ国出身っぽい事を言ってたけど。」
「そう、そこなのよ。ショーの話から推測するに…どうやら巨人達は色々な場所で生き残ってる可能性がある…。…一番有名な場所は南部大陸にある…古き巨人の末裔と呼ばれる人達が住んでる所。彼らは決して兵を持たず他国に攻め入ったりはしない。もちろん攻め込まれれば反撃するけど、まぁ巨人に喧嘩売ろうなんて馬鹿は今も昔も殆どいないけど。」
「へぇ。巨人の国があるとは聞いてたけどそういう感じか。もしヴァルが今もザリー公爵領で迫害され続けてたら…いつか連れて行ってやろうとも思ってた。まぁ、大丈夫そうだったけどさ。」
「それは…いい考えかもね。少なくとも彼らはとても理知的よ。仲間に対しても情が厚い。滅びゆく一族だからこそ数少ない同族は決して裏切らないし、よく助けるから。ただ…。」
「ただ?」
「彼らは仲間以外にはかなり…よそよそしいの。国の中にも入れないし、国境近くの街位なら入れるけどそれくらいね。巨人族以外は中心部に入れないし何より…出さない。決して巨人の国の外には出て来ない。ヴァルをそこに連れていけば多分だけど…もう二度と会えないと思う。」
「おお…そりゃ…だいぶ内向きの方々じゃないか…。でもまぁ…どうしてもヴァルの身が危険になったらそこに連れていけばいいよな?少なくとも守ってくれるんだろ?」
「そうね…確かに守ってくれると思う。話がずれちゃったけど、この古き巨人の末裔たちは所謂勇者との戦いの時に中立だった巨人達が作った国だとされてるの。中立というか我関せずというか…。だから外界を遮断するような姿勢なんだけど…。」
「ふむ…。だとすると巨人の末裔ってのは南部大陸にしかなくて、他の所に巨人が居るのがおかしいってことか?」
「ううん。巨人の末裔はこの浮島にも居るからね。ヴォブリー一族は優しき巨人達の末裔だから。そしてどうやらヴァルちゃんとルド婆さんは悪しき巨人の末裔ということ…。」
「…例え悪しき巨人の末裔だとしても、悪いのは昔の奴等だ。今の彼女達に一体何の関係があるっていうんだ。」
「あ、いやいや。違う違う。私もそういう事が言いたい訳じゃなくって…。えっと何を言おうとしたんだっけ…。えっと、あぁ、そうだ。私達が匿って保護してる優しき巨人の末裔、つまりヴォブリー一族は、彼らの古代魔法に対しての親和性と深い知識を引き換えにここで暮らしてるの。まぁ…下品な言い方をすれば、匿ってやるから魔法技術をよこせって感じ?」
「あ、そっか。うん…なるほど。優しき巨人の末裔とはいえ、恐らく人族がひしめき合ってる地上では暮らしにくいだろうからな。悪しきとか優しきとかそんなのそこら辺の奴等はわかりゃしないしな。」
「そう…。でも歴史を知ってる人族もいる。特に王族や貴族たちは間違いないと思う…。だからこそ悪しき巨人の末裔は、ハルダニヤ国では優しき巨人の末裔よりもより一層暮らしにくいはず。けど貴方から聞いた感じだと、ヴァルドヴォニカルって人はどうやらハルダニヤ国内に故郷があったような事を言っていた。…恐らくだけどハルダニヤ国が悪しき巨人の末裔を匿ってる…。」
「…。」
「…ヴォブリー一族は転移魔法を差し出した…。では悪しき巨人の末裔は何を差し出してハルダニヤ国の庇護を求めたんだろう…。」
「…確かに…。」
「正直ハルダニヤ国の戦力は、世界でただ一人の古龍騎士オセロス・モナド、ハルダニヤ流兵術開祖ダックス・ディ・アーキテクス、リヴェータ教徒…ここらへんだったの。こいつらは非常に強力だけど…ある意味どういう相手かは分かってた…。」
「確かに…強くて強大だけど予想がつかないって訳じゃないな。そうか…わからない敵が敵の戦力に入ってるかも知れないってこと?」
「入ってるかも…いえまず間違いなく入ってる。でも問題は、それが影も形もわからないってこと。…全然…わからない。悪しき巨人の末裔は…一体何をしてるの?ハルダニヤ国とどんな取引をしてるの…?」
「それは…わからない。多分ヴァルに聞いてもわからないと思う。思うけど…ザリー公爵は何か知っているかも知れない。ルド婆さんとザリー公爵って何か…昔なじみって感じもしたから。もしかしたらなにか知ってるかも…。」
「そうね…。ちょうどザリー公爵領に行くわけだし、聞いてみましょうか。…答えてくれるとは思わないけど。」
「大丈夫じゃない?ザリー公爵は…何ていうか、今のハルダニヤの王族に良い印象を持って感じだったし…。」
「…確かにそんな感じはしたけど…それでも公爵だからね。私達に味方をするほどってわけじゃないと思う。精々指名手配犯の行方を教えてくれるぐらいじゃないかな。知ってたらだけど。」
「そうかな…そうかもしれないな…。そう言えば転移拠点?って初めて聞いたんだけど、そんなのがあるのか?かなり…便利そうじゃないか?」
「そう…ヴォブリー一族の協力の下、大分前に転移魔法を開発出来たの。その転移魔法陣を無人の浮島に設置して世界中を漂わせて…いざっていう時に使うの。こういう時とか…ハルダニヤ国に攻め込む時とかね。」
「…戦争の時に使ってたのか…。ひょっとしてどこからともなくナガルス族が現れるっていうのは…。」
「そう。無作為に漂ってるとされている浮島に、私達の軍を転移させてるの。夜の内にね。彼らは浮島がどのように飛んで居るのかはわからないし、そもそも浮島は魔力を蓄えるために必ずしもヴィドフニルの大樹を通るわけじゃないの。だから私達が管理してる浮島とそうでない浮島の違いなんてわからない。軍を幾つかに分けて転移とか色々してるから、ほぼ出鼻を抑えるのは無理でしょうね。」
「ははぁ、なるほど。軍事的な機密だった訳だ。それじゃあおいそれと話せないか…。」
「そう。軍関係者だけは知ってるけど、戦士のみだけが使うと言ったって人が増えれば情報が漏れる危険はある。一度漏れればかなり不利になる情報でもあるから…今までハルダニヤに攻め入る人数は厳選し、少数にしなければならなかった。だから何度も攻め入ってもあまり成果を得られる事は無かった…。…でも、もう…これで最後。」
「もうバレても構わないってことか…。しっかし転移魔法か…凄いよな。俺のいた国のどんな技術を使ったってこんな凄いこと出来ない。すげぇ研究したんだろうな…。」
「そうね…。…ずっと…ずっとしていた。どんな事をしても。…誰を犠牲にしても…。……ねぇ……ショー…。」
「ん?」
「こ、故郷の…故郷から…。…故郷の…故郷の話を聞かせてよ…久しぶりに…。」
「?ああ、良いよ。そう言えば何か久しぶりだなぁ。故郷の話をするのも。話して無いことあったっけ…。」
「…じゃあ歌を教えて。故郷の歌。歌ってよ。なんでも良いから。」
「うぇぇ…?いやちょっと恥ずかしいし…。」
「広場ではあんなに大声で歌ってたじゃない。良いでしょ?」
「いやあれは大分酔ってたし…。」
「じゃあ私笛吹くから。それなら恥ずかしくないでしょ?お酒も飲んでいいからさ。私結構上手いから。高貴な人間の嗜みって奴ね。」
「…っふっふ、高貴って。わぁかったよ…。あ~何にするか。…じゃあ…。」
結局あまり上手く歌えなかった。
モニの吹く笛がとても綺麗で、聞き入ってしまったから。
彼女の笛は、とても美しく、綺麗で。
悲しい音色に聞こえた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「ようこそお越しくださいました。お初にお目見えします。ヒュロッキン・ヴォブリーと申します。ナガルス族に庇を借りております巨人族の、取り纏めなぞをしております。」
で、でかい…。
ルド婆さんもヴァルもでかかったけど更にもう一回りでかい。
2m…いや3mはいってない…か?
やっぱり巨人族ってこんなにでかいもんなのか…。
っていうかでかいって凄いな。それだけで圧倒される。
…なんか殴り合いしたら負けそう。女の人なのに…。
でもまさか総本家城郭の地下にこんなでかい魔法陣があったなんて知らなかった。
学校の教室くらいのでかい魔法陣が何個も何個も。
ここで転移魔法の研究をしてたのか?
「あ…っと、はじめまして。ヒュロッキンさん。あの…ショーと申します。」
「良く良く存じておりますとも、ショー様。それと私共に敬語なんておやめください。あなた様はシャモーニ様と共に未来のナガルスを治めるお方。どうぞ私共を貴方の手足と思い、お使いください。私の事はヒュリーと。」
「あ、はい。ヒュリーさん。…いや、ヒュリー。シャモーニと結婚したのは知ってると思うけど、これからも宜しく頼む。」
「もちろんでございます。ショー様。知っているのは貴方様がご結婚された事だけではありません。貴方様が我が同族を救って下さったこと、存じ上げております。」
「あぁ、そのことか…。…。…ただ貴方方は優しき巨人の末裔でしょう?…俺が救ったのは…悪しき巨人の末裔だ。…それでも同胞なのかい?」
「…ふふ…。優しき悪しき等周りが言い始めたに過ぎません。我々は昔二つの陣営に分かれて戦い、我々が勝利し彼らが敗北した。ただそれだけのことでございます。呪いを受け世代を重ねざるを得なくなった今、昔に戦った者は皆、息絶えました。あとに残ったのは…いずれ滅びゆく運命を共にした同胞だけでございます。」
「…いずれ滅びゆく…?」
「我ら巨人は皆、寿命が短くなり、身体は小さくなり、子は一人しか残せなくなり、魔力も少なくなっているのです。良くなってるのは頭の方だけでしょうか。まだ幾世代も先の話でございましょうが…いずれ消えて無くなる一族なのですよ。」
「…そうか…。…では何故貴方方巨人族は…ナガルスに協力したり、ハルダニヤに協力したりする?いずれ消えて無くなる…そんな未来しか無いのなら、どこかの片隅でひっそりと暮らす。そう考えるのも自然だと思うが。古き末裔達のように…。」
「…南部大陸の彼らの事を仰っているのですね?彼らが何を考えているのか…わかりません。何よりナガルス族に連なる我らも外界との接触を控えておりますので。ただハルダニヤに巨人がいたとしても、ハルダニヤ国に協力していたとしても彼らを責めること等出来ません。」
「…それは…何故だ?」
少し。
少しだけイラッとした。
サイードが捧げられたのは、多かれ少なかれハルダニヤ国のせいだろ?
人族が協力してれば封印なんて真似はしなくて済んだかも知れない。
ハルダニヤ国が協力してれば生贄なんてもっと早く無くなったかも知れない。
佑樹だって召喚されなかったろうし、モニだってあんな苦しむことはなかった。
それを分かって言ってんのかよ。
「ショー。落ち着いて…。」
「…確かに彼らはナガルス族の敵でございます。そうである以上、我らの敵であることも変わりありません。しかし我ら巨人の末裔が寄る辺無く漂うには、あまりに多くの敵が居るのです。悪しき巨人の末裔を率いているのがどこぞの誰ぞかは知りませんが、一族の命と安寧を勝ち取るために大樹に阿る決断をしたとしても、私はそれを責めることなどできません。」
「…。」
「ショー様も我ら巨人の末裔が人族にどのような扱いを受けているか…ご存知でしょう。我等のみで安住の地を探すのは難しいのです。それだけで人族に仇なすと思われる。庇護なくして定住できずと判断してしまうのは…わかります。例えそれが他の誰かを犠牲にするものであってもです。守りたいものが大事であればあるほど強くあり続けるのは難しいと、私もこの立場になってようやくわかったのですけどね…。」
「…そうですね。大事なものがあるほど、どんな卑怯にも成り下がるのは…わかる。強く居続けられるのはきっと他の何よりも自分が大事なやつなんだろうな…。」
「いえいえ。そう結論を急ぐものでもありませんよ。中には全てを抱えて突き進むような豪傑もおりますしね。ショー様はまさにそうでしょう。ただ我々は違ったのです。」
「そうだといいけどな。…そう言えばここで転移魔法の研究をしてるのか?ここにこれ程魔法陣が沢山あるとは思わなかった。あまり貴方達を見かけたことはなかったけど。」
「いえいえ、ここが研究の拠点ではありませんよ。この魔方陣は転移魔法陣で…これら一つ一つが様々な浮島や大陸に繋がっているのです。我等が研究拠点は別の浮島にございます。今回はこれらの魔法陣を存分に使ってくださいませ。我等助力は惜しみません。しばらくはここに我等が一族が常に控えておりますゆえ、いつでもお好きなようにお使いください。」
「ああ、ありがとう。」
「それと今回ナカダチ殿とミキ殿を探索するに当たりナガルス族からの協力者もございます。まずは彼女、リザン・メルレイン殿です。」
「…リザン・メルレインです。…この度は…ナガルス様の…ご命令を受け…この任務に参加…いたします。身命を賭し…皆様のお役に…立ちます…。」
ゆっくり喋るなぁ~。
でも動作がゆっくりって訳じゃないな。目は常にキョロキョロしてるし、常に誰かの顔を伺ってる。
しかし何よりも珍しいのは…。
「ああ…その…よろしく頼む。その…身命まで賭けなくて良いけどさ…。そういえば、君は黒目黒髪で羽…も無いんだね?結構珍しいような…?」
「よろしく…お願いいたします。…ショー様。…我々は…生まれたときに…自らの羽を…毟るのです。仕事をするために…羽は邪魔に…なります。」
なんの仕事だよぅ。
生まれつきの羽を毟る位は普通にやる仕事ってなんだよぅ。
スパイ…暗さ…。
まぁいい。あまりそこら辺は突っ込まずにおこう。
「シャモーニ様…勇者様…不詳の身なれど…よろしくお願い…致します…。」
「ええ。貴方の功績は必ず全て、母に伝えます。」
「あー、どーも。よろしくお願いします。佑樹です。」
やっぱモニはナガルス族の前になると威厳があるな。見習わねば。
「彼女は人族の生活圏での諜報活動に長けています。生まれたときからそういった教育を受けておりますれば。ハルダニヤの文化、地理、歴史に詳しく、皆さんの調査にお役に立つことは間違いないでしょう。」
「そうですか。それは頼もしいです。俺も佑樹も人族ではあるんですけど、ハルダニヤ国の文化に精通してるかというと…。」
「そうだよなぁ。生活は出来るけど知識にかなり偏りがあるからな。」
「お任せ…下さい…。人探しにも…コツがありますれば…。」
「うんうん。お二方が優しい方で良かった。さて、もう一人はシュワード殿です。こちらもガダム第3分家の優秀な若者ですよ。」
「ガダム…?あれ?」
「はい!シュワード・ガダム・ル・アマーストと申します!アツ曾祖母様には皆さんの事をよく聞いております!少しでも皆さんのお力になれればと!よろしくお願いします!」
「ああ。そういえば自分の所の子を協力させるとか言ってたわね。…本当に差し込んでくるとは思わなかったけど。」
「まぁまぁ。いいじゃん。よろしく頼むよ。シュワード…君?男の子…?女の子…?」
「はい!自分は男です!よく女に間違われますけど!男ですから!っへっへっへ。」
おう…。
年齢が若い。多分12…13、14?位か?
だからかわからないけど中性的で性別の区別がつかない。
声も声変わり前っぽいから高いし、肌はつるつるしてるし、目は大きいし、髪は短いけどショートヘアって言われればそうだし。
あとそれとあと。
「僕はガーク会派第3期生なんです!是非ともショー様のお力になりたくて!羽無しですので地上での活動には慣れてます!」
「お、うん。うんヨロシクね。」
なんか…近くない?あれ?気の所為?勘違い?いやでも男だし。なんかここでやめろよって言ったら逆に意識してんの?みたいな?
「男同士か…。…まぁいいか。」
モニさん。良いんですか。いや良くないです。僕が。
「彼は非常に優秀で、冒険者をしながら革細工師としても活動しております。それで地上の諜報活動みたいな事もしてもらっているそうです。確か…アダウロラ会派の剣術も修めているのですよね?かなりの腕だと聞いていますよ。」
「いえ!皆伝ではありませんので!剣だけだと精々荘園級程度の腕です!皆様には遠く及びませんよ!あはっはっは!」
「そ…そう…。」
元気だなぁ…。
「いやいや。羽無しとして生まれたにも係わらず、腐らず、人族の剣術を修めるまで努力するのは中々出来ることじゃありませんよ。アツ様もそこを見込んで貴方をこの任務に任じたんでしょうから。」
「いえいえ。羽が無いからと腐ってもしょうがないですからね~。グジグジ言ってる方々も居るみたいですが…。」
ううん?
あれ?ちょっと…リザンさんの方見た?
いや気のせいか。いくら何でもこんな所でいきなりふっかけるなんてそんな…。
「…我が一族は…汚名を灌ぐ…そのために自らの…誇りを捨てたのです…。…最初から誇りがない…方にはわからないでしょうが…。」
「…はぁ?…さっすが、誇りを無くして泥を啜っていらっしゃる方々は仰る事が違いますね?」
「…ッチ。土竜はてめぇだろうが。」
「…やんのかよアバズレェ。」
え?え?
おいおい?
ちょっと、あれ?
何かパリパリ鳴ってない?辺りも暗く…あれ風?暗い?
え?ちょ?え?
これまじヤバいやつ?
ど、え?どうしたらいいの?
「私達の前でそのような醜態を良く晒すな?わざとやっているのか?…一族にそのまま突き返してやろうか?」
「…は!申し訳ありませんでした!」
「…失礼…致しました…。」
うおお…モニ慣れてる。
こういう所は流石だな。
こうも簡単に俺はできない。
そうか。こういうふうに一族に失敗を伝えられるのが不味いのか。
そのまま一族の不名誉になるわけだからな。
いざとなったら俺も使うか。…いやそこら辺の背景も一応聞いてから使うか…。
「…まぁ、色々癖はある方々ですが腕が良いのは確かですから。地上での行動にも精通しておりますし。それでいて今すぐ都合がつくのがなんとかこの二人という理由もあるのですよ。下で活動できるナガルス族は限られて居ますからね。…それと実はあと一人…。」
「…気づいてるわよ。…ハミン。なんであんたここに居るのよ。さっきからヒュリーの後ろでチラチラニヤニヤ。まさか付いてくるなんて言わないでしょうね。」
「モニ様。ではどちらの方がモニ様のお世話をするというのです?ショー様捜索の時は多くの一族が協力しましたし女性も居ました。問題はなかったでしょう。しかし今回は少数精鋭。モニ様のお世話が出来る方が居るとは思えませんが?」
「…それは…リザンだって居る…いや自分で…出来るし…。」
うん。一回リザンを見たけど速攻で目を逸らされたもんね。しょうがないよね。
「は?自分で?本当ですか?これはこれは…化粧もご不浄もお料理もご自分で出来るようになっていらしたとは…このハミン、感動いたしました。」
「いや化粧…はあれだけど料理は私じゃなくたって別に…。」
「はぁ、なるほど。恐らく野営が多くなると思いますが、料理を旦那様にさせるのですね?まぁリザン様にして頂くという方法もありますが…。」
「…。」
「…。」
リザンはずっと下向いてるね。彼女は料理無理だろうな。
逆にシュワードが堂々としてるんだけど。
「別に出来る人がやればいい!緊急事態に女としてどうのこうのなんて言う方がおかしいでしょ!」
「私が帯同すれば少なくとも料理で困らせることはありませんよ。昔は諸国を回っておりましたし一通りの技術も修めております。料理もできますしね。夜は笛と弦弾きでお慰めできますし。」
「…!…まぁ…確かに楽師としては見事だけど…なんか珍しいじゃない。腕が立つわけじゃないのに危険な任務に付いてくるなんて。」
「何故でしょうかね。これも巫女の系譜のせいでしょうか。なんとなくそうした方がいい気がするのですよ。吟遊詩人としての勘かも知れません。」
「…巫女の血か…。しょうがないわね。それならいいよ。は~、しょうがないけど。」
「…あの、モニ?この…ハミンさん。モニの世話人だよね?いつも一緒にいる…?」
「世話人っていうかもう乳母よね。生まれたときから殆ど一緒に居るもの。」
「皆様お初にお目見えします。ハミンと申します。いえ、ショー様はもちろんご存知でしょうけど。乳は出ませんからね?まだ未婚なので。」
「ええ…よろしく、お願い…いやちょっと待ってください。この捜索はかなり厳しい状況にもなりますよ?戦闘能力が無いとかなり厳しいかと…。」
「確かに戦闘能力はありません。ただし旅のいろはには詳しいですよ。南部大陸にも開拓の大地にも精通してます。昔はとにかく旅続きだったもので。それに戦闘能力は無いからといって皆様の戦力になれないわけではありませんよ?」
「?それは一体どういう…。」
「…ショー。このハミンは確かに戦える訳じゃないけど…凄い役に立つのよ…。」
「えっと…。」
「改めてご紹介させて頂きます。見越したる三眼の民の一族、奏楽三眼のハミンと申します。以後、よろしくお願い致します。」
「え…?」
「マジかよ…。」
「これは…!初めてお会いしました…!」
「三眼の…民…。」
いつも深く被っていた帽子。ナースキャップみたいだと思ってたけど、それはこの額の目を隠すためだったのか…。
本当に額のど真ん中に目がある。あ、パチパチしてる。瞬きするんだ…あの目。
「まぁこういう訳でね。彼女は獣人族の一部族である三眼の民の出なの。巫女程じゃないし、未来を予知出来る訳でも無いんだけど…勘がもの凄いのよ。状況にもよるけど三択位まではほぼ絶対当てるしね。手探りでどうしたら良いかわからないって時には意外と役に立ってくれると思う。」
「はい。モニ様からご紹介していただいたとおりです。この目がある限り不意打ち等は絶対にされません。ある程度情報が絞れれば、私が最終的に決めることができます。人探しにはかなり打って付けかと。それに歌も笛も上手いですよ。ふふん。」
「なるほど…。確かにそれはありがたいです。けど歌と笛ですか?ハミンさんにあまりそういう印象は無いのですが…。」
「最近は吹いて無いわね。そう言えば。でも私の師匠だからかなり上手いのよ。」
「そうなの?モニの師匠なら…相当上手いんでしょうね。これは楽しみです。」
「上手くいけば三眼の民の巫女のお力を貸していただけるかも知れません!それも考えれば是非ハミんさんには仲間に加わっていただきたいです!」
「あと…料理も…助かります…。」
「お任せあれお任せあれ。…まぁ巫女に協力してもらえるかはわからないですが…。」
「うしっ!それじゃ行こうか!ヒュリー、頼む。」
「は。皆様こちらの魔法陣に…。」
おお…しかしかなりの数の魔法陣だ。
この中からどれを選べば良いのかなんて分からん。これはヴォブリー一族に聞かないと分かんないな。
「こちらに乗っていただき…この端の手形に手を載せ魔力を流して下さい。内なる魔力でも外なる魔力でも構いません。最初はザリー公爵領近辺の浮島に転移します。」
古代魔法に使う魔力か現代魔法に使う魔力かか。どちらでも良いんだな。
「じゃあ…行くぞ!」
魔力を…ッグっと流し…ゥエッ!引っ張ら。
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