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第2章

第14話

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 今日も朝の鐘がなる。

 最近は順調に狩りが出来ている。

 魔法の手を棒のように伸ばして探査する方法も少し変わってきた。魔法の薄さをもっともっと薄くしていくと、糸のような細さでも広げられることがわかった。よくわからないのだが、棒のようなものをイメージして伸ばしていくとどうしても途中で重力に負けて地面に着いたり折れたりしてしまう。もちろんこれはイメージ上の話だと思うのだが、どうしても自分のイメージがそう引っ張られていた。だからどうしてもある一定上の距離の探査ができなかった。ところが、魔力をなるべく薄く薄くしていくと自重に負けて折れるということが失くなった。イメージできなくなったと言うべきだろうか。更に棒である必要も感じなくなったため細い糸のように。自分を中心とした蜘蛛の糸のように魔法の糸を張り巡らせている。こうするとかなりの距離まで探査できる。大体2~300m先まではわかる。難点としては精度が悪くなったことだ。この生き物がどの程度の大きさとか、強さとかといったことがわかりにくくなった。しかし、その分張り巡らせている糸に数多く引っかかるため、数で精度を補っていると行ったところだろうか。

 探査の方はうまく行っているが、ナイフの投擲の修正はゆっくりとしたものだ。まず、風の属性魔法を使うという点は間違っていないと思う。風の属性魔法を使ってナイフを飛ばそうと思えば飛ばせる。かなりの勢いでだ。しかしコントロールがめちゃくちゃだ。しかも、陸に上がった魚かってくらいナイフが荒ぶっている。相手にとっても危険だけど味方にとっても危険だろ。…おれ一人だけど。…いや、ほら、護衛対象とかさ。色々あるじゃない。あと、ナイフに魔力を込めながら風の属性魔法を使うのが地味に難しい。片手で魔力をこめ、もう片方の手で風の属性魔法を使いナイフを飛ばすって言うことはできる。でもできればこれを片手で全部したい。そうすれば、もう片方は盾や大型のナイフを持てる。ナイフを外套の下に隠すこともできる。

 まぁ、そんなこんなでナイフ投擲はあまりうまく行っていない。弓とかにしようかとも考えたが、今よりさらに技術が必要そうで諦めた。弩…というのも考えてみたが、装填に時間がかかるのが嫌な感じだ。ナイフはすぐに次の物に切り替えられる。魔力を込めれば威力は十分。しかも、材料は無限にあると来た。結構魅力的な武器だと思うんだが。いろいろ考えてみたけど、結局のところずっとナイフを作ってきたからか大分愛着が湧いてきてしまっているのが大きい。まぁ、飛距離はちょっと少ないけど…ちょっとだけさ。

 鐘の音がなってから一時間。きっちり読み書きの練習をする。読み書きの練習はとにかく覚える。それに尽きる。今ではもらった冊子に買いてあった話は暗唱できるまでになった。暗証できるようになったら、書いてある文字と、自分の音読を対応させる。その作業をひたすらやる。30分ほどやったら、元の本を見ないで別の紙にその話を書き写す。この作業で間違いがあったら、やり直しだ。これをひたすら繰り返していくという作業だ。最後の方には自分が書き写した紙の冊子が自分用の教科書となるらしい。

 「あんたも熱心だね。毎日来るなんてね。」

 「あ、イニーアさん。おはようございます。」

 「他の奴らは大体2,3日に一回だよ。一週間に一回のやつもいる。」

 「あー、俺って結構短い間に詰め込むタイプなんですよ。だから、短期間でガッっと基礎を覚えて、あとは色々本を読んで勉強してこうかなって…」

 「…ふーん。あんたいいとこの出かい?」

 「え?いや違いますけど…なんでですか?」

 「物腰が丁寧ってのもあるんだけどね…、勉強し慣れてるなぁって思ってね。自分の得意な勉強法が解ってるっていうのは、長い間教育を受けてたんじゃないかって思ってね。」

 「…いや、そんなことはありませんよ。仕事とかでも長い間掛けて教えてもらうよりも、短い間に一気に教えてもらったほうがうまくいくことが多かったんで。」

 「そっかい。でも残念だね。この調子じゃすぐ読み書き覚えちゃうよ。子どもたちも肉が食えて喜んでたんだけどね。」

 「あ、じゃあ、これが終わっても治癒魔法とか教えてもらえませんか?もちろんその間は今まで通り、修理や食料調達しますよ。」

 「あ~、悪いがそりゃぁ、ダメなんだよ。すまないね。」

 「え?やっぱり門外不出ってやつなんですか?」

 「うん。そうだね。それに近い。まず、治癒魔法はリヴェータ教に入信し、ある一定の期間修行して初めて教えてもらえるんだ。まぁ、入信しちゃえば教えて貰える方法はどうとでもできるんだけど、入信したからにはリヴェータ教の戒律に従わなきゃならないし、何よりリヴェータ教という組織に従属しなけりゃならない。それでも、教えてもらうだけもらってやめるってこともできるが、不思議と治療魔法は使えなくなっている。教えてもらって、リヴェータ教をやめず、好き勝手するって方法もあるけど、それはおすすめしない。リヴェータ教の六番聖騎士団はえげつないからね。リヴェータ教はナグルス族にも厳しいが、裏切り者にはもっと容赦しない。」

 「うぇぇぇぇ…、じゃあ治癒魔法は諦めたほうがいいっすかね…」

 「うん…。あまりおすすめはしないね。リヴェータ教に入信したら自由はなくなるよ。真面目にやってる分には、非人道的ではないしね。ま、権威を守るためってのもあるんだよ。いやらしい話ね。治癒魔法っていうのはあたしたちに許された大きなアドバンテージだからね。これがあるからリヴェータ教にも発言権があるし、どこぞの木っ端貴族だって手を出せない。」

 「へぇ~~…、なんか思ってたよりも俗っぽいんですね。もっと、こう、なんていうか…」

 「ハハッ、不満かい?」

 「いえ、そうでなくてですね…、もっと神の御力によって!とか真の教えが融和を導くのだ!とかおっしゃるのかと思ってました。発言権とかも気にされないと思ってましたよ。」

 「あぁ、なるほどね。入信したての人間はどうだかわからないが、立場が上に行けば行くほど合理的だよ。世の中は損得で動いてるからね。周りの人間に手を出させないためにも、リヴェータ教の損と得をよくよくわかってもらわないとね。発言権だって大事さ。こういった力があるから、寄進も集まるし、その結果親がいない子どもたちの腹がふくれる。」

 「あたしも入った頃は理想に燃えてたりもしたけどね。やっぱ金だわ。金。」

 「直接的すぎますよ…」

 「そう?ウシシシ」

 「そういうことなら、治療魔法は諦めますかね。」

 「その方がいいよ。冒険者やってるなら、リヴェータ教の冒険者もいるからさ。そういうやつと組んだりもできるしね。あと、ここにおいてある本ならいくらでも読んでかまわないよ。治療魔法以外の魔法関係の書物もあるからね。貸出はできないけど。ここで読んだり写本したりはいくらでもかまわないさ。」

 「冒険者にもなれるんですか?」
 
 「冒険者をやってるっていうか、派遣みたいな感じかな。冒険者ギルドとのしがらみもあるからね。」

 「なるほど。まぁ、とにかくここに来る間はなるべく食料調達はしたいと思います。」

 「助かるよ。リヴェータ教にはいってもいいんだよ?あんた真面目そうだからそこそこいいところまで行くんじゃないかな。」

 「…いえ、それは、失礼かもしれませんが絶対ないと思います。…僕はナガルス族のことは嫌いじゃないんです。」

 「…そうかい。あたしも嫌いじゃないんだけどね…。ナガルス族に対するリヴェータ教の教えっていうのは行き過ぎてると思ってるよ…。」

 「…」

 「ま、そういうことならしょうが無い。リヴェータ教はどんなものにも門徒は開いているからね。…人族のみだが…。」

 「……」

 「そんな顔しなさんな。あんたも難儀だね。冒険者なんかわざわざやらなくたっていいだろうに。」

 「…強くなる必要があると思っています。いざという時には強さがないと。守るべきものも守れない事になります。もちろんお金もあったほうがいいですね。」
 
 「アッハッハッハ!そのとおりだ。そのとおりだね…。」

 「…ちなみに、リヴェータ教には呪いに関する魔法もあるとか…」

 それとなく、本題に入る。うまく出来ているのだろうか。

 「……そういう魔法にも興味があるのかい?」

 「そういう魔法が使えれば、魔物相手にも優位に立てるかなと思ったんですが、治療魔法のことを聞くと難しそうですね。」

 「そうだね。呪い魔法に関しては治療魔法よりも厳しく管理されている。悪いけどこれは教えることすら出来ないんだ。呪いは私達が持っている唯一と言っていい敵に攻撃できる武器だからね。…呪いに掛けられた人でもいるのかい?」

 「いえ、そういうわけじゃないですが…、呪いの解呪とかも出来るものなんですか?」

 「……いや、出来ないよ。基本的に呪いはかかりっぱなしさ。罪深き者たちに与えられた罰だからね。」

 雲行きが怪しくなってきたな。話を切り上げたほうがいいかな。

 「まぁ、簡単に解呪できたら呪いのありがたみがなくなりますからね。これからはリヴェータ教の人には逆らわないようにしますよ。」

 「…そうした方がいい。リヴェータ教はいろいろな意味で怖い組織だからね。」

 「そういえば、今日はどれくらいうさぎを狩って来たほうがいいですかね?」

 「ん?あぁ、いや、食料の方はあんたが最近たくさん持ってきてくれるから大分余裕があるんだよ。だからしばらくは大丈夫だよ。」

 「そうですか…。じゃあ、修道院の修繕にしましょうかね。どこか直す所ありますかね?」

 「真面目だねぇ…、正直もう何もしなくても読み書きはきっちり教えるよ?」

 「教わっている限りは出来る限りのことをしますよ。ただ、狩りと違って僕が儲かりませんから、数日に一度の頻度になりますが。」

 「いいよいいよ。それで十分さ。こっちで直してもらいたいところを洗っておくよ。」

 「よろしくお願いします。それじゃあ、僕はいつもの仕事に行きますね。」

 とっととずらかろう。

 どうやら、呪いに関しては調べることすら難しそうだ。門外不出の技術だったなんて知らなかった。

 まぁ、確かにリヴェータ教にナガルスという敵がいるなら手の内を明かすのは難しいよな。

 呪いの調査はこれで一旦終わりか…、やっぱり…呪いを解除することはできなかったんだな…。

 俺は彼女から貰った首飾りを握りしめる。魔力を込めると上空に引っ張られるように持ち上がった。中に入った双子魔石に問題なく魔力が伝わった証拠だ。

 …それでも会いに行けないわけじゃないさ。この親子魔石があれば、いつ浮島が王都に来るかわかる。王都に来たらまた、必ず会いに行こう。メリィも結構適当な奴だからな。体拭いてやったりしてやんないとな。

 自然と目線が地面に向きながら歩いてたようだ。

 気付いたら狩場まで来てた。

 いつも通り、狩りを続ける。背中に解体した獲物が積みきれなくなっても、狩り続ける。今日は何も考えたくない。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

…夜が明けてる。途中からナイフが失くなったから腰に下げた大ぶりのナイフを武器にしてた。

 また、作り直さなきゃな…。ギルドに獲物を納品したら、今日はゆっくり休むか。勉強は今日は休もう…。

 狩猟ギルドで換金し、証書を冒険者ギルドに渡した後、宿に帰ってぐっすり寝た。換金は金貨7枚になった。過去最高だ。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 今日の鐘の音は響きが悪いな。

 鐘を鳴らすのはリヴェータ教の本部の仕事らしい。

 日によって担当者が変わるのかわからないが、響く日と響かない日がある。

 今日はそんな日だ。

 モニの呪いが解けないということがわかってからもう一ヶ月程経っている。

 …文字の読み書きに関しては、読みだけに関してはそこそこできるようになった。ただ、文章を書くというのは、…難しい。書こうと思っても文章の引き出しが少ないから、シンプルな文になってしまう。単純な書類を埋める分には問題がないが、長い文章はまだまだ難しい。

 最近は…、モニのことをよく思い出す。モニと別れたとき、すごく悲しかったが実は希望もあった。呪いというからには解呪の方法もあるだろうと考えていた。でも、どうやら、ないらしい。それがわかってからか、モニともっと話したかったとか、もっと言わなきゃいけないことがあったんじゃないかとか、そんなことばかり考えている。

 そういうことを考え始めたら狩りに出たり訓練したりする。体を動かしたり集中しなきゃいけない環境っていうのは、基本的にそれ以外考えられなくなる。特に狩りをすると、集中しなければ死んでしまう。そうすると余計なことを考えなくても良くなる。

 昔、テレビのバラエティ番組かなんかで、ゲストに何故水泳が趣味なんですかと聞いた司会者がいた。ゲストの答えは、他に何も考えなくていいからですと答えていた。そんな訳はないだろ、カッコつけてるんだろうな、と当時の俺は思っていた。運動していても色々考えることはできるし、実際考えていた。でも、今なら彼の言っていたことがわかる。本当に集中する必要があれば、他のことなんて考える余裕なんてないんだ。当時の俺は、運動なんてせいぜい体育の授業ぐらい。部活をやっていたわけでもなかった。そりゃ余計なことも考えるよな。真面目にやっている人と適当にやっていた俺を比べることがそもそもおかしかった。自分の経験だけで勝手に判断して人を馬鹿にする。これはすごい恥ずかしいことなんじゃないかと最近気づき始めた。どんな意見でも一回は真剣に考えてみる。これを心がけていこう。

 余計なことを考えないために狩りに出るときは、次の日の朝とか昼まで続けている。最近は折りたたみ式の背負子を買った。これと縄があればかなりの分量持ち運べる。重量もそれなりに重くなるが、身体強化と肉体強化を合わせればどうということもない。

 肉体強化についてはゆっくりとだが成長している…たぶん。瞬間的な動きについては、随分と強く、早く動けるようになってきたし、全力でジャンプしたら木よりも高く飛べた。予想外に飛びすぎて着地がやばいくらい怖かったけど…。肉体強化と身体強化全振りでなんとかなったが。だけど、素早い動きで動き続けるっていうのはまだまだ難しい。ゆっくりとした動きなら継続して強化できる。…遠距離武器を使った狩りの方が俺に合ってるのかもしれない。

 あと、投げナイフ!やはり風魔法は有用だ。今までは風魔法で押し出すイメージでナイフを投げようとしていた。だけどそうじゃなかった。そうでなく風魔法で引っ張る感じでナイフを投げる。これがいい。

前に一回、うさぎにこちらを見つけられそうになったときに風魔法で砂埃を作った。そうして砂埃を巻き上げるように作ったと同時にナイフを投げると、いつもよりも早くナイフが進んだ気がしたんだよね。その後、色々試行錯誤したらいい感じの方法が見つかったわけ。まず、目の前に小さくて細い竜巻を作る。獲物とナイフを繋ぐようにだ。そしてその小型の竜巻の中心を通すようにナイフを投げると、素晴らしいスピードで進む。フッフッフ…。イメージは台風の目にナイフを投げ込む感じだ。この方法の良いところは、全く手を振り上げる必要がなく、コントロールも良いことだ。細い竜巻を手元に作り上げ、後はナイフを離すだけ。するとナイフは勢い良く獲物に向かう。ナイフは竜巻が伸びている方向に飛んでいくからかなり精度もいい。俺はこれを掃除機投げと呼んでいる。ダイ◯ンには負けない…。

 風魔法で引っ張るコツを覚えたせいか、ナイフに魔力を流しながらでも属性魔法の操作ができる。最初はゆっくりとしかできなかったが、今では実践で使える程度の速さにはなっている。と入っても狩猟メインだからか、そこまで速さは必要なかったりするんだが。

 さて、今日は朝から冒険者ギルドに行こうか。

 今まで、食料調達の方で、狩猟ギルド経由で冒険者ギルドの依頼をこなしていたが、今日からは魔物の討伐の依頼もこなす予定だ。

 この世界には食べられる魔物と食べられない魔物がいる。食べられる魔物は大体食べられない魔物より弱く数が多い。だからか、狩猟のみでも生活できる。と言うよりコンスタントに狩ることができればかなり豊かな生活ができる。

 しかし、俺の目的はナガルス族にモニのことを伝えるのと、母親をぶん殴ることだ。そのためには最低限の強さが必要になる。

 俺の少ない経験でわかったことは、やはり実践は自分を強くするということだ。死にたくないと必死で考えるし、集中力も段違いだ。致命傷を負ったら死んでしまうというリスクは有るが、回復薬と、肉体強化、身体強化があるし、リスクも相当軽減できる。だから、どんどん強いやつを倒していこう。と思い立ったわけだ。

 「ショーさん。珍しいですね。朝からこちらにいらっしゃるなんて。」

 「はい。今日から魔物の討伐に入ろうと思いまして。」

 「なるほど。助かりますね。二突き豚や巻角羊を狩れる方なら家長級の討伐対象害獣は問題ないでしょうから。」

 「家長級の討伐対象害獣の生息地とか特徴とかを知りたいのですが、どうやって調べればよいでしょうか。」

 「そうですね。そちらの部屋はギルド員に開放している資料室となっております。読み書きができるのであれば、そちらでご確認できます。持ち出しは出来ませんが。読み書きが難しいのであれば、先輩ギルド員に聞いて回るのもいいかもしれません。お酒を一杯奢れば皆さん快く教えてくださると思いますよ。」

 「なるほど。ありがとうございます。討伐対象害獣も常時依頼ということでいいのでしょうか。」

 とりあえず、資料室で確認だな。読みに関してはなんとかなるだろう。

 「そういうことですね。ですからわざわざ依頼を受けにくる必要もないのですよ。狩った後に討伐証明箇所を納品してくだされば。証明箇所がないと意味はありませんが。個別の討伐依頼が発生するのは村長級からですね。ショーさんはすぐに村長級に上がりそうですが。」

 「なるほど。では、一通り調べて向かおうと思います。」

 「はい、それとショーさん…」

 ガッ!!ったぁ!

 背中!痛い!

 誰かが背中に当たった?!

 なんだ?何された?

 「おら!!邪魔だ!!”たらしのガルーザ”!!ご自慢の女どもはいねぇんだから、後ろに回れ!!」

 「ヒッ…、マ、マルダスさん。で、でも冒険者のルールは、早いもの勝ちです。な、並び順だって…」

 「おう!!一人前の冒険者のルールはな!ってめぇは、女がいなきゃ何も出来ねぇ半人前だろうが!!失せろ!能無し!」

 どうやら、マルダスってやつがガルーザって人を押したらしい。その余波が俺へ…。

 しかも、第二波まで来やがった。さっきより痛いぞこら。

 「グゥっ…。ク…ウ………、ヒ、わ、わかりました……後ろに回ります……」

 「おう!!わかりゃいいんだわかりゃ!!お前も身の程をわきまえろよな!!」

 ガルーザって青年がトボトボと列の後ろに回ろうとしている。とは言っても、並んでるやつはマルダスしかいないから奴の後ろに回るわけだ。

 「ちょっと待てよ」

 俺は投げナイフをこっそりと両手元に構え、二つ竜巻を作る。右手のナイフには魔力をできるだけ込め、竜巻を細く、小さく、静かに作り上げる。左手のナイフには魔力は込めず、竜巻を弱く、大きく、少し音が立つように作る。

 「先に並んでたのはガルーザって人だろ。あんたが後ろに回れよ。」

 「ああ!?なんだてめぇ!!」

 掴みかかってくる単細胞だと思っていたが、予想外に片足を半歩引き、剣の柄に手をかけてる。

 さすがは冒険者ということだろうか、油断がない。

 「てめぇは…兎狩りのショーか…。害獣討伐をしない腰抜けだってなぁ…」

 そんなふうに呼ばれてたのかよ。ショックだ…。

 「ご忠告どうも。反省して今日から害獣討伐さ。」

 左手の竜巻をもう少し大きく、音を立てるようにする。右手に気づかれないように。

 「てめぇは…、チッ、魔法使いかよ…」

 マルダスは、柄に手を掛けたままゆっくりと下がっていき…、恐らく彼の刃圏から抜けた後、柄から手を離す。手が離れたのを確認して左手の竜巻を解除する。もちろん、右手はそのままだ。

 「…調子にのるなよ、兎狩りルーキー…」

 そそくさと逃げていったが…、まるで負け犬のような逃げっぷりだが、常に俺から目を離していない。あんな私雑魚ですって言ってるような奴でもやっぱりプロか…。

 「あ、ありがとう。君は確かショーっていう新人だね。有名だよ。」

 ガルーザが心細げに話しかけてきた。しかしショックだ。

 「兎狩りって呼ばれてんですよね…。」

 なんかテンション下がるな…。

 「やっかみさ。一角を狩るのは難しい。弱いときは向かってくるくせに、強くなるととたんに逃げに回る。逃げに入った奴を捉えるのは至難の業だからね。不意打ちしかないが、そもそもこちらが見つけられる距離っているのは、奴らの索敵範囲内だ。」

 「確かに俺も不意打ちでしか倒せてませんね。」

 「やはりそうなのか。狩るのは難しいが奴らの角は高く売れる。家長級で狩れる魔物では破格の値段だからね。今までいなかったが、コンスタントにかれるなら下手な中級冒険者の稼ぎに匹敵する。ま、つまりそういうことさ。」

 「彼は下手な中級冒険者ってところですか。」

 「そうだね。曲がりなりにも城下級だ。油断の出来ない男だよ…。そういえば害獣討伐に挑戦するって言ってたけど…」

 「えぇ、今日からもう少し稼ぎのいい狩りに移ろうかなと。」

 「ふむ…。よかったら僕らのパーティーと一緒に行動しないか?今日のお礼ってわけじゃないが、多分今日が初めてなんだろう?教えられることが結構あると思うよ。」

 「パーティーを組むってことですか?」
 
 「君がそれでいいならもちろん歓迎さ。もし君の都合があるなら臨時の参加ということでもかまわない。さっきも少し見たけど、魔法の後衛が必要なんだ。」

 「臨時でいいのなら…、ぜひお願いします。ここのルールもよくわかってなくて…」

 「…そうだね。ルールは大事だ。冒険者の暗黙のルールみたいなものだってあるしね。」

 「でもいいんですか?あなた方は僕より上のランクでは?僕のランクに合わせたら稼ぎが少なくなるのではないのですか。」

 「はは。大丈夫。ランクの低い害獣でも稼ぎ方っていうものがあるのさ。そういうことも教えよう。きっとためになるよ。」

 「そうですか。それなら是非よろしくお願いします。」

 「うん。決まりだ!恩はしっかり返さなきゃね。臨時パーティーの申請は僕がやっておこう。明日から一緒でいいかな?」

 「はい。構いません。」

 「うん。それじゃあ…、朝の鐘がなる頃に正門で。一日狩りをする予定だから、昼食は持ってきてくれ。それくらいかな。」

 「はい。ありがとうございます。」
 
 「いや~~、礼儀正しい人だね。こっちが申し訳なくなる気分だよ。ハハッ」

 「いえ、そんな…。それじゃあ、僕は失礼します。」

 「ああ。また明日ね。」

 「あ、ショーさん…」

 「アニータさん!!取り敢えず、依頼完了の手続きをお願いしますよ!!それと、さっきの僕とショーの話を聞いていましたよね?じゃあ、そこら辺諸々お願いしますよ。」

 「…えぇ、わかっております。」

 受付嬢の人は何か話があったのだろうか。

 でも、丁度よかった。渡りに船ってやつだな。初討伐依頼もうまくこなせそうだ。

 たしか、ガルーザさんって前見た気がするな。どこだったっけか…。

 まぁ、いい。なんとかなるだろう。

 ぶっちゃけ俺より弱そうだ。いざってときも切り抜けられるだけの力の差はありそうだ。

 取り敢えず今日は、ナイフの訓練と、魔力操作の訓練をして寝よう。

 明日の準備もあるし、今日は宿に早めに行って休むか。
 
 
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