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第1章

第6話

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 「ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーーー!!!!!ア”ーーーーーーーー!!!!ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーー!!!!!!」

 彼女は毎朝、…辛そうだ。

 石化の進行に気づいてから、もう数ヶ月。最初は手首と肘の間辺りまでだったのに、今は肩口の手前まで石化が進んでる。

 石化は俺と会った時から徐々に進んでたんだ。ただ、俺が気付かなかっただけだ。

 …いつも通り彼女の手を握り、頭を撫で続けることしか出来ない。俺は本当に糞ったれだ。

 「ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーーー!!!!!ウ”ア”ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 毎朝の叫び声は…、だんだん酷くなっている。

 「ア”ァ”ーーーーーーーーーー………………………、moniche……moni…che, moniche……moniche……………、 スーーーーー、スーーーーーー、スーーーーーー」

 やっと安らかに寝息を立てるようになった。今日は…少し早かったな。この瞬間が一番好きだ。安心する。

 結局monicheの意味は教えてもらっていない。

 フッフッ…、我慢できなくなって、誰の名前なのか前に聞いたんだっけな。

 Monicheなんてどこで聞いたんだと聞かれたから、毎朝君が寝言で言っているって言ったら、ムスッとした顔しちゃって…。あの顔もそんな嫌いじゃなかったんだな。最近はこの顔しなかったから分からなかったよ。
 
 んで、根気強く待ったら、「人の名前じゃない…」と言ったきり、黙っちゃって。

 俺は何故かほっとしつつ、更に気になり、「誰のことなの?」とか「誰かのことを呼んでいたよね?」としつこく聞いちゃったんだよね。あぁ~…何であんなこと…。

 んで、モニは案の定「うるさい!!しつこいのよ!」と怒ってさ。しばらく口を聞いてくれなかったなぁ…。

 まぁ…しょうがない。話したくないことなんて誰だってあるさ。

 …俺にだけは話してくれるんじゃないかって思っていたけど…。

 あ、モニの目が覚めた。

 「おはよう。ショー」

 「おはよう。モニ」

 今は話すだけだったら流暢に話せる様になれた。モニと出会ってから半年は経っているか。もう俺の持っているノートは書く所がない。びっしりと訳とメモで埋まっている。ここまで真剣に何かを勉強したことは初めてかもしれない。

 そろそろ朝ごはんの準備をするか。

 今日は温かいスープ…の様な物を作ろう。

 島中を探索したら、岩塩らしきものがあったし、食べられる野草やきのこもかなりある。俺たちの食卓は森の幸を中心に、大分豊かで、俺の料理の腕も上がった。

 もうちょっと料理の事知ってりゃもっとマシなものを作れたんだろうけど…。 

 俺って本当日本にいる時何も手伝ってなかったんだな…。

 あとこの島には、基本的に四足の動物はいないけど鳥類が結構いるのは驚いた。俺とモニ以外生き物はいないと思ってたからな。ハエとかはいるけど。

 んで、鳥の中で食いでがありそうなものを結構狩った。

 結構簡単に狩れたのはありがたかった。最初は投げナイフで狩ろうとしたんだよな…。ナイフの加工が趣味になってから、ナイフが結構大量に出来ちゃって。

 このナイフを消費するため投げナイフをしたのが始まりだっけ。色々やってたら、食材確保に利用できたのは、まぁ、良かった。

 そんな素人に簡単にできるわけねぇ!と思ってたけどね…。

 まぁ、出来たは出来たよ。この島の鳥は、人間に会った事がないから人間が近づいても逃げない。2~3メートルの距離に近づいてもボケーッとしてる。

 そこを魔力によるナイフの強化+鍛え抜かれたボディで全力で投げると、見事ぶち抜くって寸法さ。

 …一度あまりに逃げなさすぎるから、まさか…と思いゆっくりと鳥に近づいたら、捕まえられた。あの時のメリィの顔が未だに脳裏に浮かぶ。

 …なんであんなムカつく顔ができるんだろう。親の顔が見てみたいわ。

 まぁ、結局投げナイフじゃなくても良かったわけだが…、悔しいから一応鍛錬は続けてる。遠くからの攻撃手段があれば、食料確保とかに役立ちそうだし。

 それより解体のほうがきつかったわ。正直初めてやったときはダメダメだったな。

 血抜きもせずモニに「狩ったよ!今日は鶏鍋だ!」なんて言って…あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”…。

 今なら分かる。あの時モニの笑顔は引きつっていた。

 結局厳しい先生の指導のおかけで滑らかに解体が出来るようになったんだから、…よしだよな。食卓に鶏肉が追加されるようにもなったんだし。

 乾燥したきのこと鳥の骨の出汁取りは終わったか。あとは、春菊やほうれん草に似ている野草と狩ってきた鶏肉を入れ、じっくりコトコト煮るだけ。

 あ、アク取りと最後の塩の味付けは忘れないようにしなきゃ。

 自分で言うのもなんだが、なかなか良く出来ている…よな?…うん、おいしい。自分で料理したからか?結構悪くないんじゃない?たまに彼女が食べきれない時もあるけど、大体俺が食べちゃう。だって美味しいし。…美味しいよね?不味いから残したんじゃ…、ないよね?

 そういや、家でも不思議だったんだよね。母さんの料理はまずくなかったし、むしろ美味しかった。でも人気不人気は出てくる。煮物とか佃煮系だ。別にまずくないんだけど、わざわざ食べないかなっていうやつ。

 そういった残り物を、母さんはメインのおかずにして食べてた。正直残り物を食べさせているようで気分が悪かった。まずいから残ってるわけだし…、それはもう捨てて、みんなが食べてるやつを一緒に食べようや、って…。

 でも、今ならちょっとわかる。自分が苦労して作ったものだ。どんなものでもうまい。実際に自分が味見して、よしって思ったものでも残されると、まぁ、辛いよね。地味に傷つく。だから、残ったものは基本俺が食べるようになった。

 モニは体調の関係もあって、どうしても食べられない日が出てくる。そんなときは俺が全部食べてる。


 …もし、もう一度だけ母さんのご飯を食べれるなら、全部食べる。残さず全部。

 まぁ、そんなことはないんだろうけど。後悔先に立たずか…、昔の人はうまいこと言うもんだな…。

 あ、最初きのこはやばいんじゃないかと思ってたんだが、メリィがここで役立った。

 メリィはこの島の主と言っていいほど、この島についてはなんでも知っている。いや、実際に主らしい。モニはこの島の妖精かもとか言ってたな。こういった浮島には、主のようなものがいる場合があるらしい。モニも初めて会った時は、そんな事ないと思ってた言ってたし、珍しいもんなんだろう。

 ちなみにモニとメリィが出会ったのが俺と出会った2日前だったって…、態度違いすぎませんかねぇ…。

 「あ~、おいし~~~~。ショーは料理がどんどん上手くなるねぇ」

 「家の母親の見よう見まねだけどな。」

 「異世界にあるっていう故郷の話だっけ?」

 「そうそう、それに学校の授業とかでも基本的な料理は習ったからね。」

 「…やっぱり故郷に帰りたいよね…」
 
 「ん?あぁ、故郷に帰るのは正直諦めてるんだ。なんとなくもう帰れないんじゃないかなって気がしてる。まぁ、もう少し学校できちんと勉強してればよかったかなとは思ってるけど。」

 「ねぇねぇ、その学校のさぁ・・・」

 俺が異世界から来たということを彼女には話してある。意外とすんなり信じてくれた。

 俺みたいな、稀人?とか迷い人?と呼ばれる人間は昔から偶にではあるがいたらしい。最近では、昔よりも頻繁に見つかっているんだと。恐らく、時代が進んできたから、俺達のような人間に対しての差別や偏見が無くなってきて、初動で殺されることが失くなったのだろうとモニは言っていた。

 そのことを話してからか、地球のことについてかなり興味を持っているようだ。俺がこの世界について聞いているのと同じくらい、地球について聞いてくる。それに、社会の教科書(世界史)を持っていたのが運の尽きだった。

 彼女の好奇心に火をつけてしまったようだ。

 日本と外国との政治情勢まで詳しくなってしまった。俺も彼女に説明するために、毎晩予習復習したもんだ。学校にいた時より勉強してるぅ…。

 別にそんな嫌じゃないけど。

 社会の教科書を見ながら、日本語を勉強したいと言ってきたときは驚いた。

 すごいガッツがあるんだなって、前向きだなって思った。

 …だって、…石化が進んでいて先がないはずなのに、まだ新しいことをしようとしているのに驚いた。思いがけず、聞いちゃった。

 「そんな、そんな勉強することないじゃん。もう、その、モニは…、モニを苦しめる人なんていないんだから、辛いことなんてしなくたってさ…。」

 「んー、そう、まぁ、なんで私もこんな事してんのかよくわかんないんだよね。」

 「…でも、ある人が、たとえ死ぬことがわかっててもすこしでも前に進むべきだって。今進まないのなら、生まれてからずっと進んできたことにも意味がなくなるだろう?って。だって、私達は生まれたときに死ぬことは決まってるんだからって。」

 「…そうだけど、そうだけどさ。」

 「変な顔しないでよー、笑える。ま、私もそこまで達観出来てるわけじゃないんだけど、なんか、それが頭に残っててね。」

 「…」

 「それにショーの世界のこと知れるのは楽しい。うん、結構、今までで一番楽しいかも。だから別に辛くない。楽しいから。ん?楽しいことをやってるってことは、別に前に進んでるってわけじゃない…?やべ、どうしよ…。」

 なんというか、モニとか、多分この世界の人達って、生きるってことに真摯な気がする。自分は…、ここでもまだ、嫌なことから逃げる思考だったのか。もっと、もっとちゃんと生きなきゃいけない。

 …出来れば彼女みたいに。

 だからそんな彼女に敬意を示して、簡単な単語から教えている。

 ただ、こちらの聞きたいことも沢山教えてくれた。

 この世界は、まだ工業化とかはされてない。基本的に人の手で物を作り生産している。ただこういった職業の一つに地球にない特殊なやり方もある。例えば、農業、ものづくり全般、こういったことは地球とほとんど変わりない。

 ただ、もう一つ。様々な素材を集める仕事として冒険者といった職業があるらしい。これは地球にない職業だ。いや、狩人とか日雇い労働者みたいな感じが正しいか?

 魔物と呼ばれる動物を狩り、薬草と呼ばれる植物を集め、危険を顧みず依頼をこなす者達、冒険者。

 この職業は基本的に来る者拒まずで誰にも仕事を与え、また身分も保証してくれるらしい。

 もし、この世界で生きるのなら最初はその仕事につくのがいい。と言われた。

 俺にそんなことできるかな?とも思ったが、モニによれば俺の身体能力と体の丈夫さを合わせれば、かなり高レベルの冒険者になれるはず。とのことだ。少し自信がでた。

 この浮島から脱出する方法も教えてもらった。

 この世界には、ヴィドフニルの傘と呼ばれる大きな木がハルダニヤ国にあるらしい。

 天高くそびえ、山脈と見間違うような太い根を国中に伸ばし、生命の樹とか大地の歴史とも呼ばれている。

 大陸のどこにいても見える程の巨大さに、ヴィドフニルの傘と呼ばれるようになったとか。

 それならハルダニヤの傘じゃないのか、と思って聞いたら、「あいつらには、自然とそういう傲慢さが出るんだよね」と苦々しげに言っていた。

 世界中に存在する浮島は、このヴィドフニルノ傘に向かうものがある。そして、その大樹に数日~数ヶ月滞在し、また世界中を漂うのだとか。大樹での滞在期間は、大きい浮島ほど長く、小さい浮島ほど短い。ただし、その分、大きい浮島のほうが大樹に向かう頻度が少なく、小さい浮島のほうが多い。この浮島の大きさだったら一年に一回位だろうといっていた。

 俺の能力なら、浮島の高さの枝から伝って降りるのも問題ないだろうと教えてくれた。

 「ヴィドフニルに行けるなら、モニの呪いもリヴェータ教の人に解いてもらえるんじゃ?」

 「…いや、無理だと思う。そもそも呪いを解く手段があるのかどうか…。それに、ナガルス種族全体が、人間種に差別されているの。私をその国で連れ回したら、それだけであなたが危険になる。私は何も出来ないし、まぁ、すぐに攫われるか殺されるかね。」

 「…」

 「他にもある。ごく少数だけどナガルス族もヴィドフニルにいるわ。…奴隷としてね。私が誰かの奴隷ってことにすればヴィドフニルで動くことは出来るかもしれないけど…私は奴隷制そのものが嫌いだからね。やっぱりこれもなしだわ。」

 「じゃ、じゃあ、取り敢えず俺の奴隷ってことにすればいい。口でそう言っておけばわざわざ確認してくるやつも少ないだろ?呪いを解いたら別の大陸に逃げれば…」

 「それは、嫌」

 「別に本当の奴隷になるわけじゃない。それっぽい格好して、解呪まで誤魔化せればいいじゃないか。後は逃げっちまえばいいでしょ?」

 「それでも、嫌なの。たとえ形だけでも。スパイのためだとしても、奴隷は嫌。奴隷になるのも、奴隷を持つのもね。私達に上下の差なんてないわ。人が人を隷属して、強制的に命令を聞かせて、そこに生まれるものは何?信頼や愛が芽生えるとでも?憎しみと恨みと諦めしか残らないわ。」

 「で、でも、奴隷を大切にする人もいるんだろ?優しくしてあげれば、奴隷だって主人のことを信頼するかもしれないじゃないか。」

 「優しくしてあげる?随分と上から目線なのね?人が人に優しくしたり、誠意を持って接するのは当然のこと。奴隷だろうが貴族だろうがそれは一緒よ。奴隷なのに優しくしてもらったから信頼してくれるとか、奴隷を持つものの傲慢に過ぎないわ。一度でも奴隷になればその気持はわかる。…ショーもやっぱり人間なのね。奴隷制に賛成なんだ。」

 「ち、違う!俺だって奴隷制は嫌いだし、奴隷なんか持ちたくない。でも、どうにかしてヴィドフニルに行かないと石化の呪いが解けないじゃないか!!」

 モニに軽蔑されそうになったからか、自分が理解していなかった性根を指摘されてか、つい声を荒げてしまった。こんな責めるように言うつもりはなかったんだ。

 「…ありがとう。でもね、私がこうなったのは私のせいよ。他の誰のせいでもない。それに、リヴェータ教の人間に解呪してもらったら、結局また捕まって、拷問されちゃう。奴らは、私達ナガルス族の情報を取ろうとしてるのよ。だから、貴方が気にする必要はないから。」

 「気にするって!モニは俺の命を助けてくれた!だから、俺もモニを助ける。だから、そんなこと言うなよ!」

 そんな風に微笑まないでくれ。嬉しそうに、…諦めたように俺を見るのはやめてくれ。

 「…ありがとう。でも、ショーは私に沢山のものをくれたわ。命を救ってもらう以上のことよ。だから、私はもういいの。」

 「よくない!命が助かる以上のことなんてない!俺が勝手に言ったことだけど、でも、でも、必ず助けるって言ったじゃないか!」

 「…そうねぇ~~、確かに言ってくれたわ。「モニ…君のことを必ず助けるから…、助けるからね」って。手をしっかりと握りしめて、頭を優しく撫でながら…」

 …ッぐぅぅぅぅぅ…。

 これが、最近、モニを宥めるときに喋らなくなった理由だよ。

 前に一度いつも通りに、朝彼女を落ち着かせていた事がある。

 ただ、そのときは一度彼女が落ち着いた後も、ずっと声をかけ続けていた。叫び声がすごく辛そうだったのもあるし、落ち着いた後もポロポロ泣いていたから。

 表情がだんだん穏やかになってもう大丈夫かな?って思ったら、モニの体が震え始めてた。え?何かの発作か?と心配していたら、心配してあげていたら!「プッ…ククッ……プフッ」…笑いをこらえていやがった。

 「…起きてるよな、モニ」

 「……ップク………グ~~~、グ~~~~」

 「………」

 「(チラッ)………ッウウ~~~~、…イタイ~~~~」

 「イタイ~~~~…、ツライヨ~~~…、(チラッ)…ウ…ウウ~~~~…」
 
 いつもそんな風に呻いてねぇだろ。

 「イタイヨ~~~~、ダレカに優しく「君のことを助けるから…」って言われたいよ~~~」

 「………」

 「「モニ…君を一生守って見せる」って言われたいよ~~~、…グ~~~~」

 「………」

 「「モニ…、君は俺の太陽だ…」って言われ」

 「言ってないだろ!そんなこと!捏造するな!」

 「ブフッフッフッアッヒャッヒャッヒャ~~~~」

 まぁ、そんなこんなで、とんでもなく恥ずかしかったからそれ以降声はかけていない。

 …ただ、偶にどうしてもモニが起きない時がある。いや、絶対に起きてるはずなんだけど、目を開けない。そういう時はしょうがなく声をかけてる。…もちろんしょうがなくだ。

 しかし、困ったのは味を味をしめたのか、度々モニは俺に思い出させる。恥ずかしいセリフを。

 しかも、びびったのは、バレたと思ってたとき以外に掛けてたセリフも知っているようだ。…だ、だいぶ前からバレてたんでしゅか…。

 はぁ…、まぁいいよ。別に気にしてネーし。それに、訓練の方も順調だし。

 おそらく、ヴィドフニルに着いたら冒険者をすることになる。実践的な戦いも自分なりに意識して訓練してるからか、結構上手くいっている。

 まずは、魔力の増加訓練。これはすごく順調。うん、問題ないな。

 一日中何かを削っていても魔力が途切れることはなくなったし、物に魔力を流すという点でのみだが、魔力の操作もうまくなってきた様な気がする。

 あ、そうだ、その過程で気付いたんだけど、石のナイフ全体に魔力を流すよりも、ナイフの刃先に魔力を集中したほうが切れ味が上がる。ただし、その分ナイフの耐久性は下がるようで、結構すぐ壊れてしまうことがある。剣とかナイフとか常に身につけておくようなものにはこの魔力操作は適さないかもしれない。

 ただ、投げナイフのように一回での使いきりを想定しているものにはかなり効果が有るんじゃないか?この方法で魔力を流してナイフを投げれば、木の表面で止まっていた程度の威力だったものが木の中程までめり込む。調子がいい日は貫通するときもある位だ。しかも壊れたとしてもそこらの石で作る投げナイフだから問題ない。いい飛び道具が手に入った。

 そう、投げナイフ自体にも色々拘ってみた。手裏剣の様な物の方が投げ易いかと思い作ってみた。確かに投げ易くなったし、どんな体勢からでもある程度の命中率があった。かなり良かったんだけど…、魔力を流すことが難しかったんだよな。たぶん、複雑な形より単純な形の方が魔力を流し易く操作し易い様な気がする。あと耐久性も下がった。

 他の形状も試してみた。CDみたいな円盤状とか、ダーツタイプ、針のような長い串みたいな物。まぁ、大体俺のロマンを形にしたんだけど。結局、軌道が直線でなかったり、耐久力が脆すぎたり、取扱いが悪すぎたり、あまりよろしくなかったな。やはり、ナイフのような形状が一番いいみたいだ。シンプルイズベストということなんだろうか。なんやかんやで、他のことにも使えたりするしね。

 身体能力と体自体の強化魔法は…、ぼちぼちか。体全体に魔力を覆わせ、身体自体を丈夫にする方法はかなり上達してきてるって気はする…んだけど、自分では実感がわかない。モニが言うにはかなりの強度を誇っているはずだと言っていたのを鵜呑みにしているだけだ。

 だって、身体能力の強化が思うようにいってないんだよね。体が丈夫になっても自分程度の筋力では破壊力に違いが出た実感はないし、成長してる感じがなぁ…。

 ぶっちゃけ、身体能力の強化はかなり難しい。一部の筋肉の強化は出来るけど、それを連動させるのが難しい。身体能力を魔法で上げる訓練は続けるけど、それよりも体を鍛えたほうが効果があるような気さえするわ。

 まぁ、日々の探索と介護で体は鍛えられてる気がするし、わざわざ筋トレもしなくていいかな…うん。

 属性魔法の訓練は…、上手く行ってない。まぁ、うまくいかない。

 一応、火、風、土については使えるようになったけど、使えるようになっただけだ。火については、バレーボール大の火の玉を生み出すことが出来たが、そこから大きくすることはできなかった。しかもこれ、飛ばせないのだ。ヤム◯ャの繰気弾のように手のひらの上で浮かんでるだけ。繰気出来ないときた。

 風魔法はそよ風程度の風は起こせる。大体、ドライヤーぐらいの勢いだ。つまり、右手に火、左手に風で…魔法でドライヤーが出来た…。戦闘には全然使えなかったが、モニが絶賛していた。魔法で敵を倒すより百倍の価値があるそうだ。嬉しくないんですけどぉ…。

 土魔法については微妙だ。少なくとも手から土が出ることはないし、そこらにある土を操ることも出来ない。ただ、ナイフを作っているときに、土の属性魔法が発動していると言われた。ただ、土属性の魔法には詳しくないから、良くわからないと言っていた。ふむ…、わからん。

 あ、水魔法は殆どできない。掌がしっとりするくらいかな。
 
 メリィは最近おとなしい。ククク…。実は最近メリィの奴を捕まえられるようになってきたんだ。とは言っても5回に3回は失敗する。でも2回は成功するわけだ。メリィも40%の確率は無視できないようだ。俺を馬鹿にするにも細心の注意を払ってやがる。

 どうやらだが、魔力というものには薄さがある。これは、魔力が粒子だとしたら、数が多い少ないという意味での濃度のことを言っているのではない。なんというか…魔力の存在みたいな物を薄くしたり濃くしたりすることができる。

 丹田の部分にどうやら門のような物があり、そこから魔力が来ているということがなんとなくだが感覚的に理解できる。この門のようなものを手のひらに作り、そこの魔力を一部向こう側へやる。そうすると、魔力の存在を薄くできるようだ。

 これを、奴の魔力の薄さに合わせてやると、捕まえることが出来る。モニはこれを見て驚いていたが、メリィはもっと驚いていた。「え…?また…?」みたいな顔をしていた。傑作。

 島の探索の方でも成果があったんだった。

 なんと、綿の様なものがなっている花?らしきものを見つけた。これを見つけたときはだいぶテンションが上がったね。発見して早速大量に集めた。集めた綿を、彼女のベッドに敷き詰めている落ち葉の代わりにした。ただ、これだと小さい綿が舞ってしまって居心地悪そうなのでクッションを作ることにした。つまり敷布団だな。

 そのためには糸を作る必要があったのだが、そこはモニが教えてくれた。長い茎を持つ植物の皮を剥がして細い糸みたいなものを作る。これを2本合わせて撚ることで、一本の長い糸のようなものができる。これをさらに半分に折り、撚った方向と別の方向に捻ることで、丈夫な糸、というか紐が出来た。

 この紐を俺が作った大きめの針を使って布を縫い留めるのに使えた。モニの下に引いていた布を使って、大きめの袋のようなものを作り、そこに綿を詰めて、最後に糸で口を閉める。これで、ふかふかの敷布団の完成だ。底にモニを寝かせたら「ふぁ……」とうっとりした声を出し、すぐ寝てしまった

 。翌朝、あんな気持ちいいベッドは初めてだ。ショーは最高だって。…ま、悪くないよね。

 それと念願の風呂である。

 やっと完成した。窪みをやっと削り出せたのだ。

 いやー、大変だったね、マジで。モニが入りやすいように、なだらかな傾きのある背もたれを作ったよ。介護のCMかなんかでこんな風呂があったような気がしたからさ。

 んで、木で削り出した大きめのバケツを使い、水を大量に入れてゆく。タップリと入った水に、魔法の火の玉を投入。大体6個程投入した時点でいい具合の温度になった。この作業を興味深そうにモニは眺めていた。

 実は風呂を作っていることはずっと隠していたんだよね。出来てからのお楽しみだといい続けてさぁ。最初は何だと見ていたモニも、裸にひん剥かれた時点で、自分が中に入れられるのだと気づいた。「え…ちょっと、やめてよ。これアタシが入るの?川で良くない?ぬるいと気持ち悪くない?」って言ってたっけなぁ。

 どうやらナガルス族では風呂という文化は無かったようだ。構わず入れると「おっほぉ…ぉ…ぉぉ……」と親父みたいな声を出し、しばらく固まった後、また、変な声を挙げてた。マッサージしながら体と髪を洗ってやると、なんと寝息を立て始めた。

 えぇ…、流石に川の水浴びじゃこんなんなんなかったけどさ。それにしたって…。

 のぼせない程度に待ってやった後、いつもの様に着替えさせていたら、こんな堕落するようなものを知っているなんて、ショーは悪魔だ。最低。と言われた。えー…。じゃあ、もうやらないよ…。といったら。それこそ悪魔の所業でしょ!やっぱり最低じゃない!との仰っしゃりよう。俺は世の理不尽を学ぶことが出来ました。すぅいませぇんでぇしたぁ~~。

 この時から毎日の風呂が日課となった。風呂に入ると気が緩むのだろうか。色々とお互い他愛もない話をした。

 子供の頃遊んだ遊びとか、家族の話、好きな食べ物、…学校ではあまり友だちがいなかったことも話した。これは、自分が異世界から来たことを話すより勇気が必要だった。

 でも、なんとなく自分が悪かったから友達ができなかったんじゃないかということも話した。彼女はずっと黙って聞いてくれた後、「私も、友達いなかった」といった。

 いなかった、と言ってくれたことが少し照れくさかった。一日のなかでこの時間が一番の楽しみだ。時間がゆっくりと過ぎていくのがわかる。

 ただ、彼女の石化は進んでいた。ゆっくりではあるが、確実に進んでいた。
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