宇宙との交信

三谷朱花

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宇宙との交信10 ~宇宙への挑戦~

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 私は宇宙人と交信している。

 その宇宙人は単なる地球人であり、単なる宇宙バカだ。
 そんな宇宙人との元々間違いメールから始まったその交信は、本当にたまにある繋がりだった。でも、そのメールのやり取りをしていた私を騙る人物の出現で、メールのやり取りは一時終了した。宇宙人の彼女である火星人がその人物である。
 でも、宇宙人たちの蜜月は、数か月で終わりを迎えようとしていて、その代わりなのか、宇宙人とのメールが再開することになった。
 蜜月が終わる原因はやはり宇宙人が宇宙バカ過ぎて女心の機微に疎いせいじゃないかと思っている。
 例えクリスマスに彼女が一緒に過ごそうとしなくて、振られる直前だったとしても、自宅に他の女子を迎え入れてはいけないと思う。
 ちなみに私は巻き込まれてしまっただけだ。私は決して悪くない。
 宇宙人の友達(男)を好きな偽勇者(女)と偽勇者(女)を好きな男の娘(勿論男)という二人の存在が、私の脱出を許してくれなかった。

 もし火星人に襲撃された時にはこの二人を盾にしようと思っている。

 そう思いながら、寒い中嬉々として途中まで迎えに来た男の娘と、男の娘の喜びなどそっちのけで宇宙人の友達に思いを馳せる偽勇者に挟まれながら宇宙人の家に連行された。
 流石宇宙バカ。いや、宇宙人。宇宙人の家の本棚に、私が読みたい本がわんさかあった。

 その中でも私が手に取ったのは、ポアンカレ予想についての本だった。それに食いついた私は延々とその話で宇宙人と議論を交わした。
 もちろんポアンカレ予想、そのものではない。既にポアンカレ予想自体は証明されたものだし、ポアンカレ予想の証明を自分が出来るともしたいとも思う前に私にはポアンカレ予想自体がまだ理解できないから。ただ宇宙が丸いと証明されたのだとは理解したようなしないような。
 そのポアンカレ予想を証明した人物について思った時に、それが天文学の世界でも起こりそうだと議論を交わしたのだ。
 ポアンカレ予想を証明した人物は、その後称賛を受けとるでもなく表舞台から姿を消したと私は聞いた。
 宇宙人はその気持ちがわかる、と言った。私はわからなくはないけど表舞台から姿を消すことはなかったんじゃないか、と言った。

 その議論はもちろん交わることはなく、気がつけば宇宙人の友達と男の娘と偽勇者に呆れたような顔で見られていて、その三人の目にはありありと「宇宙バカだな」との気持ちが溢れていた。
 その三人を無視して議論を続ければ、三人に嘆かれた。
 曰く、私の将来が心配だとの総意だった。同意はしかねた。
 確かにポスドク問題にぶつかり四苦八苦する未来は容易に思い描けるが、宇宙バカをやめる予定もない。せっかくどっぷり宇宙に漬かれる環境に来たのだからと、熱弁すれば、三人に呆れられた。
 面白そうに笑うのは宇宙人くらいで、それならうちのゼミに来るといい、と言われた。
 どうやら宇宙人が選ぶだけあって、教授が更にエキセントリックな宇宙バカだとのこと。
 それは確かに魅力的だと食いついたら、三人に更に呆れられた。
 ついでに、そのゼミを決める権力かコネがあるのか尋ねたら、宇宙人と宇宙人の友達にそんなものあるわけないと一刀両断された。
 実力でのしあがるしかないと聞いて安心したと言ったら、当たり前だと宇宙人にも呆れられた。

 そんな感じで合同パーティーを割合楽しんでしまった。

 勿論、楽しんで終わりじゃなかった!

 25日が終わろうとしている時間に、宇宙人の家のチャイムが鳴った。
 宇宙人はものすごくニュートラルな表情をしていたけど、そのチャイムを鳴らす人物に心当たりがありすぎる宇宙人の友達と私と男の娘は、ぎくりとした。
 事情を知らない偽勇者に彼女だと思う旨を伝えると、すぐに理解したようで、まず偽勇者が玄関にあった私と偽勇者の靴をバルコニーに移動させた。
 その行為に我に返った私も、部屋の中にある我々二人の痕跡を集め、コートを着込むと、バルコニーに向かった。
 当然ながらクリスマスの夜中の屋外は、暖かい室内から出たばかりだと極寒だった。だが事情が事情だから、仕方あるまい。
 バルコニーの窓を閉めるときに、宇宙人が申し訳なさそうな表情をしてたけど、まあ、申し訳ないのは事情を知っていてなお巻き込まれてしまったとは言え来てしまった私の方でもあるので、お互い様だ。
 私は心の中で宇宙人と宇宙人の友達と男の娘があの火星人の不条理にあわなければいいな、と願いつつ、空を見上げた。
 流石宇宙人、と唸ったのは、そのバルコニーの向こう側に墓地が広がり、その奥には山が切り立っているため、周囲に余計な光がほとんどなくて、星がものすごくきれいに見えたことだ。
 目を輝かした私の隣で、偽勇者の表情が完全に引いていた。
 まあ、普通の人の部屋選びとしては目の前に墓地はマイナスポイントだろう。どうやら宇宙人が申し訳ない表情をしたのは、我々を追い出すことだけではなく、この景色のこともあったらしいとわかる。
 でも、私は次の部屋選びの時の参考にしようと決めた。きっと家賃も相場より安いに違いない。
 表情の硬い偽勇者の隣で星空を見上げていたら、部屋の中から、「じゃ、俺ら帰るから。」という宇宙人の友達の声が聞こえた。
 まじか、と思いつつ、まあ彼女が来たらその選択肢しかないか、と納得もする。
 隣の偽勇者も、あー。と言いたそうな表情をしているので、納得はしているんだろう。
 先ほど宇宙人の友達の声が聞こえたことからわかる通り、どうやらこの部屋の防音性は低いらしい。火星人が連絡をくれなかった宇宙人を責めている。
 まあ、人の痴話げんかなど聞きたいわけじゃない。
 だけど、どうやってここから脱出しようかな、と考えていたら、建物の脇から宇宙人の友達と男の娘が現われた。
 二人がビールケースを手に持っているのを見て、これで脱出できるとほっとする。
 宇宙人の部屋は1階で、そのまま地面だったらすぐに脱出できたのだけど、わざわざバルコニーの形に整えられていたせいで私たち二人では脱出するのは困難だった。
 スカートじゃなければ、早々に脱出を試みたんだけど、なにせ今日は偽勇者からのスカート指定で脱出に不適なのは間違いない。
 二人の手助けによりバルコニーから無事脱出した我々は、やれやれと家路についた。


****


 年明け、学食で宇宙人カップルが並んで座っているのを見かけたので、雨降って地固まったか、と思っていたのだけど。
 それから2週間もたたないうちに、私は宇宙人と火星人の別れを知った。

 いや、誰かから聞いたわけじゃない。
 北風が吹きすさぶ中、火星人が宇宙人ではない男子と腕を組んで学食に向かって学内を歩いていたからだ。
 それを見ていたのは私だけじゃなくて男の娘もだった。男の娘は迷わず宇宙人の友達に連絡して、その事実を確認していた。
 確認しようがしまいが、目の前にある事実はひっくり返りそうにもないのだが。
 宇宙人カップルが付き合いたての時のように、目の前の火星人と新しい彼氏はイチャイチャしている。寒さが更にいいスパイスになっているのかもしれない。
 どうやら火星人はイチャイチャするのが好きらしいと、どうでもいい火星人の生態を知る。
 宇宙人と火星人のイチャイチャは、ニヨニヨして見て居られたが、相手が宇宙人じゃなくなった途端、大変申し訳ないが火星人の価値が下がった。全然面白くない。
 宇宙人の彼女でなくなった火星人など、既に私の興味の対象ではないと言うことなんだろう。

 実は私は火星人が他に彼氏を作っていたことに男の娘ほど驚いてはいなかった。
 この2週間の間に1度、宇宙人からのメールが届いていたからだ。それには超新星の画像がついていた。これは星の終わりを示している。
 火星人が宇宙人以外と歩いているのを見て、私の深読みしすぎかもしれないが、宇宙人の気持ちを正しく表しているのかもしれないと今になって納得してしまったのだ。
 ちなみに、そのメールにはM104の画像を送っておいた。単に連想ゲームみたいなものだ。M104は、銀河を暗黒星雲が一直線に横切っているものだ。暗黒星雲は、星が生まれるところ。宇宙人が星の終わりを送ってきたから星の始まりを選んだだけで、特に深く考えて送ったわけじゃない。それに宇宙人は「行ってみたい。」と返信してきた。
 とりあえず、「寒いと思う。」とだけ返しておいた。暗黒星雲はマイナスの世界なのだ。
 「さすがに防寒はする。」と帰ってきたのでほっとした。
 一瞬チラリと何かやけになってるかと過ったせいだ。単純に宇宙バカの思考だっただけでほっとした。今となれば、そのチラリと感じたことが正しかったのかもしれないけど。

 でもマイナス260度の防寒って、宇宙服でも耐えられるのかな?


****


 それから宇宙人と遭遇したのは、また2週間ほど後のことだった。
 丁度男の娘と偽勇者と連れ立って学食に来たら、丁度宇宙人たちも学食に到着したばかりのところだった。
 さっきまでもうすぐあるバレンタインデーの話をしていた偽勇者が迷わず突撃した。それにもちろん男の娘がついていった。私はひらひらと手を振る宇宙人に呼ばれて致し方なく参加した。宇宙人には、火星人と別れたダメージは感じられなかった。
 まあ、卒論発表を控えて、そんなことに気を取られているわけにもいかないんだろうけど。
 座り方は、宇宙人と宇宙人の友達の向かいに、私、男の娘、偽勇者の並びだ。勿論私の向かいは無人。良い席だ。
 私は皆の話を聞き流しながら、黙々と食事を進める。

「暗黒星雲って実際に行ってみたくないか?」

 “暗黒星雲”という言葉はきちっと耳が拾った。我ながら宇宙バカだと思う。
 宇宙人の問いかけは私以外には反応されなかった。むしろ変な顔をされている。当たり前かもしれない。私は、あああのときのメールの話題だな、と思い出す。まあ、一方的に私が分かっているだけだけど。

「まあ、行ってみたいですね。」

 行きたいか行きたくないかと問われれば、行きたい。だって星が生まれるところだよ?
 私は大真面目に答えたのに、宇宙人はクククと笑う。

「何ですか?」

 あのときは自分だって行きたいって言ったくせに。

「いや、お前、無理だとは言わないんだな。」
「行きたくないか行きたいかって聞かれたら、行きたいの一択しかないですよね。」
「流石みゃーちゃん。」

 宇宙人の友達のそれは、決して誉めてない。
 “宇宙バカ”の言葉とイコールだ。
 だがしかし、私には誉め言葉だ。

「ありがとうございまーす。」

 ニコリと笑えば、宇宙人の友達はとたんに呆れた表情になる。

「誉めてないから。笑顔の使い方間違ってるから。」
「みゃーちゃん、シロー先輩誘惑してどうするつもりなの!」

 偽勇者の宇宙人の友達への気持ちはすでにダダ漏れだ。偽勇者がばらしていないつもりなのか、ばらしたいだけなのかは謎だが、とりあえず知らないふりをしてみている。宇宙人の友達は気付いているのかいないのか、その飄々とした表情からはうかがい知れない。偽勇者は宇宙人の友達にはまだ告げていない…はずだ。

「してないし。」

 とりあえず保身に走る。

「俺の発言って、誤解を招く?」

 偽勇者の言葉を受けた宇宙人の友達の言葉に、私も宇宙人も首を横にふったが、男の娘と偽勇者はウンウンと頷いた。

「シロー先輩は思わせ振りです。」
「そうですよ! その気もないのに気があるふりはやめてください。」

 偽勇者と男の娘が宇宙人の友達に注意する。共に利害が絡んでるからな。

「マジで?」

 宇宙人の友達が宇宙人に問う。

「あの二人の言うことを真に受けるな。色んなフィルター入って視界不良なやつらだ。」

 おう、なるほど。宇宙人上手いこと言うな!

「ケイスケ先輩ひどいですよ。これでも目は1.5ですよ!」

 男の娘がむっとする。

「視力のことは言ってないでしょ。」

 私の突っ込みは、無視された。

「私だって1.2よ。」

 ほら、偽勇者もこの通り。私の突っ込みは無駄だった。

「2人とも目がいいんだね。俺はこの通り眼鏡だから羨ましいよ。」

 宇宙人の友達がまた的外れな発言をしている。…いや、意図的か?

「そうですか? 私の子供ならきっと目がいい子が生まれますよ?」

 偽勇者が暴走しだした。求愛行動通り越して求婚している。
 私は隣にいる男の娘に視線でどうにかしろと伝えようとするが、男の娘が驚愕して止まっていた。
 …使い物にならん。
 視界に震えるものが見えたので見れば、宇宙人が笑いをこらえていた。その隣にいる宇宙人の友達はきょとんとしている。まじか。宇宙人の友達はまさかの天然か。
 いやでも、火星人が出現した後、割と鋭いなと思ったことあったよね? 
 火星人が私を騙っているのを気付いていた。それほど鈍いとは思えないんだけど?

「圭介、何で笑ってるわけ?」
「いや、流石類友だな、と思って。」

 な、と宇宙人がなぜか私を見る。なぜだ。私は偽勇者のように暴走などしない!

「友達じゃありません。」
「みゃーちゃん、ここまで来て友達じゃないとか苦しい言い訳にしか聞こえないけど?」
「知人です。」
「物は言いようだな。」
「で、圭介。やっぱり笑ってた理由がよくわからないんだけど。」
「いや、志朗が彼女できない理由はそれだと思う。」
「何でそんな話になるわけ?」
「まさかと思うんですけど、鈍いんですか。」
「俺鈍くないよ?」

 私の問いかけに、宇宙人の友達が即答した。

「いや、鈍いだろ。今も完全にスルーしてるだろ。」
「何が?」

 …ああ、確かに完全スルーしてるわ。

「そう言うことに関してだけ、ものすごく鈍いんだよ。」

 宇宙人の説明に、私はようやく納得した。自分に関することについてはとても鈍い人らしい。偽勇者を見れば、何だかほっとした顔をしている。…訳が分からん。

「おかげでシロー先輩の貞操が守られてるんですね!」

 ぶっ、と吹き出した宇宙人のお茶が、男の娘に降りかかる。ああ、席がずれててよかった。
 それでようやく我に返った男の娘が、自分が濡れている理由に思い至らなくてパニクる。

「悪い、タケノシン。」

 宇宙人がテーブルの上にあったティッシュの箱を差し出す。

「何が?」

 水分を拭きとりながら男の娘が私に問いかけてくる。

「いや、ケイスケ先輩がお茶を吹き出したんだよ。」

 途端に男の娘が嫌そうな表情になる。その前の偽勇者の言葉を聞いてなくて心はまだ穏やかだろう。

「あ、ケイスケ先輩。」

 偽勇者が宇宙人の友達に注ぐ視線を宇宙人に移す。

「…何だ?」

 当の宇宙人は偽勇者に話しかけられる理由が分からないらしく、本当に不思議そうな顔をしている。因みに私にも予想ができない。

「彼女さんとはうまくいきましたか?」

 そう質問する偽勇者には嫌味も邪気もない。
 おう! そうか偽勇者はことの顛末を知らないのか!
 確かに偽勇者は年明けに二人が一緒に座っていたことも、火星人が新しい彼氏を連れていたことも知らないのかもしれない。私も男の娘もその話題を口にすることもないし知るチャンスは無さそうだ。そうすると、偽勇者の宇宙人カップルの最新情報はクリスマスの痴話喧嘩だな…。

「別れたな。」

 宇宙人は、晴れたな、位のノリであっさりと口にした。今日の天気は雨だ。冬の雨はことさら冷たい。まだ窓の外で降り続いているのをちらりと見て、ああ、別れたと言ったんだったと言葉の意味を頭の中で訂正する。

「参考までにどうして?」

 さすが偽とは言え勇者の名がつくだけはある。ためらいがない! だがしかし。

「参考って何の参考?」

 私の素朴な疑問だ。

「やだみゃーちゃん、別れる理由をしらみつぶしにしときたいだけ。」

 やはり偽勇者。思考回路が我々市井の者とは違う。だがしかし。

「本人のことでもないのに参考にならないよね?」
「だって別れる可能性はできるだけ減らしておきたいじゃない? この世にある別れる理由を全て知りたいくらいなんだけど。」

 流石偽勇者。伊達に勇者の名前がついてる訳じゃない。視点が広いな! ただ別れる理由なんて数限りないと思うけど! それに、だ。

「その前に付き合ってもないよね。」

 偽勇者はふふん、と鼻を鳴らず。
 え? 何? 私が知らない間に付き合ってたりとかするの?

「シロー先輩、好きです。」

 まさかの公開告白!
 私は驚きに目を見開いたが、男の娘は、ああー、と頭を抱え、宇宙人は一生懸命笑いをこらえている。
 当の宇宙人の友達は、キョトンとしたあと、皆の反応を見て首をかしげた。

「俺も好きだよ?」

 え、と宇宙人の友達を見たのは私だけじゃなく男の娘もだ。宇宙人は変わらず笑いをこらえたままだ。

「本当ですか!?」

 興奮する偽勇者の頬は色づいていて、普通にさえしていれば、きっと美人だ。

「この定食でしょ?」

 固まった偽勇者に、あれ? と宇宙人の友達が首をかしげる。 
 確かに偽勇者と宇宙人の友達は同じ定食を食べている。

「いつ…定食の話になりましたっけ?」

 偽勇者が、はは、と眉を下げる。

「え…違った? この定食さ、圭介にも不評なんだけど、俺は好きなんだよね。」

 偽勇者と宇宙人の友達が食べるのは、紙カツ定食。
 なぜ男子大学生という食欲全開な人間がいるだろう学食に、紙カツなる薄っぺらいトンカツもどきの需要があると思うのだろうか。カロリーを気にする女子なら、最初から揚げ物など頼みはしないだろうに。

「そうですか、好きなんですか。」

 偽勇者に先程の勢いは既にない。

「そうなんだよ。えーっと、会田さんも好き?」
「シロー先輩、那奈でいいですよ?」
「いや、タケノシンが好きな子のこと名前で呼ぶのは、ちょっとね。」

 え、と偽勇者が口を開いたまま止まった。

「あの、先輩、シロー先輩は人の恋路には疎くないんですね。」

 宇宙人にぼそぼそと話しかければ、宇宙人が頷く。

「そうなんだよ。あれだけ普通に理解しといて、自分に向く恋愛感情はことごとくスルーするんだよ。ある意味最強。」
「あの…いつぞや私の同級生が勉強会に参加した時って、同級生はどっちを狙ってたんですか?」

 勉強会に参加したくなかった私が身代わりとして勉強会に差し出そうとしたのは同じクラスの肉食女子で、その肉食女子は宇宙人か宇宙人の友達のどちらかまたはどちらもを狙っている様子だった。
 
「志朗だな。見事なスルーっぷりで笑えたし。しかも勉強邪魔されてるとしか思ってなかったぞ。勉強する気がないなら席外してくれる? って冷たく言ってたよ。流石だな。」

 …もしかして、いつぞやどこかで聞いた覚えのある“宇宙人の友達のガードが固い”って…。

「あの、シロー先輩は恋のチャンスを自らつぶすタイプですか?」
「そうだな。興味もないんだろうけど、気付きもしないからな。」

 偽勇者よ、険しき道だぞ? 忠告はしないが、体感しろ!

「そうですよ、シロー先輩。那奈ちゃんは“私”が好きな人なんです!」

 胸を張る男の娘に、宇宙人の友達が首をかしげる。 

「知ってるけど?」

 何を言いたいんだと、きっと宇宙人の友達は言いたいに違いなかろうが、何を言いたいんだと言いたいのはきっと偽勇者の方だろう。

「シロー先輩、好きなんですけど。」

 おお、勇者! ああ、“偽”勇者だったんだった。

「紙カツ好きな同士がいて良かったよ。」

 ニコリと笑う宇宙人の友達には邪気も悪気も何もない。つまり、本気だろう。

「シロー先輩、“私”の好きな人にちょっかいかけないで!」
「いやいや、俺何もしてないし。濡れ衣だから!」

 宇宙人の友達は、違う違うと手を左右に振っている。

「だから、先輩好きなんですって!」
「紙カツおいしいよね!」

 もう宇宙人の友達の頭の中には“偽勇者の好き”イコール“紙カツが好き”という謎の方程式が出来上がってしまっているようだ。

「シロー先輩、笑顔で人を惑わすの辞めてください!」

 ああ、カオス。
 私は三人の会話を聞かないことにして、食事を再開する。だが、カオスは収まりそうもない。だんだん声も大きくなっていっている気がする…。

「ちょっと、志朗に言うだけ無駄だから、二人に黙るように言え。」

 なぜか宇宙人が声が大きくなっていく偽勇者と男の娘への注意を私に丸投げした。

「先輩が言えばいいだけじゃないですか。」
「どう考えたって俺の話なんか聞かないだろ。」
「だったら私の話だって聞くわけないじゃないですか。」
「お前の友達なんだから、お前が面倒見ろよ。」
「友達じゃないって言ってるじゃないですか!」
「じゃあ、何でつるんでるんだよ。」
「知りませんよ。私が一人で学食に向かってたら二人がついて来たんですって!」
「みゃー、友達でしょ。」

 ちょっと何で男の娘が参戦してきたんだ。さっきまでそっちのカオスにいただろうに!

「違う。単なる同級生!」
「それも友達カウントでいいんじゃない?」

 なぜ宇宙人の友達まで参加してくる?!

「ちょっとみゃーちゃん! 八代はともかく私は友達でしょ!?」

 …なぜみんな参加してくる!?

 このメンバー、全員集まるとカオスだ。
 ああ、頭が痛い。
 でも、宇宙人が視線だけで私に2人を黙らすように訴えてくる。

「カオスはカオスでも、宇宙を眺めているほうがよっぽど心が安らかです。」
「これも宇宙のひとかけらだろ。だからカオスなんだろ。」

 宇宙人よ、物は言いようだな! 

 今の私の使命は、カオスを収めること。
 ほらこれが宇宙への挑戦…なんて思えるわけない!



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