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番外編6
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「これで、いい?」
アリーナは調味料を一つ手に取り、ライにお伺いを立てる。
さっきからライに調味料の名前を言われるたびに、アリーナはどれがその調味料なのかすぐにはわからず、何度かこれを繰り返している。そのせいなのか、ライの表情は曇ってきているようにアリーナには見える。だから、ちょっとライの顔を直視できなくなってきていた。
流石にこのやり取りの連続にライもうんざりしてしまったのだろうと、アリーナは申し訳ない気分になる。
今日は初めて二人で料理をしようとなって、ライはまさかこれほどまでにアリーナの料理の腕が壊滅的だとは思ってもみなかったかもしれない。いや、最初にあのグラタンを見ているのだから、アリーナの料理の腕は知れているはずなのだが、実感するまでには至っていなかったと言うことだろうか。
「違った?」
返事のないライに、アリーナがもう一度ライを見上げるように再確認する。
するとライは、ふー、と深いため息をついた。それに耐えられなくて、アリーナは顔を伏せる。
ああ、呆れられたんだと、わかっていたはずのことなのに、アリーナはショックを受ける。こんな壊滅的だとは、ライだって思いたくはなかっただろう。だが、これがアリーナの紛れもない実力だ。
「アリーナ、今日は辞めましょう」
ため息交じりのライの声に、アリーナは顔をあげる。
「ごめんなさい! でも、辞めるなんて言わないで! これでも頑張ってる…つもりなの」
手を洗って料理をする手を止めてしまったライの袖をつかむと、アリーナは必死で言葉を繋げる。呆れられた哀しさや自分の不甲斐なさから、涙が滲む。
「わかっていますよ、頑張っているのは。」
アリーナの頑張りを認めてくれたライだったが、その顔はどこか切ない表情だ。
「だったら、続けましょう?」
ライが何を考えているかが分からなくて、アリーナは願いを込めてライを見つめた。
だが、ライはまた深くため息をついた。
「…ごめんなさい」
ライを呆れさせてしまった、と目を伏せたアリーナの目から涙が零れ落ちる。
その涙を、ライの指が掬い取る。アリーナが顔をあげると、困ったように笑うライの顔があった。
「そんな風に上目遣いで伺いを立てられると、我慢ができなくなります」
我慢? 何が? アリーナはライが何を言いたいのかすぐにはわからない。
が、そんな疑問はすぐに吹き飛んだ。
ライが噛みつくようにアリーナにキスをしてきたからだ。
「んー、んー!」
突然のキスに最初は抵抗していたアリーナだったが、ライの熱が散々アリーナの口の中をなぞりアリーナの熱を掬い取るころには、アリーナの体は力をなくしライの体にしがみつくしかなくなっていた。ライがその唇を離すときには、ライの瞳にあった熱が、アリーナの瞳にも移っていた。
そのくたりとしたアリーナの体をライは事も無げに横抱きにすると、階段に向かっていく。
「どうして、急に?」
なぜライがこうなったのか、アリーナには唐突すぎて理解できない。
「アリーナがいけないんですよ」
とがめるようなライの声に、アリーナは困る。
「…何もしてないわ」
先ほど何やら言われたような気がするが、もうアリーナの頭には残っていない。
「しましたよ。私を散々煽ってくれました。私が自制心を総動員しようとしたのに、アリーナはそれを簡単に打ち破ってくれるんですから。本当に困ります」
呆れたような声でライに言われても、アリーナも困る。
「そんなことしてません! 私は調味料がこれでいいのかって尋ねてただけよ」
そう、アリーナはそれしかできなかった。食材を切ろうとして指を切ろうとしたのを見たライが、アリーナから包丁を取り上げ、まだ火を入れる前の状態の時にアリーナにできそうな手伝いなど調味料を言われた通りに用意することだけだった。だがそれも上手く言っていたとはいいがたいが。もう少し調理の過程が進めば、アリーナのやることがあるとライは言ってくれていたのだが、もう今日は本当におしまいのようだ。
「それが私を煽ってたんですよ。いいですか、アリーナ。アリーナに上目遣いに“いい?”って聞かれて私が我慢できると思いますか?」
いやいやいやいや、それはこの調味料でいいのかと尋ねただけだ、とやや呆れた気分でアリーナはライを見上げる。
「普通はできるわ」
「普通は、でしょう? 私には無理ですね」
「天下の騎士団副団長様ができないわけないでしょ」
アリーナの言葉に、ため息交じりでライが首を振る。
「アリーナを前にして、そんなことはできないんですよ」
馬鹿だなぁ、と思いつつ、そんなライの言葉が嬉しいと思うアリーナは既にライに毒されている。
アリーナを横抱きにしたまま、ライは寝室へ易々と入っていく。なぜなら、寝室のドアは基本開けっぱなしにされているからだ。
…アリーナは気付いていないが、ライがわざと開けっ放しにしている。その理由は便利だというその一点に集約されることを、連れ込まれる側のアリーナは未だに知らない。
完
アリーナは調味料を一つ手に取り、ライにお伺いを立てる。
さっきからライに調味料の名前を言われるたびに、アリーナはどれがその調味料なのかすぐにはわからず、何度かこれを繰り返している。そのせいなのか、ライの表情は曇ってきているようにアリーナには見える。だから、ちょっとライの顔を直視できなくなってきていた。
流石にこのやり取りの連続にライもうんざりしてしまったのだろうと、アリーナは申し訳ない気分になる。
今日は初めて二人で料理をしようとなって、ライはまさかこれほどまでにアリーナの料理の腕が壊滅的だとは思ってもみなかったかもしれない。いや、最初にあのグラタンを見ているのだから、アリーナの料理の腕は知れているはずなのだが、実感するまでには至っていなかったと言うことだろうか。
「違った?」
返事のないライに、アリーナがもう一度ライを見上げるように再確認する。
するとライは、ふー、と深いため息をついた。それに耐えられなくて、アリーナは顔を伏せる。
ああ、呆れられたんだと、わかっていたはずのことなのに、アリーナはショックを受ける。こんな壊滅的だとは、ライだって思いたくはなかっただろう。だが、これがアリーナの紛れもない実力だ。
「アリーナ、今日は辞めましょう」
ため息交じりのライの声に、アリーナは顔をあげる。
「ごめんなさい! でも、辞めるなんて言わないで! これでも頑張ってる…つもりなの」
手を洗って料理をする手を止めてしまったライの袖をつかむと、アリーナは必死で言葉を繋げる。呆れられた哀しさや自分の不甲斐なさから、涙が滲む。
「わかっていますよ、頑張っているのは。」
アリーナの頑張りを認めてくれたライだったが、その顔はどこか切ない表情だ。
「だったら、続けましょう?」
ライが何を考えているかが分からなくて、アリーナは願いを込めてライを見つめた。
だが、ライはまた深くため息をついた。
「…ごめんなさい」
ライを呆れさせてしまった、と目を伏せたアリーナの目から涙が零れ落ちる。
その涙を、ライの指が掬い取る。アリーナが顔をあげると、困ったように笑うライの顔があった。
「そんな風に上目遣いで伺いを立てられると、我慢ができなくなります」
我慢? 何が? アリーナはライが何を言いたいのかすぐにはわからない。
が、そんな疑問はすぐに吹き飛んだ。
ライが噛みつくようにアリーナにキスをしてきたからだ。
「んー、んー!」
突然のキスに最初は抵抗していたアリーナだったが、ライの熱が散々アリーナの口の中をなぞりアリーナの熱を掬い取るころには、アリーナの体は力をなくしライの体にしがみつくしかなくなっていた。ライがその唇を離すときには、ライの瞳にあった熱が、アリーナの瞳にも移っていた。
そのくたりとしたアリーナの体をライは事も無げに横抱きにすると、階段に向かっていく。
「どうして、急に?」
なぜライがこうなったのか、アリーナには唐突すぎて理解できない。
「アリーナがいけないんですよ」
とがめるようなライの声に、アリーナは困る。
「…何もしてないわ」
先ほど何やら言われたような気がするが、もうアリーナの頭には残っていない。
「しましたよ。私を散々煽ってくれました。私が自制心を総動員しようとしたのに、アリーナはそれを簡単に打ち破ってくれるんですから。本当に困ります」
呆れたような声でライに言われても、アリーナも困る。
「そんなことしてません! 私は調味料がこれでいいのかって尋ねてただけよ」
そう、アリーナはそれしかできなかった。食材を切ろうとして指を切ろうとしたのを見たライが、アリーナから包丁を取り上げ、まだ火を入れる前の状態の時にアリーナにできそうな手伝いなど調味料を言われた通りに用意することだけだった。だがそれも上手く言っていたとはいいがたいが。もう少し調理の過程が進めば、アリーナのやることがあるとライは言ってくれていたのだが、もう今日は本当におしまいのようだ。
「それが私を煽ってたんですよ。いいですか、アリーナ。アリーナに上目遣いに“いい?”って聞かれて私が我慢できると思いますか?」
いやいやいやいや、それはこの調味料でいいのかと尋ねただけだ、とやや呆れた気分でアリーナはライを見上げる。
「普通はできるわ」
「普通は、でしょう? 私には無理ですね」
「天下の騎士団副団長様ができないわけないでしょ」
アリーナの言葉に、ため息交じりでライが首を振る。
「アリーナを前にして、そんなことはできないんですよ」
馬鹿だなぁ、と思いつつ、そんなライの言葉が嬉しいと思うアリーナは既にライに毒されている。
アリーナを横抱きにしたまま、ライは寝室へ易々と入っていく。なぜなら、寝室のドアは基本開けっぱなしにされているからだ。
…アリーナは気付いていないが、ライがわざと開けっ放しにしている。その理由は便利だというその一点に集約されることを、連れ込まれる側のアリーナは未だに知らない。
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