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「ライ様、あれほど口を酸っぱくしてアリーナさんにおいたをしすぎないように、っていっておきましたよね」
ライを本当に小さな声で叱るのは、本日二回目の登場になるルルだ。
なぜここに、と言うアリーナの疑問は、化粧直しが始まり今の台詞で霧散したようなものだ。
ライが事前にルルに頼んでいたのは間違いない。
教会に入ったと思いきや、なぜか教会の後ろの空間で、アリーナは待ち構えていたルルとその弟子に拘束された。いや、支えてもらわないと用意されていた椅子にはすんなり座れなかった。
「いえ。予想以上にアリーナがかわいいのが悪いんです」
きっぱりと言い張るライの言葉に、ルルの手が止まった。
「ノロケは要りませんから、花嫁が立てないくらい腰砕けにするとかやめてください。それにアリーナさんもアリーナさんよ。拒否して」
やはりその声は人目を気にしてなのか小さな声だ。
「…ゴメンなさい」
そもそもこういう予定だと知らなかったアリーナは何だか理不尽だと思ったが、アリーナは謝る他に選択肢はなさそうだった。
「ほら、できた。本当にライ様ったら…アリーナさんにべたぼれなんですね」
呆れたようにため息をつきつつ、化粧が整ったことでルルの機嫌も改善したらしい。ついさっきまでぷりぷりと怒っていたが、もうその怒りはどこかへ行ったようだった。
「ええ。私にはアリーナしかいないですから」
「もうライ様の口からはアリーナさんの惚気以外は聞けそうにないですね」
まだ惚気るライに苦笑しつつも、ルルはアリーナに弟子から渡されたベールを頭につけていく。
「アリーナさん、そろそろ立ち上がれますか? このトレーンもつけたいんですけどね」
ルルの後ろにいるまた違う弟子が持っているのは、レースの布で、どうやらそれがトレーンらしい。
「ライ様、今日式を挙げることにしていたんですか」
アリーナはライを見上げる。
「アリーナの同意が得られれば。」
紳士的にそう言われても、アリーナには納得はいかない。
「…これ、だまし討ちですよね」
「でも、無理なら無理で仕方ないかと思っていたんですよ」
「…ここにルルさんたちをスタンバイさせといて」
「その費用は私持ちですから、ルルさんたちは待ちぼうけになるだけの話です」
「…どうしてうちの家族とか、ガイナー室長夫妻とかマリアとかが教会に先に待ってるんですか」
先ほど教会に入った時に見えたのはそれぐらいだったが、パレ侯爵夫妻を筆頭としてアリーナの兄弟夫婦が揃いも揃っており、勿論甥や姪なども勢ぞろいしていた。後アリーナに見えたのはガイナーとマリアと言うアリーナの職場の同僚で、その面々がなぜ教会に待ち構えていたのか。
「パーティーの会場でパレ侯爵には式があることを伝えましたから」
サラッとライは言っているが、アリーナは間近でライがアリーナの父と式があると話していたのを聞いていない。
「嘘ばっかり。」
「まあ、痴話げんかはあとで。アリーナさん、立てますか?」
立てそうにもないアリーナは小さく首を横に振る。
「困りましたね」
「アリーナは私が抱えますから、そのトレーンというのはなしにしたらどうですか」
「ライ様。お言葉ですが、普通花嫁と言うのは花嫁の父が祭壇まで連れて行くことになっています」
ルルの言葉に、ライが首を横に振る。
「もうすでに私がそのまま連れて行くことで話はついていますから」
「どこまで用意周到なんですか」
唸るようなルルの声に、アリーナも同意しかできない。
「ライ様…その恰好は、もちろんそのつもりだったってことですか」
もう今更ではあったが、いつもの騎士服ではないモーニングは、結婚式を想定してと考えればおかしくはない。
「ええ。」
ニッコリと笑うライに、アリーナはめまいがする。一体いつからこんなことを考えて画策していたというのか。
「でも、騎士服でも…正装になりますよね」
むしろその方が手間は少なくて、アリーナをだまし討ちにするには良かった気もするが。ここに来るまで気づいていなかったアリーナにはぐうの音も出ないが。
「そうですね。ですが、いつもと違う格好をした方がドキッとすると、マリア嬢からのアイデアで。」
一体いつそんな交流を持つことがあったのかアリーナには想像もつかないが、ここ数日ライが忙しそうにしていた理由の一つはこの結婚式の準備に間違いなさそうだ。
そして、そのマリアの読みが、まさしくドンピシャだったことに、アリーナは何だか悔しくなる。
確かにドキリとしたし、それで視線を集めているライに嫉妬心までわき出した。アリーナが自分の恋心を自覚するきっかけは、確かにこれだったのかもしれない。
「では、トレーンはなし、でいいですか? これをつけるともっと美しいのに?」
ルルが首をかしげると、ライがはっとする。
「では、家に持ち帰ります」
意味が分からない、とアリーナは思うが、ルルは訳知り顔で頷いた。
「そうですね。それがアリーナさんにとっては平和かもしれません」
全く意味の分からないやり取りの中、アリーナはまたライに抱きかかえられた。
「じゃあ、行きましょう。皆さんお待ちかねですから」
皆は待っているかもしれないが、アリーナの気持ちは置いてきぼりな気がする、と思うよりも前に、祭壇へと続く道へとアリーナは連れてこられた。
横抱きにされる花嫁など、前代未聞ではないのか、と思ったが、それもこれもライのせいだ。
ライを本当に小さな声で叱るのは、本日二回目の登場になるルルだ。
なぜここに、と言うアリーナの疑問は、化粧直しが始まり今の台詞で霧散したようなものだ。
ライが事前にルルに頼んでいたのは間違いない。
教会に入ったと思いきや、なぜか教会の後ろの空間で、アリーナは待ち構えていたルルとその弟子に拘束された。いや、支えてもらわないと用意されていた椅子にはすんなり座れなかった。
「いえ。予想以上にアリーナがかわいいのが悪いんです」
きっぱりと言い張るライの言葉に、ルルの手が止まった。
「ノロケは要りませんから、花嫁が立てないくらい腰砕けにするとかやめてください。それにアリーナさんもアリーナさんよ。拒否して」
やはりその声は人目を気にしてなのか小さな声だ。
「…ゴメンなさい」
そもそもこういう予定だと知らなかったアリーナは何だか理不尽だと思ったが、アリーナは謝る他に選択肢はなさそうだった。
「ほら、できた。本当にライ様ったら…アリーナさんにべたぼれなんですね」
呆れたようにため息をつきつつ、化粧が整ったことでルルの機嫌も改善したらしい。ついさっきまでぷりぷりと怒っていたが、もうその怒りはどこかへ行ったようだった。
「ええ。私にはアリーナしかいないですから」
「もうライ様の口からはアリーナさんの惚気以外は聞けそうにないですね」
まだ惚気るライに苦笑しつつも、ルルはアリーナに弟子から渡されたベールを頭につけていく。
「アリーナさん、そろそろ立ち上がれますか? このトレーンもつけたいんですけどね」
ルルの後ろにいるまた違う弟子が持っているのは、レースの布で、どうやらそれがトレーンらしい。
「ライ様、今日式を挙げることにしていたんですか」
アリーナはライを見上げる。
「アリーナの同意が得られれば。」
紳士的にそう言われても、アリーナには納得はいかない。
「…これ、だまし討ちですよね」
「でも、無理なら無理で仕方ないかと思っていたんですよ」
「…ここにルルさんたちをスタンバイさせといて」
「その費用は私持ちですから、ルルさんたちは待ちぼうけになるだけの話です」
「…どうしてうちの家族とか、ガイナー室長夫妻とかマリアとかが教会に先に待ってるんですか」
先ほど教会に入った時に見えたのはそれぐらいだったが、パレ侯爵夫妻を筆頭としてアリーナの兄弟夫婦が揃いも揃っており、勿論甥や姪なども勢ぞろいしていた。後アリーナに見えたのはガイナーとマリアと言うアリーナの職場の同僚で、その面々がなぜ教会に待ち構えていたのか。
「パーティーの会場でパレ侯爵には式があることを伝えましたから」
サラッとライは言っているが、アリーナは間近でライがアリーナの父と式があると話していたのを聞いていない。
「嘘ばっかり。」
「まあ、痴話げんかはあとで。アリーナさん、立てますか?」
立てそうにもないアリーナは小さく首を横に振る。
「困りましたね」
「アリーナは私が抱えますから、そのトレーンというのはなしにしたらどうですか」
「ライ様。お言葉ですが、普通花嫁と言うのは花嫁の父が祭壇まで連れて行くことになっています」
ルルの言葉に、ライが首を横に振る。
「もうすでに私がそのまま連れて行くことで話はついていますから」
「どこまで用意周到なんですか」
唸るようなルルの声に、アリーナも同意しかできない。
「ライ様…その恰好は、もちろんそのつもりだったってことですか」
もう今更ではあったが、いつもの騎士服ではないモーニングは、結婚式を想定してと考えればおかしくはない。
「ええ。」
ニッコリと笑うライに、アリーナはめまいがする。一体いつからこんなことを考えて画策していたというのか。
「でも、騎士服でも…正装になりますよね」
むしろその方が手間は少なくて、アリーナをだまし討ちにするには良かった気もするが。ここに来るまで気づいていなかったアリーナにはぐうの音も出ないが。
「そうですね。ですが、いつもと違う格好をした方がドキッとすると、マリア嬢からのアイデアで。」
一体いつそんな交流を持つことがあったのかアリーナには想像もつかないが、ここ数日ライが忙しそうにしていた理由の一つはこの結婚式の準備に間違いなさそうだ。
そして、そのマリアの読みが、まさしくドンピシャだったことに、アリーナは何だか悔しくなる。
確かにドキリとしたし、それで視線を集めているライに嫉妬心までわき出した。アリーナが自分の恋心を自覚するきっかけは、確かにこれだったのかもしれない。
「では、トレーンはなし、でいいですか? これをつけるともっと美しいのに?」
ルルが首をかしげると、ライがはっとする。
「では、家に持ち帰ります」
意味が分からない、とアリーナは思うが、ルルは訳知り顔で頷いた。
「そうですね。それがアリーナさんにとっては平和かもしれません」
全く意味の分からないやり取りの中、アリーナはまたライに抱きかかえられた。
「じゃあ、行きましょう。皆さんお待ちかねですから」
皆は待っているかもしれないが、アリーナの気持ちは置いてきぼりな気がする、と思うよりも前に、祭壇へと続く道へとアリーナは連れてこられた。
横抱きにされる花嫁など、前代未聞ではないのか、と思ったが、それもこれもライのせいだ。
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