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「…いやに馬鹿正直な理由だな。」
ファム公爵から漏れ出た感想は、呆れているような、脱力しているような。
「女性は長く働けないと知ってはいましたから、学院に払った学費を短期間で取り戻せる職種は他にありませんから」
マリアははっきりと言い切る。これがマリアだ。目上の人だからと言って意見をごまかすようなことをしない態度は、アリーナも一目置いている。
「…そうか。…金庫番の鏡みたいな理由だな。」
マリアらしい理由だとアリーナは思いながら、向かいに座るファム公爵を見る。
向かいに座るファム公爵の意図は、いまだにわからないままだ。
「私にはね、女性が働きたいという気持ちはさっぱりわからないんだよ」
ファム公爵はため息を細くついた。
「それは、どういう意味でしょうか。」
ガイナー室長が、緊張した面持ちで、ファム公爵に先を促す。
ガイナー室長も何の話なのか知らないらしい。
「女性は働くべきではないと、今でも私は思っているってことだよ」
ファム公爵の言葉に、ドクリ、とアリーナの心臓が嫌な音を立てた。
アリーナが恐れいた瞬間を目の当たりにしなければならないのかもしれない。
だが、先ほどすぐ辞めないといけないという話はファム公爵本人から否定されたはずだった。
ならば、この言葉の意味は何だろう、とアリーナは考える。
「いいかい、君たちは女性だ。ここで働くこと以外にもやることはあるんじゃないかね」
念押しするようなファム公爵の言葉に、押し込めた反骨心がうごめく。
先ほどから、何度も女性は働くべきではないと言っているファム公爵だが、アリーナはその矛盾にものすごく腹が立っていた。
「お言葉ですがファム公爵、先ほどから女性は働くべきではないと何度もおっしゃっていますが、ファム公爵のお屋敷では料理番も女中もいらっしゃらないと考えてよろしいんでしょうか。」
「…それとこれとは別問題だ。」
出た、別問題。こういう議論になると、必ず男性が出す言葉だとアリーナは苦々しく思う。
「どちらも職業婦人であることは変わりませんし、どちらがどうとか差別されることでもないと思いますが。」
「今はそんな議論はしていない。黙り給え。」
ファム公爵にギロッと睨まれて、アリーナは口をつぐんだ。この時ばかりは、ライの脳みそを借りたいと切に願った。この男尊女卑の権化とも言えるファム公爵をぎゃふんと言わせてやりたい、と言うのがアリーナの今の希望だ。ここまでくると、結構後先考えず発言してしまった自覚はある。
「君たち二人は、結婚してからもここで働きたいと思うのか?」
でも、アリーナの予想に反してファム公爵の口から出てきた言葉に、アリーナは少し希望を見出した。
もしかしたら、あの話が内内にファム公爵のところに伝わって、気持ちを変えようと思ってくれているのかもしれないと。
だが、それならば、アリーナの無礼な発言の数々は、反省の余地があるかもしれない。
「「勿論です」」
アリーナとマリアの声が揃う。
だが、ファム公爵は信じられないとでも言いたげに、首を横に振った。
「ファム公爵、なぜ、そんなことを?」
ガイナーも、ファム公爵の意図がさっぱりわからないらしい。
勿論、アリーナにもわからない。
「…国の決まりが変わるんだよ。女性の働く権利を不当に扱わないようにね」
え。
声を漏らしたのは、アリーナだけではない。ガイナーも、マリアも驚きで目を見開いている。
「本当ですか」
最初に声を挙げたのは、アリーナだ。
アリーナはまさか昨日話した内容が既に議会に上っているなど思ってもみなかった。
ガイナーも同様だろう。マリアはあの話は知らないため、純粋に驚いているだけだ。
「じゃあ、マリアは仕事は辞めなくていいってことですか」
ガイナーの言葉に、ファム公爵がゆっくりと頷く。その表情は、まだ納得はできていないことが分かる。
「本当?!」
ファム公爵とは対照的にマリアが嬉しそうに声を挙げる。
「だが、無能だと思ったら、普通に解雇はさせてもらうぞ。」
今の今まで、アリーナが知り得る限りで無能と言う理由で金庫番を辞めさせられた人間などいない。それこそ男女差別の気持ちが残っていると、アリーナはムッとする。
「ファム公爵、この二人はとても優秀です。無能だと思うようなことはないと思います」
ガイナーの言葉に、アリーナはささくれ立っていた気持ちを少し落ち着けた。
「どこが、優秀なんだね」
具体的に説明できるならしてみろと言わんばかりのファム公爵の言葉に、アリーナは再度イラっとする。
「最近で言えば、ショパー侯爵領の河川工事のチェックをしたのは、アリーナです」
それまで馬鹿にしたような視線でアリーナたちを見ていたファム公爵が、おや、と言いたげに視線の感じを変える。
「アリーナ嬢、一人でか?」
「ええ。そうですよ」
「そうか。」
ファム公爵の視線が、それまでの様子と打って変わったことに、アリーナも戸惑う。今までの女性だからという下に見るような雰囲気が、消えた。
ファム公爵から漏れ出た感想は、呆れているような、脱力しているような。
「女性は長く働けないと知ってはいましたから、学院に払った学費を短期間で取り戻せる職種は他にありませんから」
マリアははっきりと言い切る。これがマリアだ。目上の人だからと言って意見をごまかすようなことをしない態度は、アリーナも一目置いている。
「…そうか。…金庫番の鏡みたいな理由だな。」
マリアらしい理由だとアリーナは思いながら、向かいに座るファム公爵を見る。
向かいに座るファム公爵の意図は、いまだにわからないままだ。
「私にはね、女性が働きたいという気持ちはさっぱりわからないんだよ」
ファム公爵はため息を細くついた。
「それは、どういう意味でしょうか。」
ガイナー室長が、緊張した面持ちで、ファム公爵に先を促す。
ガイナー室長も何の話なのか知らないらしい。
「女性は働くべきではないと、今でも私は思っているってことだよ」
ファム公爵の言葉に、ドクリ、とアリーナの心臓が嫌な音を立てた。
アリーナが恐れいた瞬間を目の当たりにしなければならないのかもしれない。
だが、先ほどすぐ辞めないといけないという話はファム公爵本人から否定されたはずだった。
ならば、この言葉の意味は何だろう、とアリーナは考える。
「いいかい、君たちは女性だ。ここで働くこと以外にもやることはあるんじゃないかね」
念押しするようなファム公爵の言葉に、押し込めた反骨心がうごめく。
先ほどから、何度も女性は働くべきではないと言っているファム公爵だが、アリーナはその矛盾にものすごく腹が立っていた。
「お言葉ですがファム公爵、先ほどから女性は働くべきではないと何度もおっしゃっていますが、ファム公爵のお屋敷では料理番も女中もいらっしゃらないと考えてよろしいんでしょうか。」
「…それとこれとは別問題だ。」
出た、別問題。こういう議論になると、必ず男性が出す言葉だとアリーナは苦々しく思う。
「どちらも職業婦人であることは変わりませんし、どちらがどうとか差別されることでもないと思いますが。」
「今はそんな議論はしていない。黙り給え。」
ファム公爵にギロッと睨まれて、アリーナは口をつぐんだ。この時ばかりは、ライの脳みそを借りたいと切に願った。この男尊女卑の権化とも言えるファム公爵をぎゃふんと言わせてやりたい、と言うのがアリーナの今の希望だ。ここまでくると、結構後先考えず発言してしまった自覚はある。
「君たち二人は、結婚してからもここで働きたいと思うのか?」
でも、アリーナの予想に反してファム公爵の口から出てきた言葉に、アリーナは少し希望を見出した。
もしかしたら、あの話が内内にファム公爵のところに伝わって、気持ちを変えようと思ってくれているのかもしれないと。
だが、それならば、アリーナの無礼な発言の数々は、反省の余地があるかもしれない。
「「勿論です」」
アリーナとマリアの声が揃う。
だが、ファム公爵は信じられないとでも言いたげに、首を横に振った。
「ファム公爵、なぜ、そんなことを?」
ガイナーも、ファム公爵の意図がさっぱりわからないらしい。
勿論、アリーナにもわからない。
「…国の決まりが変わるんだよ。女性の働く権利を不当に扱わないようにね」
え。
声を漏らしたのは、アリーナだけではない。ガイナーも、マリアも驚きで目を見開いている。
「本当ですか」
最初に声を挙げたのは、アリーナだ。
アリーナはまさか昨日話した内容が既に議会に上っているなど思ってもみなかった。
ガイナーも同様だろう。マリアはあの話は知らないため、純粋に驚いているだけだ。
「じゃあ、マリアは仕事は辞めなくていいってことですか」
ガイナーの言葉に、ファム公爵がゆっくりと頷く。その表情は、まだ納得はできていないことが分かる。
「本当?!」
ファム公爵とは対照的にマリアが嬉しそうに声を挙げる。
「だが、無能だと思ったら、普通に解雇はさせてもらうぞ。」
今の今まで、アリーナが知り得る限りで無能と言う理由で金庫番を辞めさせられた人間などいない。それこそ男女差別の気持ちが残っていると、アリーナはムッとする。
「ファム公爵、この二人はとても優秀です。無能だと思うようなことはないと思います」
ガイナーの言葉に、アリーナはささくれ立っていた気持ちを少し落ち着けた。
「どこが、優秀なんだね」
具体的に説明できるならしてみろと言わんばかりのファム公爵の言葉に、アリーナは再度イラっとする。
「最近で言えば、ショパー侯爵領の河川工事のチェックをしたのは、アリーナです」
それまで馬鹿にしたような視線でアリーナたちを見ていたファム公爵が、おや、と言いたげに視線の感じを変える。
「アリーナ嬢、一人でか?」
「ええ。そうですよ」
「そうか。」
ファム公爵の視線が、それまでの様子と打って変わったことに、アリーナも戸惑う。今までの女性だからという下に見るような雰囲気が、消えた。
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