女子力低くて何が悪い

三谷朱花

文字の大きさ
上 下
31 / 83

31

しおりを挟む
 アリーナのお昼は家からお弁当が届けられた。それに気づいたガイナーはものすごく何か言いたそうにしていたが、朝の出来事もあったためか言葉を飲み込んでいた。
 マリアは「それが正解でしょうね」と頷いていた。ガイナーに数年間洗脳されたマリアは、まだライに不信感を持っている様だったし、朝の出来事もそれを後押ししてしまった。マリアは来たのが誰かと気付いた時には、ライの交際相手だったと気付いたらしく(ガイナー情報)、だから「がんばって」の声かけだったらしい。マリア曰く、過去の女が未練たっぷりと言うところがライが誠実じゃないせいじゃないか、と。
 アリーナは振られたのはライだしライが未練を持ってるならまだしも振った当人の感情までコントロールは無理だろうと思ったが、黙っておいた。アリーナにはライをかばう義理も理由もない。

 とにもかくにもガイナーもマリアもショパー侯爵の娘には怒っていたが。
 因みにアリーナが押し付けられた書類は、やはりというかなんというか、最後の計算がされていない金額だけが羅列された書類だった。最後の計算が面倒なのは間違いないが、アリーナたちの仕事は、その計算をした書類と提出用の書類とを付き合わせておかしいところがないか不自然な金額や項目が混じっていないかを確認する仕事だ。もちろんそのために計算はし直すが、それは確認のためだけで、一から計算するためではない。
 アリーナはそれだけを確認してガイナーに報告すると、ガイナーはこの処理のため5時以降に時間を割けと言うので、仕方なく頷いた。5時になれば勤務時間外で、アリーナは気にもせず残業をしているわけだけが、上司がその時間を使いたいと言うんだから、割く他はない。 

 この手のふざけた書類が回されてくることがまれにある。本来ならこの手の書類を持ってきた部署に戻すのはファム公爵の名代の者がやる。庶民には強気に出られても、公爵の名前を出されて強気に出られる勤め人などいないからだ。だからこの部署のトップは貴族、それも高位の貴族が務める必要があるわけだ。
 本来ならアリーナは関わらないわけであるが、アリーナも侯爵家の人間でしかも名指しをされたのだから駆り出されるのかもしれない。ショパー侯爵の娘はきっとアリーナに軽く嫌がらせをしたかっただけだろう。にも関わらず、公爵の名前を出され叱られるわけである。割りに合わない嫌がらせだろうに、とアリーナは呆れる。
 アリーナは仕事の時間を削られるだけで何もいいことはない。 
 もう二度とこんなことに巻き込まれたくないとアリーナは思う。 
 早々に結婚の話を白紙に戻すためにも、早くライを説得しなければ、とアリーナは決意を新たにした。


****


「アリーナさん。5時ですよ」
「あ、マリア有難う。」

 アリーナは丁度きりのいいところで終わったことにほっとしていた。

「じゃ、あっちに行きましよ」

 あっち?
 アリーナは首をかしげつつ、マリアについていく。その先は、小さな会議室だ。

「マリア、打ち合わせがあるの? でもマリアは関係ないでしょ」
「いえ。無関係って訳じゃないの」

 マリアにウインクされても、アリーナには意味がわからない。

「どういう意味?」

 先に立つマリアが会議室のドアを手前に開けると、そこにはゴージャスな美女が佇んでいた。
 マリアが会議室に入るのを視界に入れつつ、アリーナはそのゴージャスな美女をあっけにとられて見ていた。
 マリアが会議室に入ったのを見届けると、アリーナは会議室の扉を閉めた。
 幻覚が見えた。アリーナはよほど疲れているらしい。いやいや、これから面倒な仕事をしないといけないらしいのに、とアリーナは自分を慰めるように首を横に振った。
 バン! と会議室のドアが開く。

「アリーナさん! 何で閉めるんですか」

 なぜかマリアが憤慨している。ああそうか。マリアには幻覚が見えていないから、アリーナの行動の意味が分からないはずだ、とアリーナは納得する。

「ごめんね。どうも疲れてるみたいで、幻覚が見えて」

 アリーナの言葉にマリアが眉を顰める。

「幻覚?」
「ええ。」

 アリーナは頷きながらまた会議室の中を見る。
 まだ見える。ゴージャスな美女がアリーナをじっと見ている。

「どんな幻覚ですか」

 マリアに問われたが、アリーナは口に出すのをためらった。ゴージャスな美女が見えるなど、とち狂ったと思われても仕方がない。

「そこに見たことのない女性がいるように見えるの。ね、変でしょ」
「…それ、幻覚じゃありませんから。実在してますよ」

 どうやらアリーナが幻覚だと思った人物は本当にいるらしい。だがである。

「え? …何のために?」

 金庫番の会議室にゴージャスな美女がいる意味が、アリーナには全く分からない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

玉砕するつもりで、憧れの公爵令息さまに告白したところ、承諾どころかそのまま求婚されてしまいました。

石河 翠
恋愛
人一倍真面目でありながら、片付け下手で悩んでいるノーマ。彼女は思い出のあるものを捨てることができない性格だ。 ある時彼女は、寮の部屋の抜き打ち検査に訪れた公爵令息に、散らかり放題の自室を見られてしまう。恥ずかしさのあまり焦った彼女は、ながれで告白することに。 ところが公爵令息はノーマからの告白を受け入れたばかりか、求婚してくる始末。実は物への執着が乏しい彼には、物を捨てられない彼女こそ人間らしく思えていて……。 生真面目なくせになぜかダメ人間一歩手前なヒロインと、そんなヒロインを溺愛するようになる変わり者ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID3944887)をお借りしております。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

処理中です...