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アリーナのお昼は家からお弁当が届けられた。それに気づいたガイナーはものすごく何か言いたそうにしていたが、朝の出来事もあったためか言葉を飲み込んでいた。
マリアは「それが正解でしょうね」と頷いていた。ガイナーに数年間洗脳されたマリアは、まだライに不信感を持っている様だったし、朝の出来事もそれを後押ししてしまった。マリアは来たのが誰かと気付いた時には、ライの交際相手だったと気付いたらしく(ガイナー情報)、だから「がんばって」の声かけだったらしい。マリア曰く、過去の女が未練たっぷりと言うところがライが誠実じゃないせいじゃないか、と。
アリーナは振られたのはライだしライが未練を持ってるならまだしも振った当人の感情までコントロールは無理だろうと思ったが、黙っておいた。アリーナにはライをかばう義理も理由もない。
とにもかくにもガイナーもマリアもショパー侯爵の娘には怒っていたが。
因みにアリーナが押し付けられた書類は、やはりというかなんというか、最後の計算がされていない金額だけが羅列された書類だった。最後の計算が面倒なのは間違いないが、アリーナたちの仕事は、その計算をした書類と提出用の書類とを付き合わせておかしいところがないか不自然な金額や項目が混じっていないかを確認する仕事だ。もちろんそのために計算はし直すが、それは確認のためだけで、一から計算するためではない。
アリーナはそれだけを確認してガイナーに報告すると、ガイナーはこの処理のため5時以降に時間を割けと言うので、仕方なく頷いた。5時になれば勤務時間外で、アリーナは気にもせず残業をしているわけだけが、上司がその時間を使いたいと言うんだから、割く他はない。
この手のふざけた書類が回されてくることがまれにある。本来ならこの手の書類を持ってきた部署に戻すのはファム公爵の名代の者がやる。庶民には強気に出られても、公爵の名前を出されて強気に出られる勤め人などいないからだ。だからこの部署のトップは貴族、それも高位の貴族が務める必要があるわけだ。
本来ならアリーナは関わらないわけであるが、アリーナも侯爵家の人間でしかも名指しをされたのだから駆り出されるのかもしれない。ショパー侯爵の娘はきっとアリーナに軽く嫌がらせをしたかっただけだろう。にも関わらず、公爵の名前を出され叱られるわけである。割りに合わない嫌がらせだろうに、とアリーナは呆れる。
アリーナは仕事の時間を削られるだけで何もいいことはない。
もう二度とこんなことに巻き込まれたくないとアリーナは思う。
早々に結婚の話を白紙に戻すためにも、早くライを説得しなければ、とアリーナは決意を新たにした。
****
「アリーナさん。5時ですよ」
「あ、マリア有難う。」
アリーナは丁度きりのいいところで終わったことにほっとしていた。
「じゃ、あっちに行きましよ」
あっち?
アリーナは首をかしげつつ、マリアについていく。その先は、小さな会議室だ。
「マリア、打ち合わせがあるの? でもマリアは関係ないでしょ」
「いえ。無関係って訳じゃないの」
マリアにウインクされても、アリーナには意味がわからない。
「どういう意味?」
先に立つマリアが会議室のドアを手前に開けると、そこにはゴージャスな美女が佇んでいた。
マリアが会議室に入るのを視界に入れつつ、アリーナはそのゴージャスな美女をあっけにとられて見ていた。
マリアが会議室に入ったのを見届けると、アリーナは会議室の扉を閉めた。
幻覚が見えた。アリーナはよほど疲れているらしい。いやいや、これから面倒な仕事をしないといけないらしいのに、とアリーナは自分を慰めるように首を横に振った。
バン! と会議室のドアが開く。
「アリーナさん! 何で閉めるんですか」
なぜかマリアが憤慨している。ああそうか。マリアには幻覚が見えていないから、アリーナの行動の意味が分からないはずだ、とアリーナは納得する。
「ごめんね。どうも疲れてるみたいで、幻覚が見えて」
アリーナの言葉にマリアが眉を顰める。
「幻覚?」
「ええ。」
アリーナは頷きながらまた会議室の中を見る。
まだ見える。ゴージャスな美女がアリーナをじっと見ている。
「どんな幻覚ですか」
マリアに問われたが、アリーナは口に出すのをためらった。ゴージャスな美女が見えるなど、とち狂ったと思われても仕方がない。
「そこに見たことのない女性がいるように見えるの。ね、変でしょ」
「…それ、幻覚じゃありませんから。実在してますよ」
どうやらアリーナが幻覚だと思った人物は本当にいるらしい。だがである。
「え? …何のために?」
金庫番の会議室にゴージャスな美女がいる意味が、アリーナには全く分からない。
マリアは「それが正解でしょうね」と頷いていた。ガイナーに数年間洗脳されたマリアは、まだライに不信感を持っている様だったし、朝の出来事もそれを後押ししてしまった。マリアは来たのが誰かと気付いた時には、ライの交際相手だったと気付いたらしく(ガイナー情報)、だから「がんばって」の声かけだったらしい。マリア曰く、過去の女が未練たっぷりと言うところがライが誠実じゃないせいじゃないか、と。
アリーナは振られたのはライだしライが未練を持ってるならまだしも振った当人の感情までコントロールは無理だろうと思ったが、黙っておいた。アリーナにはライをかばう義理も理由もない。
とにもかくにもガイナーもマリアもショパー侯爵の娘には怒っていたが。
因みにアリーナが押し付けられた書類は、やはりというかなんというか、最後の計算がされていない金額だけが羅列された書類だった。最後の計算が面倒なのは間違いないが、アリーナたちの仕事は、その計算をした書類と提出用の書類とを付き合わせておかしいところがないか不自然な金額や項目が混じっていないかを確認する仕事だ。もちろんそのために計算はし直すが、それは確認のためだけで、一から計算するためではない。
アリーナはそれだけを確認してガイナーに報告すると、ガイナーはこの処理のため5時以降に時間を割けと言うので、仕方なく頷いた。5時になれば勤務時間外で、アリーナは気にもせず残業をしているわけだけが、上司がその時間を使いたいと言うんだから、割く他はない。
この手のふざけた書類が回されてくることがまれにある。本来ならこの手の書類を持ってきた部署に戻すのはファム公爵の名代の者がやる。庶民には強気に出られても、公爵の名前を出されて強気に出られる勤め人などいないからだ。だからこの部署のトップは貴族、それも高位の貴族が務める必要があるわけだ。
本来ならアリーナは関わらないわけであるが、アリーナも侯爵家の人間でしかも名指しをされたのだから駆り出されるのかもしれない。ショパー侯爵の娘はきっとアリーナに軽く嫌がらせをしたかっただけだろう。にも関わらず、公爵の名前を出され叱られるわけである。割りに合わない嫌がらせだろうに、とアリーナは呆れる。
アリーナは仕事の時間を削られるだけで何もいいことはない。
もう二度とこんなことに巻き込まれたくないとアリーナは思う。
早々に結婚の話を白紙に戻すためにも、早くライを説得しなければ、とアリーナは決意を新たにした。
****
「アリーナさん。5時ですよ」
「あ、マリア有難う。」
アリーナは丁度きりのいいところで終わったことにほっとしていた。
「じゃ、あっちに行きましよ」
あっち?
アリーナは首をかしげつつ、マリアについていく。その先は、小さな会議室だ。
「マリア、打ち合わせがあるの? でもマリアは関係ないでしょ」
「いえ。無関係って訳じゃないの」
マリアにウインクされても、アリーナには意味がわからない。
「どういう意味?」
先に立つマリアが会議室のドアを手前に開けると、そこにはゴージャスな美女が佇んでいた。
マリアが会議室に入るのを視界に入れつつ、アリーナはそのゴージャスな美女をあっけにとられて見ていた。
マリアが会議室に入ったのを見届けると、アリーナは会議室の扉を閉めた。
幻覚が見えた。アリーナはよほど疲れているらしい。いやいや、これから面倒な仕事をしないといけないらしいのに、とアリーナは自分を慰めるように首を横に振った。
バン! と会議室のドアが開く。
「アリーナさん! 何で閉めるんですか」
なぜかマリアが憤慨している。ああそうか。マリアには幻覚が見えていないから、アリーナの行動の意味が分からないはずだ、とアリーナは納得する。
「ごめんね。どうも疲れてるみたいで、幻覚が見えて」
アリーナの言葉にマリアが眉を顰める。
「幻覚?」
「ええ。」
アリーナは頷きながらまた会議室の中を見る。
まだ見える。ゴージャスな美女がアリーナをじっと見ている。
「どんな幻覚ですか」
マリアに問われたが、アリーナは口に出すのをためらった。ゴージャスな美女が見えるなど、とち狂ったと思われても仕方がない。
「そこに見たことのない女性がいるように見えるの。ね、変でしょ」
「…それ、幻覚じゃありませんから。実在してますよ」
どうやらアリーナが幻覚だと思った人物は本当にいるらしい。だがである。
「え? …何のために?」
金庫番の会議室にゴージャスな美女がいる意味が、アリーナには全く分からない。
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