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「そもそも、私のこと興味ないようなことを言ってましたよね? いつから私がそういう対象になったんですか」
「私の料理をおいしそうに食べてくれていたから、あなたの名前を書いたんですから。まあ、あのときは、美味しそうに食べる子だな、って思っただけだったし、カップリングを成立させないために、美味しそうに食べてるアリーナの名前を書いてみただけなんですけどね」
「だから、私を食べる気はなかったわけですね」
アリーナは自宅へ連れていこうとするライの言葉を思い出した。確かにあの時はああ言われたこともあったし、身の危険など感じてはいなかったと。
「そうだね」
「…それなのに、なぜわざわざ私を自宅に連れていったんですか」
冷静になってみれば、ライはアンカー伯爵家で21番の料理を持ってきたのはライだった、という当たり障りのないネタバラしをして、そういうことで変則的にカップル成立になったと言うことで、無効にしてもらえば良かっただけの話だ。
別にアリーナを家に招待して料理を食べさせて、あの21番がライの料理だったと証明する必要はなかったわけだ。
「さっきも言った通り、私は結婚した相手と契りたいと思っています。だから、家に連れていくことに下心など…ありません」
「あの今間がありましたけど」
一瞬の間がアリーナは異様に気になった。
「…その気になることがあるかもしれないのは否定できません。実際、アリーナへの気持ちは押さえきれなかったわけですしね」
ふっと耳に息を吹き掛けられて、アリーナは暴れだしたい気持ちを何とか抑える。
「イタズラはやめてください」
落馬するじゃないか、と言う意味を込めてアリーナはライを睨み付けたのに、ライはニコリと笑う。
「イタズラでなければいいんですね」
耳元で無駄にいい声で囁かれたせいで、アリーナは身じろぎして、生まれた感覚を逃す。
「馬から落ちて死にたくはありません」
「分かった。後からですね」
全然わかってない!アリーナが目を怒らせてライを見れば、ライが楽しそうに笑っている。
「違います」
「そうかな?アリーナは期待してない」
「してません」
「顔は真っ赤だよ」
「あなたがそんなことばかり言うからでしょ」
「仕方ないですよ。アリーナを見てるだけて愛しい気持ちが溢れてくるんですから」
あまりの甘すぎる台詞に、アリーナは目を伏せて聞かなかったことにした。こんな甘い台詞が自分に向けられるなんて初めてのこと過ぎて対処ができなかったのだ。
「アリーナ?」
ライのアリーナを呼ぶ声が甘く感じるのは、さっきの甘い台詞の名残だろうかと思いながら、アリーナは首をふって気持ちを持ち直す。
「私と結婚すれば、好きなときに、とはいかないけど、私が休みの時にはアリーナが食べたいものを作るのは厭わないですよ」
ぐぐぐ、と喉の奥でアリーナは唸る。
さっきもプロポーズとは知らなかったとは言え、提案され躊躇もなく受け入れるぐらい、ライの料理はおいしい。別格だ。
だけど、である。
それとこれは別問題だ。
「友人として食べさせてはもらえないかしら?…ほら、ライ様だって、作っても食べてくれる人がいないより、食べてくれる人がいる方がいいでしょ」
アリーナも思い付きで言い出したことだったが、言いながら、アリーナはこれよこれ!と仕事の処理が上手く行ったときのような軽い興奮を覚えていた。
つまりは、アリーナは自分で言いながら何ていい提案なの!と自画自賛していたわけだ。これ以上アリーナにとっての好条件はないわけだから。
…おいしいものを友人として振る舞ってくれる相手。
アリーナとしても、まだカップリングの発表を聞いている最中は相手の家に行くのは面倒だと諦めたけれど、どうやらライの知り合いらしいと知って休日の一部を食べに行くことに使うのは構わないと思い始めていたわけだし。好条件だ。
「それでもいいですけど、対価にアリーナを食べますよ」
キタキタキタ!アリーナもここまで来れば敵の出方は少しぐらいは予測できる。こんなことを言われるだろうことは、言いながら考えていた。
「それは対価として高すぎませんか?私は結婚まで体の関係は持ちたくはありません。その価値がライ様の一回の料理だけであるんでしょうか。私の人生とライ様の趣味。ライ様の趣味を馬鹿にしているわけではありませんが、私の人生がライ様の趣味と同等だと言われてしまうと、私の人生はライ様の人生に劣っていると言われているようで、嫌です」
「アリーナの人生、ですか」
ライが声を落とす。
アリーナは、よし、と思った。これで押しきれるんじゃないかとにやつきそうになる顔を何とか無表情に抑える。気を緩めると副団長には負けることがわかっているから、気を引き締め直すつもりもあった。
「私の料理をおいしそうに食べてくれていたから、あなたの名前を書いたんですから。まあ、あのときは、美味しそうに食べる子だな、って思っただけだったし、カップリングを成立させないために、美味しそうに食べてるアリーナの名前を書いてみただけなんですけどね」
「だから、私を食べる気はなかったわけですね」
アリーナは自宅へ連れていこうとするライの言葉を思い出した。確かにあの時はああ言われたこともあったし、身の危険など感じてはいなかったと。
「そうだね」
「…それなのに、なぜわざわざ私を自宅に連れていったんですか」
冷静になってみれば、ライはアンカー伯爵家で21番の料理を持ってきたのはライだった、という当たり障りのないネタバラしをして、そういうことで変則的にカップル成立になったと言うことで、無効にしてもらえば良かっただけの話だ。
別にアリーナを家に招待して料理を食べさせて、あの21番がライの料理だったと証明する必要はなかったわけだ。
「さっきも言った通り、私は結婚した相手と契りたいと思っています。だから、家に連れていくことに下心など…ありません」
「あの今間がありましたけど」
一瞬の間がアリーナは異様に気になった。
「…その気になることがあるかもしれないのは否定できません。実際、アリーナへの気持ちは押さえきれなかったわけですしね」
ふっと耳に息を吹き掛けられて、アリーナは暴れだしたい気持ちを何とか抑える。
「イタズラはやめてください」
落馬するじゃないか、と言う意味を込めてアリーナはライを睨み付けたのに、ライはニコリと笑う。
「イタズラでなければいいんですね」
耳元で無駄にいい声で囁かれたせいで、アリーナは身じろぎして、生まれた感覚を逃す。
「馬から落ちて死にたくはありません」
「分かった。後からですね」
全然わかってない!アリーナが目を怒らせてライを見れば、ライが楽しそうに笑っている。
「違います」
「そうかな?アリーナは期待してない」
「してません」
「顔は真っ赤だよ」
「あなたがそんなことばかり言うからでしょ」
「仕方ないですよ。アリーナを見てるだけて愛しい気持ちが溢れてくるんですから」
あまりの甘すぎる台詞に、アリーナは目を伏せて聞かなかったことにした。こんな甘い台詞が自分に向けられるなんて初めてのこと過ぎて対処ができなかったのだ。
「アリーナ?」
ライのアリーナを呼ぶ声が甘く感じるのは、さっきの甘い台詞の名残だろうかと思いながら、アリーナは首をふって気持ちを持ち直す。
「私と結婚すれば、好きなときに、とはいかないけど、私が休みの時にはアリーナが食べたいものを作るのは厭わないですよ」
ぐぐぐ、と喉の奥でアリーナは唸る。
さっきもプロポーズとは知らなかったとは言え、提案され躊躇もなく受け入れるぐらい、ライの料理はおいしい。別格だ。
だけど、である。
それとこれは別問題だ。
「友人として食べさせてはもらえないかしら?…ほら、ライ様だって、作っても食べてくれる人がいないより、食べてくれる人がいる方がいいでしょ」
アリーナも思い付きで言い出したことだったが、言いながら、アリーナはこれよこれ!と仕事の処理が上手く行ったときのような軽い興奮を覚えていた。
つまりは、アリーナは自分で言いながら何ていい提案なの!と自画自賛していたわけだ。これ以上アリーナにとっての好条件はないわけだから。
…おいしいものを友人として振る舞ってくれる相手。
アリーナとしても、まだカップリングの発表を聞いている最中は相手の家に行くのは面倒だと諦めたけれど、どうやらライの知り合いらしいと知って休日の一部を食べに行くことに使うのは構わないと思い始めていたわけだし。好条件だ。
「それでもいいですけど、対価にアリーナを食べますよ」
キタキタキタ!アリーナもここまで来れば敵の出方は少しぐらいは予測できる。こんなことを言われるだろうことは、言いながら考えていた。
「それは対価として高すぎませんか?私は結婚まで体の関係は持ちたくはありません。その価値がライ様の一回の料理だけであるんでしょうか。私の人生とライ様の趣味。ライ様の趣味を馬鹿にしているわけではありませんが、私の人生がライ様の趣味と同等だと言われてしまうと、私の人生はライ様の人生に劣っていると言われているようで、嫌です」
「アリーナの人生、ですか」
ライが声を落とす。
アリーナは、よし、と思った。これで押しきれるんじゃないかとにやつきそうになる顔を何とか無表情に抑える。気を緩めると副団長には負けることがわかっているから、気を引き締め直すつもりもあった。
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