10 / 83
10
しおりを挟む
「思い込みを撤廃すべきだと話してなかったですか」
面白そうにアリーナを見るライに、確かに口にしたのを思い出したアリーナは、思いっきり眉を寄せる。
「そう…言ったけど、いつ、そんな話になったの」
「さっき。それに了承したのはアリーナでしょ」
とろりと甘い視線を向けるライに、アリーナはひきつった笑みしか出ない。
「そんなつもりじゃなかった…。」
「ひどいな、私のお姫様は。イケナイ子だ。」
そう言いながらアリーナの体をなぞるライに、正気に戻ったアリーナは体を固くする。
「け…こんとか考えて…」
ない。というアリーナの最後の言葉は、またもやライの口に飲み込まれた。
さっきより更に熱を持った口付けは、さっきまではまだムズムズに近い感覚しかアリーナに引き起こさなかったはずなのに、さっきよりアリーナの体が熱を持ち体のいくつかの部分がなぜか主張してくる。…そのもどかしい感覚にアリーナは体のその部分をすり付けてしまう。
それに気付いたのか、ライがすり付けている一部であるアリーナの内股をすっと撫でた。
アリーナの喉の奥で生まれた声は、ライの舌と口に邪魔されて正しい音にはならない。 だけれども、明らかに今までと違う色合いの声が、アリーナの口の端から漏れた。
熱を持った瞳が自分から離れてほっとしたはずなのに、口から漏れた残念そうな声色に、アリーナは自分でも驚く。そもそも、頭ではダメだと思っているはずなのに、さっきまでソファに縫い付けられていたはずのアリーナの腕は、ライから離れたくないとでも言うようにライにしがみついている。
ふ、とライが顔を緩めるのを見て我に返ったアリーナは、慌ててライから手を離す。
「さっき、結婚を承諾したでしょ」
アリーナは頷きたくなくて首を横にふる。
それを見て口角をあげたライに、アリーナは嫌な予感しかしない。
「体は素直なのに。」
また顔を近づけてきたライの顔を避けようとアリーナは顔を横に背ける。
でもライの動きは止まらずに、アリーナの首筋に顔を埋める。
「ひゃっ。」
アリーナの変な声が口から漏れる。
「やめて…。」
首筋をなめられたことなどもちろんないアリーナは、力が抜ける自分の体にどうにか意思を伝えようと頑張ってみるが、体はライに抱え込まれて抜け出せそうには全くない。
「体は喜んでいますよ」
クスリと笑われて、アリーナは羞恥に頬を染める。
「…副団長様…」
何とか逃れようとアリーナが言葉を発しかけると、その下唇をトントンとライが軽くたたく。
「ライ、ですよ。呼んで?」
「いえ、あの…私は処女なので…やめた方が…。」
呼んで、と言われたのを無視したのは、もちろんアリーナなりの意趣返しだ。そしてそれに続けたセリフは、百洗練目の騎士団副団長様の相手をするには処女では不足だろう、という遠回しのお断りの言葉だ。
26年も生きていれば、下世話な言葉も耳には入る。性に鷹揚なこの国の男たちの中には、処女を面倒だと言う輩も多い。処女を喜ぶのは一部のマニアだとも言われているくらいだ。閨の作法もこの国で求められる女子力の中に含まれているとかいないとか。
でも、アリーナのその言葉は、ライににっこりと笑われてしまった。
…処女も大丈夫なのか。軽い絶望がアリーナを襲う。
「私も童貞だから、お揃いだね」
軽い絶望に襲われていたせいで、アリーナはライが何を言ったのか、すぐには理解できなかった。
頭の中で“どうてい”という言葉を何度か変換して、ようやく正しいと思われる意味にたどり着いた時には、は? と間抜けな声が口から洩れただけとなった。
「信じられない」
ライの言葉に、アリーナは小刻みに頷く。何人もの女性と付き合ったはずのライが童貞なんて、誰が信じるだろうか。
「本当だよ? 見てみる?」
何をだ! アリーナは目を見開いた後、顔を染めた。
「ふふ。だから、心配しないで?」
何をだ!
「…あの、副団長様は30歳を超えていると聞いていますが…?」
なぜこの年まで童貞なのか。むしろなぜなのだ。ハイスペックイケメンのはずなのに。
不能なの? という言葉はアリーナでも流石に飲み込んだ。
「ライ、ですよ」
ライがアリーナの唇に軽く触れて音をさせる。
「…あの、何で童貞捨ててないんですか。不能ですか」
アリーナは何だかもうライ相手に気を遣う気は全くなくなった。何が、ちゅ、だ。こっちの意思を汲め。それ以外の罵りの言葉は、視線に載せた。
「ひどいな。…確かめてみるといい。」
妖艶な笑顔に、アリーナはぴきりと固まりかけて、何とか正気を保つ。
「…私は、結婚した相手としか契る気はありません」
性には鷹揚ではあるけれど、そう考える女性が一部にはいる。本人たちは、乙女だからと言って憚らないが、たった一人の王子様を待っているんだと言う。アリーナの場合は、単なる逃げの一手でしかないが。
面白そうにアリーナを見るライに、確かに口にしたのを思い出したアリーナは、思いっきり眉を寄せる。
「そう…言ったけど、いつ、そんな話になったの」
「さっき。それに了承したのはアリーナでしょ」
とろりと甘い視線を向けるライに、アリーナはひきつった笑みしか出ない。
「そんなつもりじゃなかった…。」
「ひどいな、私のお姫様は。イケナイ子だ。」
そう言いながらアリーナの体をなぞるライに、正気に戻ったアリーナは体を固くする。
「け…こんとか考えて…」
ない。というアリーナの最後の言葉は、またもやライの口に飲み込まれた。
さっきより更に熱を持った口付けは、さっきまではまだムズムズに近い感覚しかアリーナに引き起こさなかったはずなのに、さっきよりアリーナの体が熱を持ち体のいくつかの部分がなぜか主張してくる。…そのもどかしい感覚にアリーナは体のその部分をすり付けてしまう。
それに気付いたのか、ライがすり付けている一部であるアリーナの内股をすっと撫でた。
アリーナの喉の奥で生まれた声は、ライの舌と口に邪魔されて正しい音にはならない。 だけれども、明らかに今までと違う色合いの声が、アリーナの口の端から漏れた。
熱を持った瞳が自分から離れてほっとしたはずなのに、口から漏れた残念そうな声色に、アリーナは自分でも驚く。そもそも、頭ではダメだと思っているはずなのに、さっきまでソファに縫い付けられていたはずのアリーナの腕は、ライから離れたくないとでも言うようにライにしがみついている。
ふ、とライが顔を緩めるのを見て我に返ったアリーナは、慌ててライから手を離す。
「さっき、結婚を承諾したでしょ」
アリーナは頷きたくなくて首を横にふる。
それを見て口角をあげたライに、アリーナは嫌な予感しかしない。
「体は素直なのに。」
また顔を近づけてきたライの顔を避けようとアリーナは顔を横に背ける。
でもライの動きは止まらずに、アリーナの首筋に顔を埋める。
「ひゃっ。」
アリーナの変な声が口から漏れる。
「やめて…。」
首筋をなめられたことなどもちろんないアリーナは、力が抜ける自分の体にどうにか意思を伝えようと頑張ってみるが、体はライに抱え込まれて抜け出せそうには全くない。
「体は喜んでいますよ」
クスリと笑われて、アリーナは羞恥に頬を染める。
「…副団長様…」
何とか逃れようとアリーナが言葉を発しかけると、その下唇をトントンとライが軽くたたく。
「ライ、ですよ。呼んで?」
「いえ、あの…私は処女なので…やめた方が…。」
呼んで、と言われたのを無視したのは、もちろんアリーナなりの意趣返しだ。そしてそれに続けたセリフは、百洗練目の騎士団副団長様の相手をするには処女では不足だろう、という遠回しのお断りの言葉だ。
26年も生きていれば、下世話な言葉も耳には入る。性に鷹揚なこの国の男たちの中には、処女を面倒だと言う輩も多い。処女を喜ぶのは一部のマニアだとも言われているくらいだ。閨の作法もこの国で求められる女子力の中に含まれているとかいないとか。
でも、アリーナのその言葉は、ライににっこりと笑われてしまった。
…処女も大丈夫なのか。軽い絶望がアリーナを襲う。
「私も童貞だから、お揃いだね」
軽い絶望に襲われていたせいで、アリーナはライが何を言ったのか、すぐには理解できなかった。
頭の中で“どうてい”という言葉を何度か変換して、ようやく正しいと思われる意味にたどり着いた時には、は? と間抜けな声が口から洩れただけとなった。
「信じられない」
ライの言葉に、アリーナは小刻みに頷く。何人もの女性と付き合ったはずのライが童貞なんて、誰が信じるだろうか。
「本当だよ? 見てみる?」
何をだ! アリーナは目を見開いた後、顔を染めた。
「ふふ。だから、心配しないで?」
何をだ!
「…あの、副団長様は30歳を超えていると聞いていますが…?」
なぜこの年まで童貞なのか。むしろなぜなのだ。ハイスペックイケメンのはずなのに。
不能なの? という言葉はアリーナでも流石に飲み込んだ。
「ライ、ですよ」
ライがアリーナの唇に軽く触れて音をさせる。
「…あの、何で童貞捨ててないんですか。不能ですか」
アリーナは何だかもうライ相手に気を遣う気は全くなくなった。何が、ちゅ、だ。こっちの意思を汲め。それ以外の罵りの言葉は、視線に載せた。
「ひどいな。…確かめてみるといい。」
妖艶な笑顔に、アリーナはぴきりと固まりかけて、何とか正気を保つ。
「…私は、結婚した相手としか契る気はありません」
性には鷹揚ではあるけれど、そう考える女性が一部にはいる。本人たちは、乙女だからと言って憚らないが、たった一人の王子様を待っているんだと言う。アリーナの場合は、単なる逃げの一手でしかないが。
10
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
玉砕するつもりで、憧れの公爵令息さまに告白したところ、承諾どころかそのまま求婚されてしまいました。
石河 翠
恋愛
人一倍真面目でありながら、片付け下手で悩んでいるノーマ。彼女は思い出のあるものを捨てることができない性格だ。
ある時彼女は、寮の部屋の抜き打ち検査に訪れた公爵令息に、散らかり放題の自室を見られてしまう。恥ずかしさのあまり焦った彼女は、ながれで告白することに。
ところが公爵令息はノーマからの告白を受け入れたばかりか、求婚してくる始末。実は物への執着が乏しい彼には、物を捨てられない彼女こそ人間らしく思えていて……。
生真面目なくせになぜかダメ人間一歩手前なヒロインと、そんなヒロインを溺愛するようになる変わり者ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID3944887)をお借りしております。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる