【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花

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グリーン先生の質問

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「えーっと、だね」
 グリーンがアリスに向かって口を開く。
「はい。先生、何でしょうか?」
 アリスが首を傾げる。

「あのー、そのー、何と言うかだね……」
「ええ、先生、何ですか?」
 アリスが瞬きをする。
「あの、そのだね……」
「ええ……あの……先生。そろそろ言っていただいても良いですか?」

 アリスの言葉も当然だった。
 少なくともグリーンはこのやり取りを5分ほど続けている。
 グリーンは意を決したように、口を開く。
「アリス君は、卒業式のあいさつに立つことをどう思っているかな?」
 言葉選びを間違っちゃいけない。それしかグリーンの頭の中にはなかった。

「すばらしいと思いますわ」
 ニコニコとアリスに答えられて、グリーンは脱力する。
「そ、それは本音かな?」
 グリーンの表情は固い。

「ええ。本音ですわ、先生」
 ニッコリと笑うアリスに、ガクッとグリーンは肩を落とす。
「えーっと、先生どうされたんですか?」
 アリスが戸惑った表情になる。

「ほら、先生。アリスはやっぱり、嫌がってなんていないんです」
 ハースがアリスの隣でニッコリと笑う。
 目が死んだグリーンが顔を上げた。
「……本当、だな。……アリス君、ありがとう」
 トボトボとグリーンが教員室に戻って行く。

 首を傾げたアリスが、ハースを見る。
「今の、何?」
 ハースが肩をすくめた。
「さあ?」
 だが、アリスの目は半目になった。
「絶対嘘よ。一体、グリーン先生に、何て言ったの? 私がハースが卒業式の挨拶するのを嫌がってるとでも言ったの?」

 ハースは首を横にふった。
「まさか。そんなこと言ってないよ。ただ、グリーン先生がアリスに確かめたいことがあるって言うから、1度だけ質問を許したんだ」
 アリスが大きなため息をついた。
「一度って……だから、先生あんなに質問するのためらってたのね? 先生にヘンな質問されるわけないんだから、そんな変なこと言わないでほしいわ」

「だって……俺とアリスの時間が減るから」
 拗ねたようなハースに、アリスは首を横にふる。
「もうすぐ卒業で……結婚するんだから、ちょっとくらいいいでしょう?」
「……だって、仕事に行くってなると、アリスと一緒にいる時間が減るんだよ? 学院生の間くらい、できるだけ一緒に居たいよ」
 ハースの目が潤んでいる。
 アリスは呆れたような、気恥ずかしいような顔で肩をすくめた。

 アリスが卒業式の日、ハースと共に壇上に上がるのを知っているのは、ハースと、学院長、そしてグリーンの3人だけだ。
 当のアリスは、何も知らない。
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