【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花

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新入生への注意事項

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「いいか、新入生。この学院で気を付けることは5つ」
 校内を案内するマークが、恭しく新入生に告げる。
 新入生は、コクリと唾を飲みこむ。

「まず一つ」
 ためを作ったマークに、一体どんな厳しい掟が、と新入生は思った。
「ハースがメモを取っている時には、邪魔しない」
 へ? と新入生が首を傾げた。
「いいか、声を掛けたらだめだ。邪魔したら最後、どんな仕返しをされるかわからない!」
 力強く告げたマークに気おされて、新入生が頷いた。

「次に」
 ためを作ったマークに、新入生は気を取り直した。
「アリスに用事がある時は、ハースに許可を得ること」
 新入生は呆気に取られて、口がぽかんと空いた。
「いいか、アリスに直接声を掛けようとすると、かなり邪魔をされる。手っ取り早く話を通したいなら、ハースに許可を取った方が、早い!」
「はぁ」
 戸惑った新入生が曖昧に頷く。

「次に……」
「あの、先輩。その注意事項要らないと思うんです。他の説明してもらっても良いですか?」
 マークが目を見開く。
「お前、本気か?」
「ええ」
 新入生はマークのことをおかしい目で見ている。

「後で後悔してもいいのか?!」
 マークが新入生の肩をつかむ。
「ええ」
 新入生はきっと後悔することはあり得ないと頷いた。
「聞いた方が、後悔はないぞ?!」
「大丈夫です」
 むしろ聞いた方が後悔するだろうと、新入生は思った。

「お前の勇気、俺はしっかり見届ける!」
 マークがサムズアップした。
 新入生は苦笑するよりほかはなかった。
 後悔するようなことがあり得るわけがない。


 と、入学したばかりの頃、彼は思っていた。
 それが、間違いだったことを、彼は今学んでいる。
「アリス君のハンカチを、どこで盗んだのかな?」
 なぜ自分が先生に尋問されているのか。
 きっとハース先輩とアリス先輩に関する注意事項を最後まできちんと聞かなかったせいなのだと、彼は思うより他はなかった。

 今年の新入生への注意事項は、皆そうだったと聞いていたが、彼は今の今まで最後まで聞かなかったことを後悔したことはなかった。むしろ最後まで聞いた同級生たちを馬鹿にしていた。
 それは、間違いなく間違いだった。

 *彼はアリスのハンカチを拾ってしばらくアリスと和気あいあいと話をしていただけの1年生です
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