20 / 49
ハースからのプレゼント(幼少)
しおりを挟む
アリスが許して以降、ハースは毎日のようにデッセ侯爵家へ顔を出した。
ついでに、毎日何らかのプレゼントをくれる。
お金のかかるものではない。ハースの屋敷の庭で拾ったものや、摘んだ花など、かわいらしいプレゼントだ。
アリスの部屋の棚の上には、きれいな石や、形の面白い葉っぱや、貝殻などが並んでいる。それらは全てハースがアリスにプレゼントしたものだった。
今日もハースはプレゼントをもってやってきた。
一緒に来たお目付け役となっている使用人のグリスも、今日のプレゼントが何かは知らない。箱の中に入っている上に、ハースが教えてくれなかったからだ。
「かわいいから、アリスだけに見せるの」
とは、なんとも子供らしくて、グリスは微笑ましい気持ちでハースを見ていた。
グリスはハースが生まれてすぐの頃から侯爵家で働いている。
少しも子供らしいと思えないハースだったが、アリスと婚約が決まってからのハースは、子供らしい表情を見せるようになってきた。
その事に、グリスも、ハースの両親もホッとしていた。
「ねえ、アリス。目をつぶって」
ハースの言葉に、アリスが目をつぶった。
「今日のプレゼントはこれだよ」
ハースの手からアリスの手に、そっとプレゼントが置かれた。
何だかひんやりとしてネトっとしている感触に、アリスは目を首をかしげる。
何かが全く想像できなかった。
「アリス、目を開けていいよ」
ハースが告げると、アリスが目を開けた。次の瞬間、アリスの顔に何かがピタッとくっついた。冷たい、そしてどこか生臭いものだ。
「キャー!」
未知の物体に、アリスが叫んだ。
アリスの反応に、ハースがオロオロとする。
「アリス、アリス大丈夫だよ!」
ハースがアリスの顔についた何かをつかんだ。
「アリス、ほらカエルだよ。小さくてかわいいでしょう?」
ハースの顔は本気だ。
ハースの手に乗るカエルを見たアリスは、また叫んだ。
その反応に、ハースが驚く。本気でアリスも喜んでくれると思っていたのだ。
「いやだ! カエルどこかにやって!」
アリスは、小さな生き物が苦手だった。
「アリス、このあいだのカタツムリはかわいいって言ってたでしょ?」
だから、ハースはカエルもアリスが喜んでくれると思ったのだ。
「だって、キライって言うと、ハースが泣くんだもの!」
キライという言葉をアリスが言うだけで、ハースは泣き叫んだ。だから、幼心にキライという言葉を使わないようにしていたのだ。
「でも、カエルかわいいよ?」
泣きそうな顔でカエルをつき出したハースに、アリスは後ろに下がる。その目には、涙がたまっていて、いつ泣き出したとしてもおかしくはない。
「キライ! カエルも意地悪するハースもキライ!」
アリスが叫んだその次の瞬間、ハースの涙がボロボロとこぼれ落ちた。
そして、大きな泣き声が部屋に響いた。
そして、とうとうアリスも泣き始めた。
二人の子供の泣き声が、部屋にこだまする。
やれやれ、とその場にいるデッセ侯爵家の使用人たちとグリスは思う。
だが、大人たちはこの喧嘩に介入はしない。ただ見守るだけだ。
先に落ち着いたのは、アリスだった。いや、ハースは相変わらず泣き叫んでいて、アリスも我にかえるより他はなかったのだ。
「ハース、泣かないで」
自分もぐずぐずと泣きながらも、アリスはハースに声をかける。
「だってアリスがキライだって!」
ハースの泣き声が一段と大きくなった。
困った顔をしたアリスは、ハースの手の上から既に逃げ出し床の上を飛び回るカエルを見る。
やっぱり、好きになれそうにはない。
「カエルはキライだもの」
アリスが呟いたとたん、ハースの泣き声がピタッと止まる。
「それって、僕のことは好きってことだよね?」
涙でグシャグシャのハースが、アリスの手を握る。
「ええっと……」
アリスが言いよどむと、ハースの顔がまたくしゃりと歪む。
アリスはあわててうなずく。
「そうかも……しれない」
とたんに、ハースの顔は笑顔でいっぱいになる。アリスはここのところ、曖昧な表現の語彙が急激に増えた。
「僕たち相思相愛だね!」
二人の喧嘩のいつも通りの結末だった。
ついでに、毎日何らかのプレゼントをくれる。
お金のかかるものではない。ハースの屋敷の庭で拾ったものや、摘んだ花など、かわいらしいプレゼントだ。
アリスの部屋の棚の上には、きれいな石や、形の面白い葉っぱや、貝殻などが並んでいる。それらは全てハースがアリスにプレゼントしたものだった。
今日もハースはプレゼントをもってやってきた。
一緒に来たお目付け役となっている使用人のグリスも、今日のプレゼントが何かは知らない。箱の中に入っている上に、ハースが教えてくれなかったからだ。
「かわいいから、アリスだけに見せるの」
とは、なんとも子供らしくて、グリスは微笑ましい気持ちでハースを見ていた。
グリスはハースが生まれてすぐの頃から侯爵家で働いている。
少しも子供らしいと思えないハースだったが、アリスと婚約が決まってからのハースは、子供らしい表情を見せるようになってきた。
その事に、グリスも、ハースの両親もホッとしていた。
「ねえ、アリス。目をつぶって」
ハースの言葉に、アリスが目をつぶった。
「今日のプレゼントはこれだよ」
ハースの手からアリスの手に、そっとプレゼントが置かれた。
何だかひんやりとしてネトっとしている感触に、アリスは目を首をかしげる。
何かが全く想像できなかった。
「アリス、目を開けていいよ」
ハースが告げると、アリスが目を開けた。次の瞬間、アリスの顔に何かがピタッとくっついた。冷たい、そしてどこか生臭いものだ。
「キャー!」
未知の物体に、アリスが叫んだ。
アリスの反応に、ハースがオロオロとする。
「アリス、アリス大丈夫だよ!」
ハースがアリスの顔についた何かをつかんだ。
「アリス、ほらカエルだよ。小さくてかわいいでしょう?」
ハースの顔は本気だ。
ハースの手に乗るカエルを見たアリスは、また叫んだ。
その反応に、ハースが驚く。本気でアリスも喜んでくれると思っていたのだ。
「いやだ! カエルどこかにやって!」
アリスは、小さな生き物が苦手だった。
「アリス、このあいだのカタツムリはかわいいって言ってたでしょ?」
だから、ハースはカエルもアリスが喜んでくれると思ったのだ。
「だって、キライって言うと、ハースが泣くんだもの!」
キライという言葉をアリスが言うだけで、ハースは泣き叫んだ。だから、幼心にキライという言葉を使わないようにしていたのだ。
「でも、カエルかわいいよ?」
泣きそうな顔でカエルをつき出したハースに、アリスは後ろに下がる。その目には、涙がたまっていて、いつ泣き出したとしてもおかしくはない。
「キライ! カエルも意地悪するハースもキライ!」
アリスが叫んだその次の瞬間、ハースの涙がボロボロとこぼれ落ちた。
そして、大きな泣き声が部屋に響いた。
そして、とうとうアリスも泣き始めた。
二人の子供の泣き声が、部屋にこだまする。
やれやれ、とその場にいるデッセ侯爵家の使用人たちとグリスは思う。
だが、大人たちはこの喧嘩に介入はしない。ただ見守るだけだ。
先に落ち着いたのは、アリスだった。いや、ハースは相変わらず泣き叫んでいて、アリスも我にかえるより他はなかったのだ。
「ハース、泣かないで」
自分もぐずぐずと泣きながらも、アリスはハースに声をかける。
「だってアリスがキライだって!」
ハースの泣き声が一段と大きくなった。
困った顔をしたアリスは、ハースの手の上から既に逃げ出し床の上を飛び回るカエルを見る。
やっぱり、好きになれそうにはない。
「カエルはキライだもの」
アリスが呟いたとたん、ハースの泣き声がピタッと止まる。
「それって、僕のことは好きってことだよね?」
涙でグシャグシャのハースが、アリスの手を握る。
「ええっと……」
アリスが言いよどむと、ハースの顔がまたくしゃりと歪む。
アリスはあわててうなずく。
「そうかも……しれない」
とたんに、ハースの顔は笑顔でいっぱいになる。アリスはここのところ、曖昧な表現の語彙が急激に増えた。
「僕たち相思相愛だね!」
二人の喧嘩のいつも通りの結末だった。
13
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説

何やってんのヒロイン
ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。
自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。
始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・
それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。
そんな中とうとうヒロインが入学する年に。
・・・え、ヒロイン何してくれてんの?

他人の婚約者を誘惑せずにはいられない令嬢に目をつけられましたが、私の婚約者を馬鹿にし過ぎだと思います
珠宮さくら
恋愛
ニヴェス・カスティリオーネは婚約者ができたのだが、あまり嬉しくない状況で婚約することになった。
最初は、ニヴェスの妹との婚約者にどうかと言う話だったのだ。その子息が、ニヴェスより年下で妹との方が歳が近いからだった。
それなのに妹はある理由で婚約したくないと言っていて、それをフォローしたニヴェスが、その子息に気に入られて婚約することになったのだが……。

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。

光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

辺境伯と悪役令嬢の婚約破棄
六角
恋愛
レイナは王国一の美貌と才能を持つ令嬢だが、その高慢な態度から周囲からは悪役令嬢と呼ばれている。彼女は王太子との婚約者だったが、王太子が異世界から来た転生者であるヒロインに一目惚れしてしまい、婚約を破棄される。レイナは屈辱に耐えながらも、自分の人生をやり直そうと決意する。しかし、彼女の前に現れたのは、王国最北端の辺境伯領を治める冷酷な男、アルベルト伯爵だった。
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中

【完結】婚約破棄をして処刑エンドを回避したい悪役令嬢と婚約破棄を阻止したい王子の葛藤
彩伊
恋愛
乙女ゲームの世界へ転生したら、悪役令嬢になってしまいました。
処刑エンドを回避するべく、王子との婚約の全力破棄を狙っていきます!!!
”ちょっぴりおバカな悪役令嬢”と”素直になれない腹黒王子”の物語
※再掲 全10話
白丸は悪役令嬢視点
黒丸は王子視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる