17 / 49
行方不明
しおりを挟む
「アリスがいない!」
ハースの言葉に、教室に緊張感が走る。
クラスメイトたちは各々に目配せをして、何もなかったかのように、いつもと同じ行動をとる。
つまり、アリスバカスルーだ。
「誰か、アリスの居場所を知らないか?!」
こんなに焦っているハースは珍しい。手帳を落とした時くらいにしか見ない光景だ。
「教員室にでも行ったんじゃないのか」
マークが答える。
皆も、コクコクと頷いていて、異論を唱える人間は誰もいなかった。
──ハース以外は。
「今の時間、アリスが教員室に行くわけがないんだ。行くとしたらもっと前の時間か、もっと後の時間。今までの傾向からして、ありえない!」
クラスメイトは、アリスの行動パターンを知り尽くしているハースに、尊敬と、同じくらいの呆れの感情を持った。
「じゃあ、トイレじゃないか?」
「この時間には行かない」
クラスメイトは、詳細にトイレパターンを知っているハースに、反応しづらかった。
「アリスはどこに行ったんだ!?」
「荷物があるんだから、帰ってくるだろう」
ものすごく真っ当なことをマークが告げる。
だが、ハースに半目で見られた。
「今、どこにいるのか知りたいんだ!」
みんなが気まずそうに目配せをする。
「……もしかして、皆、アリスがどこにいるのか、知っているのかな?」
ハースの背中に、冷気が漂う。
ピキリ、と教室の空気が固まる。
クラスメイト達は、心の中で祈る。
早く!
皆の気持ちは、一緒だった。
ガラッ
ドアが開く音に、クラスメイト達は安堵した。
「あれ、ハースどうしたの?」
アリスがケリーと共に入って来た。
「……アリスこそ、どうして……」
冷気を消し去ったハースが、アリスの目の前まできて、首を傾げる。
アリスは制服ではなく、ドレスを着て着飾っていた。
「着飾ってる方が、ハースが喜ぶだろうって、みんなが」
ハースが教室を見回すと、みんなは目を逸らした。
「どうして?」
ハースの疑問に、アリスがクスリと笑う。
「自分の誕生日、忘れちゃった?」
「え、あー。まあ、アリスの誕生日じゃないから、どうでもいいと言うか……」
ハースは曖昧に返事をした。いままで、自分の誕生日にそれほどこだわりもなかった。ただ、アリスが祝ってくれることが嬉しいだけだったからだ。
「いつもいつも、興味がなさそうだから、今年はちょっと変わったことがしたいって思ったの」
アリスはドレスをつまんで礼をとった。
クラスメイト達が並んでいる机を動かして、教室の真ん中にスペースを作る。
「1曲踊っていただけますか?」
上目遣いのアリスに、ハースが照れる。
「勿論。俺以外にアリスのパートナーはあり得ないからね」
教室に曲が流れ始める。見れば、クラスメイトの一人がバイオリンを奏でていた。
教室の真ん中で、ハースにリードされてアリスが踊り始める。
二人の息は、当然のようにピッタリだった。
「ハース、誕生日おめでとう」
アリスが告げると、ハースの顔がほころぶ。
「こんな美しいアリスがもらえるなんて、すばらしい誕生日になったよ」
「私がプレゼントじゃないんだけど」
アリスが笑う。
「いや、俺にとっては、アリスが俺のために準備してくれて着飾ったりしてくれたっていうことが、一番のプレゼントだよ」
「ハースが生まれて来た日を、一緒に喜びたかったから」
アリスが微笑む。
と、ハースがアリスを突然横抱きにする。
「ちょっと、ハース! どうして?!」
「やっぱり、こんなに美しいアリスを他の人の目にできるだけ触れさせたくないんだ!」
教室に残されたクラスメイト達は、ある意味予想通りの行動をとったハースに呆れを通り越して、笑いがこみ上げてきた。
やはりハースは、ハースだった。
1曲踊ってハースを驚かすと言うアリスの案は、見事に失敗した。
だが、忘れられない誕生日にしたいというアリスの願いは、間違いなく成功しただろう。
ハースの言葉に、教室に緊張感が走る。
クラスメイトたちは各々に目配せをして、何もなかったかのように、いつもと同じ行動をとる。
つまり、アリスバカスルーだ。
「誰か、アリスの居場所を知らないか?!」
こんなに焦っているハースは珍しい。手帳を落とした時くらいにしか見ない光景だ。
「教員室にでも行ったんじゃないのか」
マークが答える。
皆も、コクコクと頷いていて、異論を唱える人間は誰もいなかった。
──ハース以外は。
「今の時間、アリスが教員室に行くわけがないんだ。行くとしたらもっと前の時間か、もっと後の時間。今までの傾向からして、ありえない!」
クラスメイトは、アリスの行動パターンを知り尽くしているハースに、尊敬と、同じくらいの呆れの感情を持った。
「じゃあ、トイレじゃないか?」
「この時間には行かない」
クラスメイトは、詳細にトイレパターンを知っているハースに、反応しづらかった。
「アリスはどこに行ったんだ!?」
「荷物があるんだから、帰ってくるだろう」
ものすごく真っ当なことをマークが告げる。
だが、ハースに半目で見られた。
「今、どこにいるのか知りたいんだ!」
みんなが気まずそうに目配せをする。
「……もしかして、皆、アリスがどこにいるのか、知っているのかな?」
ハースの背中に、冷気が漂う。
ピキリ、と教室の空気が固まる。
クラスメイト達は、心の中で祈る。
早く!
皆の気持ちは、一緒だった。
ガラッ
ドアが開く音に、クラスメイト達は安堵した。
「あれ、ハースどうしたの?」
アリスがケリーと共に入って来た。
「……アリスこそ、どうして……」
冷気を消し去ったハースが、アリスの目の前まできて、首を傾げる。
アリスは制服ではなく、ドレスを着て着飾っていた。
「着飾ってる方が、ハースが喜ぶだろうって、みんなが」
ハースが教室を見回すと、みんなは目を逸らした。
「どうして?」
ハースの疑問に、アリスがクスリと笑う。
「自分の誕生日、忘れちゃった?」
「え、あー。まあ、アリスの誕生日じゃないから、どうでもいいと言うか……」
ハースは曖昧に返事をした。いままで、自分の誕生日にそれほどこだわりもなかった。ただ、アリスが祝ってくれることが嬉しいだけだったからだ。
「いつもいつも、興味がなさそうだから、今年はちょっと変わったことがしたいって思ったの」
アリスはドレスをつまんで礼をとった。
クラスメイト達が並んでいる机を動かして、教室の真ん中にスペースを作る。
「1曲踊っていただけますか?」
上目遣いのアリスに、ハースが照れる。
「勿論。俺以外にアリスのパートナーはあり得ないからね」
教室に曲が流れ始める。見れば、クラスメイトの一人がバイオリンを奏でていた。
教室の真ん中で、ハースにリードされてアリスが踊り始める。
二人の息は、当然のようにピッタリだった。
「ハース、誕生日おめでとう」
アリスが告げると、ハースの顔がほころぶ。
「こんな美しいアリスがもらえるなんて、すばらしい誕生日になったよ」
「私がプレゼントじゃないんだけど」
アリスが笑う。
「いや、俺にとっては、アリスが俺のために準備してくれて着飾ったりしてくれたっていうことが、一番のプレゼントだよ」
「ハースが生まれて来た日を、一緒に喜びたかったから」
アリスが微笑む。
と、ハースがアリスを突然横抱きにする。
「ちょっと、ハース! どうして?!」
「やっぱり、こんなに美しいアリスを他の人の目にできるだけ触れさせたくないんだ!」
教室に残されたクラスメイト達は、ある意味予想通りの行動をとったハースに呆れを通り越して、笑いがこみ上げてきた。
やはりハースは、ハースだった。
1曲踊ってハースを驚かすと言うアリスの案は、見事に失敗した。
だが、忘れられない誕生日にしたいというアリスの願いは、間違いなく成功しただろう。
15
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説

10日後に婚約破棄される公爵令嬢
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。
「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」
これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)
くも
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」
王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。
ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。

侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

【改稿版】婚約破棄は私から
どくりんご
恋愛
ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。
乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!
婚約破棄は私から!
※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。
◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位
◆3/20 HOT6位
短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる