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「あ、今日はガイラス様のフラグが!」
 またつい、アンナは口にしてしまった。そして、目の前にいるハンセンにギロリとにらまれて、縮み上がる。
「貴婦人とは、心のうちを言葉にすることはないのです。しかも、男性の名前を口にするなどはしたない! 恥を知りなさい!」
 今日もハンセンの叱咤が飛ぶ。

 またやってしまった。アンナはシュンとなる。だが、37才までぼっち歴を積み上げてきた円には、早々独り言の癖が抜けるわけもなかった。
「今日のは、好感度がグンと上がるフラグなのに……」
 ついまた呟いた。ハンセンがカッと目を見開いたので、アンナは縮み上がった。
 円の推しはガイラスという、騎士団の家系の子息だった。細マッチョ。見目も美しい。それ以外誰を選べと言うのだ! と、ゲームの前で円は吠えていた。
 
 が、今は目の前のハンセンによって、円の行動は完全に阻害されている。ガイラスのフラグは今のところ全てスルーしている。
 なのに、ハンセンとのフラグは、折るどころかバッチリ回収して、そしてハンセンの厳しさがどんどん増している。
 ハンセンが本当に攻略対象だったのか、今となればアンナは疑問しかない。
 ただ、自分が少しずつ令嬢としてのマナーを身に付けていっているのだという自覚はあった。

 しかも、以前は他の令嬢たちから白い目で見られていたが、最近は失敗しても応援されることもあった。他の令嬢たちも、それはそれは厳しいハンセンとのマナー特訓を知っているからか、以前よりよほど失敗に対する周りの目は優しい気がした。
 それでも、アンナはマナーよりガイラスのフラグが気になって、ハンセンに怒られるはめになるのだが。

 アンナはガイラスの好感度をあげることもできず、目の前にいるハンセンの好感度など一つもあげられそうにもないし、このままいくと、バッドエンドに進みそうな気がしていた。
 残念ながらアンナは運が強いのか、バッドエンドを経験したことがない。ただ、気の向かない相手との結婚が待っているとかなんとかネットで読んだ気がする。
 
 気の向かない相手。ジジイの後妻、生理的に無理な相手、まさかの人外?
 考えるだけいやになって、アンナは考えるのをやめた。
 アンナにできることは、ガイラスの好感度を何とかあげることだけだ。
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