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使用人は気がつかないうちに若き伯爵に溺愛されている。
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「シャル、ほら次を下さい」
フーシェ・デイン伯爵の耳元で聴こえた声に、シャル・キアットはハッとする。
「申し訳ございません!」
おもむろにスプーンでスープをすくうと、そろそろとデインの口に運ぶ。シャルの体は小さいので、フーシェの近くに寄らなければ、フーシェにはスプーンを運ぶことができない。なので、二人は密着している。
「シャル、足りないよ」
フーシェの声に、シャルは戸惑いながら、口を開く。
「フーシェ様、あーん」
フーシェが、美しい顔で満足したように口を開く。
シャルはフーシェが飲み込むのを確認すると、次の一口をすくう。
「フーシェ様、あーん」
フーシェがうなずきながら口を開いた。
シャルは、一介の使用人である。
デイン伯爵家で働き始めたその日、若き伯爵のフーシェ・デインに粗相をしてしまった。
持っていったお茶を、フーシェの右腕にかけてしまったのだ。
大慌てのシャルに、フーシェは、静かながらも固い表情を見せ、シャルは即刻解雇も覚悟した。
だが、罰を与えると告げられ、右手が使えないから、身の回りの世話をするようにと告げられた。大した罰ではないとホッとしてたが、実は結構大変だった。
本当に、フーシェの右手の代わりをしないといけないのだ。
家では、四六時中フーシェのそばにいなければならない。食事、着替えの世話の他に、手紙を書くこともやらなければいけない。文字は書けてもそこまで美しい文字と言えなかったシャルには、家庭教師がつけられ、文字の特訓もさせられている。
そして、シャルが一番困っているのは、お風呂だ。フーシェの体をくまなく洗わなければいけないからだ。
しかも、フーシェは男性の大事なところを隠すこともない。いや、当然ではあるのだが、まだ処女であり、16のシャルには、少々ハードルが高いことだった。
そして、外に出れば、手の代わりとなるべくお茶会や夜会にまで同席させられている。もちろん、庶民のシャルは、マナーなど知らない。
だから、同席するためにマナーの勉強も重ねているし、ダンスの特訓までさせられている。
夜会ともなれば、一介の使用人には不相応と思えるドレスを身に付けるように言われ、フーシェのとなりに立ち、会話にも交じるために、貴族名鑑を覚えさせられている。
想像した以上に、フーシェの右手の代わりは大変だった。
「ねえ、シャル。今日はドレスの打ち合わせがあるからね」
フーシェのことばに、シャルが首をふる。
「フーシェ様! これ以上新しいドレスは不要です! もう、あのクローゼットにもドレスがいっぱいになってしまっています!」
シャルには、フーシェの隣の部屋が与えられ、与えられたドレスは、その部屋のクローゼットに詰め込まれている。
ただし、シャルの寝る場所は違う。
フーシェのベッドに寝ている。そうじゃないと困ると言われたからだ。
今のところ、ベッドに入ってからのフーシェに何かを頼まれたことはない。
「シャル、次のドレスは大切なお披露目のためのドレスだ。作らない訳にはいかないんだよ」
真面目な顔でそう言われてしまえば、シャルに拒否など出来ない。
「わかりました。フーシェ様」
「シャルには白いドレスがよく映えるだろうね」
フーシェのことばに、シャルは曖昧に頷いた。
「あの……でもそのドレスを使う前に、フーシェ様の右手は大丈夫になるのでは?」
「痛い痛い痛い痛い!」
フーシェが右腕を押さえる。
シャルはどうやらこの役目が、まだ終わりそうにもないことを理解した。
フーシェ・デイン伯爵の耳元で聴こえた声に、シャル・キアットはハッとする。
「申し訳ございません!」
おもむろにスプーンでスープをすくうと、そろそろとデインの口に運ぶ。シャルの体は小さいので、フーシェの近くに寄らなければ、フーシェにはスプーンを運ぶことができない。なので、二人は密着している。
「シャル、足りないよ」
フーシェの声に、シャルは戸惑いながら、口を開く。
「フーシェ様、あーん」
フーシェが、美しい顔で満足したように口を開く。
シャルはフーシェが飲み込むのを確認すると、次の一口をすくう。
「フーシェ様、あーん」
フーシェがうなずきながら口を開いた。
シャルは、一介の使用人である。
デイン伯爵家で働き始めたその日、若き伯爵のフーシェ・デインに粗相をしてしまった。
持っていったお茶を、フーシェの右腕にかけてしまったのだ。
大慌てのシャルに、フーシェは、静かながらも固い表情を見せ、シャルは即刻解雇も覚悟した。
だが、罰を与えると告げられ、右手が使えないから、身の回りの世話をするようにと告げられた。大した罰ではないとホッとしてたが、実は結構大変だった。
本当に、フーシェの右手の代わりをしないといけないのだ。
家では、四六時中フーシェのそばにいなければならない。食事、着替えの世話の他に、手紙を書くこともやらなければいけない。文字は書けてもそこまで美しい文字と言えなかったシャルには、家庭教師がつけられ、文字の特訓もさせられている。
そして、シャルが一番困っているのは、お風呂だ。フーシェの体をくまなく洗わなければいけないからだ。
しかも、フーシェは男性の大事なところを隠すこともない。いや、当然ではあるのだが、まだ処女であり、16のシャルには、少々ハードルが高いことだった。
そして、外に出れば、手の代わりとなるべくお茶会や夜会にまで同席させられている。もちろん、庶民のシャルは、マナーなど知らない。
だから、同席するためにマナーの勉強も重ねているし、ダンスの特訓までさせられている。
夜会ともなれば、一介の使用人には不相応と思えるドレスを身に付けるように言われ、フーシェのとなりに立ち、会話にも交じるために、貴族名鑑を覚えさせられている。
想像した以上に、フーシェの右手の代わりは大変だった。
「ねえ、シャル。今日はドレスの打ち合わせがあるからね」
フーシェのことばに、シャルが首をふる。
「フーシェ様! これ以上新しいドレスは不要です! もう、あのクローゼットにもドレスがいっぱいになってしまっています!」
シャルには、フーシェの隣の部屋が与えられ、与えられたドレスは、その部屋のクローゼットに詰め込まれている。
ただし、シャルの寝る場所は違う。
フーシェのベッドに寝ている。そうじゃないと困ると言われたからだ。
今のところ、ベッドに入ってからのフーシェに何かを頼まれたことはない。
「シャル、次のドレスは大切なお披露目のためのドレスだ。作らない訳にはいかないんだよ」
真面目な顔でそう言われてしまえば、シャルに拒否など出来ない。
「わかりました。フーシェ様」
「シャルには白いドレスがよく映えるだろうね」
フーシェのことばに、シャルは曖昧に頷いた。
「あの……でもそのドレスを使う前に、フーシェ様の右手は大丈夫になるのでは?」
「痛い痛い痛い痛い!」
フーシェが右腕を押さえる。
シャルはどうやらこの役目が、まだ終わりそうにもないことを理解した。
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