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 ざわめくきらびやかな空間が、急に静かになったみたいに感じられた。

「フェルナン・エドモンと申します。以後お見知りおきを」

 優雅に礼を取るフェルナン様に、私は固まる。
 フェルナン様の隣にいるのは、エドモン伯爵だ。
 その瞳は、似ている。
 だけど、フェルナン様は、間違いなくフェルナン・コルトーだったはずなのに?
 貴族名鑑でも、間違いなくコルトー伯爵の長男と記されていたはずだ。
 それに、エドモン伯爵家に、子供はいなかったはず。

「リヴィア、マナーを忘れてしまったかしら?」

 からかうようなアンリエット様の声に、慌ててカテシーを行う。

「リヴィア・ラクロワと申します」
「リヴィア嬢、一曲、よろしいですか?」
「はい」

 まるで夢みたいな心地で、フェルナン様に手を引かれて、フロアに足を進める。
 向き合って手を組んでも、まともにフェルナン様の顔が見れない。
 だって、信じられないから。

「リヴィア嬢?」
「あの……足を踏んでしまうかもしれません」

 そう言うのが、精一杯だった。
 実は、ダンスの実地は初めてだ。
 夏至祭でも、結局踊ることがなかったから。

「大丈夫。私に身を任せてくれればいい」

 安心する声に、私はコクリと頷いて、体を預けた。

「どうして、目を見て下さらないんです?」
「……現実だと、思えなくて」
「このために、頑張ったんですけどね。お願いです。私を見てくれませんか?」

 そろそろと顔を上げると、私の良く知ったフェルナン様の瞳があった。

「どうして、エドモン伯爵家に?」

 すぐに、疑問が湧き上がる。

「それは、簡単な話です。私の母は、エドモン伯爵家の人間だ。いずれ、私の弟が、エドモン伯爵を継ぐ予定だった。それを取り換えただけの話です」
「そんなこと、許されるのですか?」
「私も弟も、場所が違うとは言え、領地経営を学んでいたのは同じです。だから、大丈夫です」
「でも……」
「リヴィア嬢と会うために頑張ったんですが、この再会は嬉しくはなかったですか?」

 眉を下げるフェルナン様に、首を横に振る。
 涙が、零れる。
 そのまま、フェルナン様のリードに身を任せる。

 曲が止まると、フェルナン様が跪く。

「私の幸せは、リヴィア嬢の隣にあります。リヴィア嬢、どうか私の手を取ってくれませんか?」

 あの時は差し出せなかった手を、大きな手に重ねた。

 ~Fin.~
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