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 アンリエット様たちの求婚場面を見つめる女生徒たちは、うっとりとしているように見える。
 私みたいに誰かわからなくて挙動不審な人はいないから、皆誰だか知っているんだろう。

 私にわかるのは、先ほどあったマクシム殿下とペラジー様の予定調和的な求婚場面とは違うということだけ。
 周りの人たちが皆義務的に拍手をしていたのとは全然違う。
 二人のことを、心から祝福するように、自然に拍手が湧き出て来ていた。
 でも、私は手が動かなくて、拍手などできなかった。

「アンリエット様の幸せが手に入ったようですね」

 呆然とする私の隣に立ったのは、フェルナン様だった。

「アンリエット様の幸せ? あの方は、どなたなのですか?」

 困惑した私に、フェルナン様がクスリと笑う。

「リヴィア嬢がアンリエット様に夢中になっているときに、会場に入ってきて紹介されていたんだけどね。アントニー・バスチエ殿下だよ。どうやら、わざわざこのために我が国を訪れたようだね」
「バスチエって……隣の国の?」

 全くもって、話の展開が分からなかった。
 どうして唐突に、今まで登場してなかった人が現れるんだろう?
 これは、強制力がなくなった結果なのだろうか?

「そう。アントニー殿下は、バスチエ王国の第三王子。そして、アンリエット様の初恋の相手だ」

 そう言ってフェルナン様がアンリエット様を見つめる。
 私は我に返って慌てる。

「で、でも、フェルナン様の幸せは……」

 フェルナン様が私に向き直って、微笑む。

「私の幸せは、リヴィア嬢の隣にあります」

 フェルナン様が跪く。

「リヴィア嬢、どうか私の手を取ってくれませんか?」

 見上げてくるフェルナン様に、私は固まる。
 目の前のことが、現実とは思えなかった。

「リヴィア嬢、貴方の願いを聞いた時から、私の気持ちはあなたと共にあるのです」

 フェルナン様の幸せは、私と共に歩く未来、なんだろうか?

 固まっていた指が、ピクリと動く。
 フェルナン様が、その動きを目に入れて、また私をじっと見つめる。
 その目には、熱が込められているように見える。

 私は、ギュッと手を握り込んだ。

「申し訳ありません」

 私は頭を下げると、踵を返した。
 フェルナン様の顔は、見れなかった。
 滲んだ涙が零れないように、奥歯を噛みしめる。
 私に泣く資格など、ない。
 
 この国にいる限り、お父様との繋がりは切れない。
 きっとお父様は、コルトー伯爵家に多大な迷惑をかけるに違いない。
 
 フェルナン様の幸せに、最初から陰りは必要ない。
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