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18話目 助けられたからってロマンスは始まらない

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 ガストンは罵りながらジョシアに拘束されたまま外に出ていく。もうケイトはガストンの罵りに全く動揺しなかった。
「さあ、帰りましょう?」
 ミアの言葉に、ケイトは頷く。
「ミア様も、レイン様も、キャロライン様も、助けてくれて、ありがとうございます」
 差し伸べられた手を掴んで立とうとするが、腰が抜けてしまっていて、立ち上がれなかった。ケイトが困った表情で首を横にふると、ミアもレインもキャロラインも肩をすくめた。
「……仕方ない、呼んで来よう」
 キャロラインが外に出ていく。

「あの、他に誰かいるんですか?」
 ケイトの問いかけに、ミアとレインが頷いた。
「クリスが外に居るんだ」
 ケイトは驚きで目を見開く。
「どうして?」
 レインがくしゃくしゃの紙を広げる。
「クリスが、この紙を我々に見せてくれたんだ」
 あ、とケイトの声が漏れる。
 それは、ガストンに渡されたメモで、リズの家に捨ててきたはずのメモだった。

 ガン! とドアをけ破るように、クリスが部屋に入ってくる。
「ケイトさん! 大丈夫ですか?!」
 駆け寄るクリスに、ミアとレインが道を開ける。
「……何とか」
 クリスにも心配されていたこともあって気まずい気分でケイトはボソボソと答える。
 心配そうなクリスが、ケイトの全身を見つめてからホッと肩の力を抜いた。
「ケイトさんに何かあったら……あいつを許せないところだった」
 キャロラインが、ハッと息を吐いた。

「何もなくても殺しそうな勢いだっただろう。クリスがヒーローになり損ねたのは、感情を先走らせ過ぎたからだ。私がいたからよかったものの、ジョシアだけだったら、お前は命令など振り切って、あの男は今頃血だらけだっただろうな。あいつは大事な証人だ。殺すわけにはいかん」
「いえ、そんなことは!」
 首を振るクリスを、キャロラインはギロっと睨む。
「冷静さを欠くほどケイトを大事なのはわかった。だが、それは本当にケイトの為か?」
 クリスが唇を噛む。

「キャロライン様。それくらいにしてください。とりあえずケイトを屋敷へ。……こんなところにいつまでも置いておきたくはないわ」
 ミアの言葉に、キャロラインが頷いて、クリスを見た。クリスが固い顔でしゃがみ込む。
「……ケイトさん、私の首に手を回してもらっていいですか?」
 コクリ、とケイトが頷いて、そろそろとクリスの首に手を回すと、クリスは軽々とケイトを抱き上げた。
「大丈夫、ですか?」
 クリスがケイトの耳元で尋ねる。
「大丈夫」
 ケイトの返事を待っていたように、クリスが動き出した。

 ケイトに時間は分からなかったが、外は真っ暗だった。
「クリスありがとう。心配させてごめんね」
 小さな声で告げると、クリスが小さく首を横にふった。
「居場所を突き止めるのの役に立ったくらいだから」
 どうやらキャロラインに叱られたことが堪えているらしい。
「それだけで十分よ。……あのメモ、どうして捨てなかったの?」
 ケイトの質問に、クリスが息を吐く。
「ケイトさんが、最近思い悩んでいるみたいだし、あのメモを見る目が不安そうだったから心配になって、念のために」

「そうなの。駄目ね、顔に出やすくて」
 首を横にふるケイトを、クリスが心配そうにのぞき込む。
「駄目じゃないです。……むしろ、頼ってください」
「……そうね。結局、誰にも頼ろうとしなかったせいで、今回のことが起こってしまたんだものね」
 ケイトは誰にも迷惑をかけたくないと思っていた。だが、そのせいで結局色んな人を心配させてしまった。
「僕が未熟だから頼り切れないのかもしれないですけど……話を聞くくらいはできますから」

 ケイトは眉を下げるクリスに、首を振る。
「そんなこと思ってないわ。……ただ、私が頑固で、誰も頼れなかっただけよ。……これだけ心配してくれる人がいるのに、何も見ようとしてなかったのかもしれない」
 クリスが頷く。
「ええ。あなたのことを、これだけの人たちが心配してくれてます。リズも、ローズさんも、フォレスさんも心配していましたよ?」
「きっと、リズには怒られるわね」
 肩をすくめると、クリスが小さく頷く。
「当然です。……僕だって、本当は怒ってるんだ」
「うん。ゴメンナサイ」

 ケイトがクリスを見上げると、クリスが眉を下げた。
「ケイトさんを自分の手で助け出したかった。色んな怒りで我を忘れてしまって怒られてしまっただけになったけど」
 ケイトはしょんぼりするクリスが、何だかかわいく思えて微笑む。
「でも、あのメモのことを伝えてくれたから、あまり時間がたたないうちに、助けに来てもらえたんだと思うわ。十分よ」
「……せっかく、ヒーローになれるチャンスだったのに……」
「ヒーロー?」
「そう。……そしたら、ケイトさんが僕のこと好きになってくれるかもしれなかったのに」

 ケイトは首を振る。確かに、ケイトも助け出される前に、ロマンスのことを考えていた。だが実際には違った。
「そうだったら、レイン様とジョシアさんのこと好きになるってことになるわ?」
 少なくとも、ケイトは安堵はしたが、二人に恋心を抱くことはなかった。
「それは、困ります!」
「だから、そんなに都合よくロマンスは起こらないってことよ」
 ケイトが幼いころ聞いていた母親と父親のロマンスは、きっとケイトの思うことばかりだけじゃなかったのだ。
 タイミングよく助けてくれたからって、相手のことを好きになるわけではない。
 
 本当は危機的状況から脱したばかりなのに、そんなことを考えられている自分に、ケイトは驚く。
 少なくとも今の状況に安心している、そのことだけは間違いないことだった。
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