7 / 33
7話目 もし結婚するのであれば
しおりを挟む
「ケイト、クリスさんを盛大に振ったみたいね?」
お茶の用意をしていたら、ケイトはミアに話しかけられた。どこかで聞き耳をたてていた人間がいたのか、本人が誰かに話してしまったのか。どちらでも構いはしないが、翌日にはミアの耳にまで届いていることに呆れた。
「ミア様、説教ですか?」
「説教? どうして、そんなことを? 人の恋愛などその人の価値観で構わないじゃない。人がどうこう言う筋合いなんてないでしょ?」
ミアが首をかしげる。
「いえ。それを聞いて安心しました」
ケイトはホッと息をついた。
「でも、クリスさんバラの花束を用意してプロポーズしたんですって? ロマンチックよね」
ミアが両手を組んで遠くを見つめる。ミアの母親であるメリッサも、ロマンスを好む傾向があったが、それは娘であるミアにもしっかり受け継がれているらしい。
「あれはプロポーズではなかった、と思いますが」
ケイトが理解しているのは、お付き合い、という部分だけだ。
「あら。プロポーズとしても認めてもらえないなんて、クリスさんかわいそうに……」
ケイトは聞かなかったことにして、カップにお茶を注いだ。
「ねえ、ケイトは一体どんな人だったら、結婚してもいいと思えるの?」
予想外の内容に、危うくお茶をこぼしそうになる。
「ミア様。私は結婚いたしません、と申し上げているじゃないですか」
「あら。今サムフォード家の大事な事業は何かご存知?」
「ご令嬢の結婚相談所だと理解していますが」
「そう。結婚相談所なの。だから、参考までに聞かせてほしくって」
「結婚するつもりがないですから、特に希望などありません」
「……じゃあ、結婚したくないと思う相手のイメージを逆にして言ってみてくれない?」
結婚したくないと思う相手。
ケイトはすぐにその相手を思い浮かべた。もう顔などおぼろげにしか覚えていないが、嫌だったことはいくらでも思い出せる。
「きちんと真面目に働いている、自分勝手じゃない、優しい、暴力をふるわない、浮気をしない、相手を敬う……」
「……それならば、居そうな気がするわ」
ミアの言葉に、ケイトは首をふる。
「夢ばかりを語らない、嘘をつかない、自分の子供じゃなくても子供を愛せる、そして、スキンシップも性生活も一切必要としない」
言い切ったケイトはニッコリと笑う。
「そんな相手がいますでしょうか?」
「……最後ので一気にハードルが上がったわね。スキンシップもダメだって……それって夫婦って言えるのかしら?」
「ええ。ですから私には結婚は無理だと申し上げているじゃないですか」
「……そうね。確かに言ってたわ」
「ミア様はロマンスがお好きですけど、ロマンスは現実になったら、美味しくともなんともないんですよ。結婚は生活ですからね」
ケイトが首をふる。
「ひどく現実的なアドバイスね。……でも、そうね。結婚は現実的なのよね。……色んなことに目をつぶらないといけないのかしら?」
ミアのため息に、ケイトはハッとする。
「ミア様。何かを犠牲にして結婚を選ぶなんていけません」
ミアは以前から結婚を迫られている相手がいる。だが、ミアはそもそも乗り気ではなかったし、亡くなる前のサムフォード男爵も一度は退けた結婚の話だ。
本来なら考える必要のない話なのに、サムフォード男爵夫妻が亡くなったことで、ミアたちサムフォード家の兄弟は立場が変わってしまい、強気で断ることもできなくなっていた。
そして、客人の護衛役が大ケガをしてしまったことで、ミアはその責任を取らなくてはいけないんじゃないかと思っているのかも知れなかった。
「私だって何かを犠牲にするつもりはないわよ? ケイトは自分の恋愛には口出しされたくないのに、人のには口出しするのね?」
茶目っ気たっぷりに笑うミアに、ケイトはホッとする。
「ミア様のあのお相手は別です。使用人一同で反対申し上げます!」
「あら。使用人一同なの? それはそれですごいわね」
「冗談ではないですからね。もし嫁ぐとなったら、誰もついていきません」
「あら、それは大変ね」
クスクスと笑うミアに、ケイトは一礼をしてミアの部屋を辞した。
***
「ケイトさん、お友達になりましょう!」
ケイトが休みの日、サムフォード家に現れたのは、黄色いガーベラの花束を持ったクリスだった。
お茶の用意をしていたら、ケイトはミアに話しかけられた。どこかで聞き耳をたてていた人間がいたのか、本人が誰かに話してしまったのか。どちらでも構いはしないが、翌日にはミアの耳にまで届いていることに呆れた。
「ミア様、説教ですか?」
「説教? どうして、そんなことを? 人の恋愛などその人の価値観で構わないじゃない。人がどうこう言う筋合いなんてないでしょ?」
ミアが首をかしげる。
「いえ。それを聞いて安心しました」
ケイトはホッと息をついた。
「でも、クリスさんバラの花束を用意してプロポーズしたんですって? ロマンチックよね」
ミアが両手を組んで遠くを見つめる。ミアの母親であるメリッサも、ロマンスを好む傾向があったが、それは娘であるミアにもしっかり受け継がれているらしい。
「あれはプロポーズではなかった、と思いますが」
ケイトが理解しているのは、お付き合い、という部分だけだ。
「あら。プロポーズとしても認めてもらえないなんて、クリスさんかわいそうに……」
ケイトは聞かなかったことにして、カップにお茶を注いだ。
「ねえ、ケイトは一体どんな人だったら、結婚してもいいと思えるの?」
予想外の内容に、危うくお茶をこぼしそうになる。
「ミア様。私は結婚いたしません、と申し上げているじゃないですか」
「あら。今サムフォード家の大事な事業は何かご存知?」
「ご令嬢の結婚相談所だと理解していますが」
「そう。結婚相談所なの。だから、参考までに聞かせてほしくって」
「結婚するつもりがないですから、特に希望などありません」
「……じゃあ、結婚したくないと思う相手のイメージを逆にして言ってみてくれない?」
結婚したくないと思う相手。
ケイトはすぐにその相手を思い浮かべた。もう顔などおぼろげにしか覚えていないが、嫌だったことはいくらでも思い出せる。
「きちんと真面目に働いている、自分勝手じゃない、優しい、暴力をふるわない、浮気をしない、相手を敬う……」
「……それならば、居そうな気がするわ」
ミアの言葉に、ケイトは首をふる。
「夢ばかりを語らない、嘘をつかない、自分の子供じゃなくても子供を愛せる、そして、スキンシップも性生活も一切必要としない」
言い切ったケイトはニッコリと笑う。
「そんな相手がいますでしょうか?」
「……最後ので一気にハードルが上がったわね。スキンシップもダメだって……それって夫婦って言えるのかしら?」
「ええ。ですから私には結婚は無理だと申し上げているじゃないですか」
「……そうね。確かに言ってたわ」
「ミア様はロマンスがお好きですけど、ロマンスは現実になったら、美味しくともなんともないんですよ。結婚は生活ですからね」
ケイトが首をふる。
「ひどく現実的なアドバイスね。……でも、そうね。結婚は現実的なのよね。……色んなことに目をつぶらないといけないのかしら?」
ミアのため息に、ケイトはハッとする。
「ミア様。何かを犠牲にして結婚を選ぶなんていけません」
ミアは以前から結婚を迫られている相手がいる。だが、ミアはそもそも乗り気ではなかったし、亡くなる前のサムフォード男爵も一度は退けた結婚の話だ。
本来なら考える必要のない話なのに、サムフォード男爵夫妻が亡くなったことで、ミアたちサムフォード家の兄弟は立場が変わってしまい、強気で断ることもできなくなっていた。
そして、客人の護衛役が大ケガをしてしまったことで、ミアはその責任を取らなくてはいけないんじゃないかと思っているのかも知れなかった。
「私だって何かを犠牲にするつもりはないわよ? ケイトは自分の恋愛には口出しされたくないのに、人のには口出しするのね?」
茶目っ気たっぷりに笑うミアに、ケイトはホッとする。
「ミア様のあのお相手は別です。使用人一同で反対申し上げます!」
「あら。使用人一同なの? それはそれですごいわね」
「冗談ではないですからね。もし嫁ぐとなったら、誰もついていきません」
「あら、それは大変ね」
クスクスと笑うミアに、ケイトは一礼をしてミアの部屋を辞した。
***
「ケイトさん、お友達になりましょう!」
ケイトが休みの日、サムフォード家に現れたのは、黄色いガーベラの花束を持ったクリスだった。
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる