3 / 33
3話目 ありえない出来事
しおりを挟む
「妊娠、ですか?」
言われたことを繰り返しながら、ケイトは首をひねる。全く想像もしない言葉だったからだ。
「ええ。……姉が妊娠していまして、今ちょうど、ケイトさんと同じような様子を見せていまして……」
「いえ。そんなことは……」
否定しながら、ケイトは、あれ、と思う。ここしばらく月のものが来ていなかったのに気づいたからだ。仕事に夢中で気にもしていなかったが、確かに数か月月のものが来ていなかった。そして生憎、致した出来事も思い出した。まさかあの一晩の出来事で?、とケイトは思う。
「どうやら、断定はできないけれど可能性がありそうですね?」
ケイトはハッとして、フォレスを見る。
「いえ、ちょっと調子が悪いだけなんだと思うんです……」
「念の為お聞きしますが、もし結婚するとしたら、退職を考えていますか?」
ケイトはブンブンと首を横にふる。
「結婚の予定などありませんし、退職など考えていません!」
少なくとも、ケイトの知る使用人たちは、結婚すると仕事を辞めている。もし妊娠していたとしたら、このサムフォード家から離れないといけなくなる。そう考えるだけで、まだ確定もしていないのに、ケイトの不安が膨れだした。勿論、あの相手とどうこうなるような予定もないし、相手を探し出すつもりも、妊娠したからと相手に迫るつもりもなかった。
ケイトには身寄りがない。だからこそ、住み込みの仕事は助かっている。それに、給与も安定していて、生活には困ることがない。それに、サムフォード家で働くのは、ケイトにとっては天職だとも思っている。だが、それを全て取り上げられたら。
目の前が真っ暗になりそうだった。
「そう、ですか……。今まで、結婚しても続けた方はいないと聞いていますが……私としても、長年サムフォード家で働いてきた方が、結婚という節目で仕事を辞めてしまわれるのは、勿体ないと思うんです」
フォレスの言葉に、ケイトは光を見いだして、少しホッとする。
「結婚の予定はないと断言されていましたが……もし、身の回りで困ったことがあれば、ご相談ください。レイン様に相談しますから。……レイン様も、長年働いてきたケイトさんを放り出すようなことはしないと思いますよ?」
フォレスの言葉は優しくて、ケイトはうつむいた。きっとフォレスは全てを語らなくても、ケイトの状況を理解したらしい。
「とりあえず、今日は休んで、念のため病院へ行ってください。……クラム通りにいい病院があると聞いています」
ぼそりとそれだけ告げると、フォレスはケイトから離れていく。きっと産院を教えてくれたんだろうと、ケイトは思う。
もし子供が出来ていたら。ケイトはそっとお腹に触れる。今は何もわからない。
それに、単純に月のものが来ていないだけかもしれないのだ。きっとそうだと、病院から帰ってくる時にはホッとして月のものが始まるかもしれない、とすら思おうとした。
だが、明らかにいつもと違う体調に、ケイトは完全に思い込むことが出来なかった。
「ケイトさん、最近食欲ないけど、大丈夫? 今日も体調不良で仕事変わったって聞いたけど?」
心配そうに食堂で声を掛けてきたのは、10歳下のローズだった。ローズは面倒見の良いケイトになついているケイトにとってはかわいい後輩だった。
「ええ、大丈夫よ」
そう笑ってみせたものの、ケイトの心の中は不安だけが渦巻いていた。
訪ねて行った病院で、ケイトは妊娠していると診断された。月のものが来ないこと、吐き気があること、体温が高いこと。他の病気ではないのかとしつこく食い下がってみたが、何人もの子供を取り上げてきた産婆は、ケイトが妊娠していると断言した。
妊娠しているとなれば、生むしか選択肢はなかった。だが、これからの生活を思うと、不安しかなかった。
フォレスには、帰ってきてから真実を告げた。妊娠していること、結婚の予定はないこと、可能であればサムフォード家で働き続けたいこと。
フォレスはレインと相談すると言ってくれたが、ケイトが思うようにことが進むとは限らない。仕事を辞めなければならないかと思うと、それだけで不安は増幅した。子供を産んで、一人で子供を育てながらどうやって生活していけばいいのか、全く想像が出来なかったからだ。
「ケイトさん、本当に大丈夫?」
「ん、ごめん。最近疲れてるのかもしれない。もう部屋に戻るね?」
食べかけのトレイを持って、ケイトは席を立った。食欲など元々ないが、更に湧いてきそうにはなかった。
食堂を出ると、フォレスに肩を叩かれた。
「ケイトさん、レイン様がお呼びです」
ケイトの心臓がドクリと音を立てた。滲んでくる涙に、うつむく。
「はい」
「……そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。レイン様は、引きこもりではあったけど、悪い人じゃないでしょう?」
フォレスなりの冗談らしいと気付いて、ケイトは笑いきれもせず、苦笑して顔を上げた。
「……レイン様を馬鹿にしすぎです。あの方は、ちょっと怖がりなだけです」
フォレスが苦笑する。
「なるほど、怖がりか。確かにそうかもしれないね。でも、あの方の目は澄んでいる。そうだろ?」
フォレスの励ましに、ケイトはコクリと頷いた。
言われたことを繰り返しながら、ケイトは首をひねる。全く想像もしない言葉だったからだ。
「ええ。……姉が妊娠していまして、今ちょうど、ケイトさんと同じような様子を見せていまして……」
「いえ。そんなことは……」
否定しながら、ケイトは、あれ、と思う。ここしばらく月のものが来ていなかったのに気づいたからだ。仕事に夢中で気にもしていなかったが、確かに数か月月のものが来ていなかった。そして生憎、致した出来事も思い出した。まさかあの一晩の出来事で?、とケイトは思う。
「どうやら、断定はできないけれど可能性がありそうですね?」
ケイトはハッとして、フォレスを見る。
「いえ、ちょっと調子が悪いだけなんだと思うんです……」
「念の為お聞きしますが、もし結婚するとしたら、退職を考えていますか?」
ケイトはブンブンと首を横にふる。
「結婚の予定などありませんし、退職など考えていません!」
少なくとも、ケイトの知る使用人たちは、結婚すると仕事を辞めている。もし妊娠していたとしたら、このサムフォード家から離れないといけなくなる。そう考えるだけで、まだ確定もしていないのに、ケイトの不安が膨れだした。勿論、あの相手とどうこうなるような予定もないし、相手を探し出すつもりも、妊娠したからと相手に迫るつもりもなかった。
ケイトには身寄りがない。だからこそ、住み込みの仕事は助かっている。それに、給与も安定していて、生活には困ることがない。それに、サムフォード家で働くのは、ケイトにとっては天職だとも思っている。だが、それを全て取り上げられたら。
目の前が真っ暗になりそうだった。
「そう、ですか……。今まで、結婚しても続けた方はいないと聞いていますが……私としても、長年サムフォード家で働いてきた方が、結婚という節目で仕事を辞めてしまわれるのは、勿体ないと思うんです」
フォレスの言葉に、ケイトは光を見いだして、少しホッとする。
「結婚の予定はないと断言されていましたが……もし、身の回りで困ったことがあれば、ご相談ください。レイン様に相談しますから。……レイン様も、長年働いてきたケイトさんを放り出すようなことはしないと思いますよ?」
フォレスの言葉は優しくて、ケイトはうつむいた。きっとフォレスは全てを語らなくても、ケイトの状況を理解したらしい。
「とりあえず、今日は休んで、念のため病院へ行ってください。……クラム通りにいい病院があると聞いています」
ぼそりとそれだけ告げると、フォレスはケイトから離れていく。きっと産院を教えてくれたんだろうと、ケイトは思う。
もし子供が出来ていたら。ケイトはそっとお腹に触れる。今は何もわからない。
それに、単純に月のものが来ていないだけかもしれないのだ。きっとそうだと、病院から帰ってくる時にはホッとして月のものが始まるかもしれない、とすら思おうとした。
だが、明らかにいつもと違う体調に、ケイトは完全に思い込むことが出来なかった。
「ケイトさん、最近食欲ないけど、大丈夫? 今日も体調不良で仕事変わったって聞いたけど?」
心配そうに食堂で声を掛けてきたのは、10歳下のローズだった。ローズは面倒見の良いケイトになついているケイトにとってはかわいい後輩だった。
「ええ、大丈夫よ」
そう笑ってみせたものの、ケイトの心の中は不安だけが渦巻いていた。
訪ねて行った病院で、ケイトは妊娠していると診断された。月のものが来ないこと、吐き気があること、体温が高いこと。他の病気ではないのかとしつこく食い下がってみたが、何人もの子供を取り上げてきた産婆は、ケイトが妊娠していると断言した。
妊娠しているとなれば、生むしか選択肢はなかった。だが、これからの生活を思うと、不安しかなかった。
フォレスには、帰ってきてから真実を告げた。妊娠していること、結婚の予定はないこと、可能であればサムフォード家で働き続けたいこと。
フォレスはレインと相談すると言ってくれたが、ケイトが思うようにことが進むとは限らない。仕事を辞めなければならないかと思うと、それだけで不安は増幅した。子供を産んで、一人で子供を育てながらどうやって生活していけばいいのか、全く想像が出来なかったからだ。
「ケイトさん、本当に大丈夫?」
「ん、ごめん。最近疲れてるのかもしれない。もう部屋に戻るね?」
食べかけのトレイを持って、ケイトは席を立った。食欲など元々ないが、更に湧いてきそうにはなかった。
食堂を出ると、フォレスに肩を叩かれた。
「ケイトさん、レイン様がお呼びです」
ケイトの心臓がドクリと音を立てた。滲んでくる涙に、うつむく。
「はい」
「……そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。レイン様は、引きこもりではあったけど、悪い人じゃないでしょう?」
フォレスなりの冗談らしいと気付いて、ケイトは笑いきれもせず、苦笑して顔を上げた。
「……レイン様を馬鹿にしすぎです。あの方は、ちょっと怖がりなだけです」
フォレスが苦笑する。
「なるほど、怖がりか。確かにそうかもしれないね。でも、あの方の目は澄んでいる。そうだろ?」
フォレスの励ましに、ケイトはコクリと頷いた。
4
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
虐げられた私が姉の策略で結婚させられたら、スパダリ夫に溺愛され人生大逆転しました。
専業プウタ
恋愛
ミリア・カルマンは帝国唯一の公爵家の次女。高貴な皇族の血を引く紫色の瞳を持って生まれたワガママな姉の陰謀で、帝国一裕福でイケメンのレナード・アーデン侯爵と婚約することになる。父親であるカルマン公爵の指示のもと後継者としてアカデミーで必死に勉強してきて首席で卒業した。アカデミー時代からの恋人、サイラスもいる。公爵になる夢も恋人も諦められない。私の人生は私が決めるんだから、イケメンの婚約者になど屈しない。地位も名誉も美しさも備えた婚約者の弱みを握り、婚約を破棄する。そして、大好きな恋人と結婚してみせる。そう決意して婚約者と接しても、この婚約者一筋縄ではいかない。初対面のはずなのに、まるで自分を知っていたかのような振る舞い。ミリアは恋人を裏切りたくない、姉の思い通りになりたくないと思いつつも彼に惹かれてく気持ちが抑えられなくなっていく。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
【完結】うちの悪役令嬢はヒロインよりも愛らしい
らんか
恋愛
前世の記憶を思い出した今なら分かる。
ヒロインだからって、簡単に王子様を手に入れていいの?
婚約者である悪役令嬢は、幼い頃から王子妃になる為に、厳しい淑女教育を受けて、頑張ってきたのに。
そりゃ、高圧的な態度を取る悪役令嬢も悪いけど、断罪するほどの事はしていないでしょ。
しかも、孤独な悪役令嬢である彼女を誰も助けようとしない。
だから私は悪役令嬢の味方なると決めた。
ゲームのあらすじ無視ちゃいますが、問題ないよね?
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
私が生きていたことは秘密にしてください
月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。
見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。
「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる