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「完治して良かったです」
「ありがとう。大浦君も、もう痛みはない?」

 大浦君のハンドルを握る手を見つめる。

「ええ。大丈夫です」
「……ごめんね。巻き込んじゃって」
「もう謝らないって約束じゃないですか。そもそも、赤信号なのに突っ込んできた相手が悪いんですから」

 事故の原因は、私の不注意ではなかった。
 だから、謝らなくていいと、ずっと言われている。

「うん、ごめんね」
「ほら、また」
「ありがとう。ごめんね」
「また」

 ムッとする大浦君に、拗ねるティエリの姿を思い出して、クスリと笑いが漏れる。

「何で笑うんです?」
「ううん。……私たち、どうしてあの世界に行ってたのかな?」

 私たちがこの世界に戻ってきたのは、事故から数日後のことだった。
 この世界では、むこうのように数年もの時間は経っていなくて、その時間の経過の違いも、よくわかっていない。
 入院中、一度『ヴィダル学園の恋人』にログインしようとしたら、ゲームはサービス終了になっていた。
 だから、あの世界がどうしてあんな風になったのか、あの世界にどんな変化があったのかどうか、私にはもうわからない。

「どうしてなんでしょうね。だけど……あの世界に行ったから、こうやって沙耶と二人でいられてるので、もうそれでいいです」

 信号で止まった瞬間、優しい表情の大浦君に見つめられた。
 ドキリ、と心臓が鳴る。

「そう……だね」

 動き出した車に、流れていく景色に顔を向ける。

「沙耶、俺の家でいいですか?」

 前を見つめたままの大浦君の横顔に視線を向ける。

「……うん」
「やっぱり、どこか……」
「ううん。大浦君の家がいい」
「わかりました」

 静まり返った車内に、私の心臓の音が響いているような気持ちになる。

 

「ん」

 唇を奪われたまま、ソファーの背に縫い付けられる。
 大浦君の舌先が、そっと私の唇をノックする。
 応えるように舌を絡ませると、厚い舌がするりと私の口の中を撫でた。
 ぞくり、と熱が上がり、しがみつくように、大浦君の背中に手を回した。
 交わされる唾液が、甘く喉を通っていく。
 コクリ、と喉を鳴らすと、また新たな刺激が、私の喉を震わせた。

「んん……」

 しがみついた手に、力が入る。
 離れていく熱に瞼を開けると、いつもは優しい瞳が、強く私を見つめていた。

「沙耶、好きだ」
「私も……大浦君が好き」
「名前、呼んで」
「……天馬てんま、好き」

 私を見つめる瞳が細められる。

「俺の方が、もっと好きだよ」

 首筋を下りていく唇に、体が反応する。

「ぁん」

 しがみついていた手は、力をなくしたように滑り落ちた。

「かわいい」

 ぷちぷち、と胸元のボタンが外されて、期待に体が震える。
 ふるん、と胸が空気にさらされて、恥ずかしくなって胸を手で覆う。

「見せて」

 声は優しいのに、天馬の手は強引に私の腕を抑えた。

「綺麗だ」

 そっと添えられた手に、胸が形を変える。

「んん」

 手つきは優しいはずなのに、熱っぽい声が口から洩れる。
 触られるだけで感じるとか……思ったこともなかった。

「もっと……沙耶の声を聞かせて?」
「ぁあ」

 耳元で告げられた熱い吐息と同時に与えられた刺激に、体がびくりと反応する。

「これ、好き?」

 強くなった刺激に、縋るように私の手が触れた腕を掴む。

「……ダメっ」

 今まで感じたことのない感覚に、不安が押し寄せる。

「大丈夫。このまま、感じて」

 唇を塞がれて、拒否の言葉は大浦君の口の中に消える。
 天馬に与えられる刺激に、キュンとおなかの奥が熱くなる。
 まだそこにたどり着かない刺激がもどかしくて、太ももをすり合わせる。
 乞うように、天馬の舌に自分の舌を絡めた。
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